バンブーポテト戦役-8話くらい
前回↓
(これまでのあらすじ:バンブーエルフパンダ騎兵隊のルーキー、ツーズーは、色々あってポテサラエルフと昼食を取り、集落内を見て回る。その結果、どうやら戦争の発端は濡れ衣だったらしい! ポテサラエルフ酋長はバンブー氏族のために書簡を用意する。)
「ということで、できたゆ。ぽてちたちの集めた情報も入ってゆ。帰ってかや読むゆ」
ポテサラエルフ酋長はぽてぽてとした足取りで近づき、書簡をツーズーに手渡した。
「どうも。なら早いとこ族長に渡してくるわ」
「待つゆ。ぽてちたちかや一人使節を送ゆ。名前はヤヤモイ」
「ヤヤモイね」
「違ゆ、ヤヤモイ」
(ポテサラエルフの氏族はら行が発音できない。となると……)
「……ララモイね」
「うむゆ。門の前、ハムイノシシに乗っていゆ魔術師ゆ。さっき、バンブーの白黒い騎獣が起きたゆ。乗って帰え」
「かたじけない」
「よよしくたのむゆ」
かくしてバンブーの斥候は去る。ポテサラの酋長の胸中はこうであった。
(あえもバンブーの財産ゆ。ハムにすゆしたかった……。けどしてたや外交問題になったゆ……。今度平和になったら持ちかけゆ……)
酋長は、先祖代々伝わる食肉加工本を読むため、宝物庫に歩き出した。
◆竹◆芋◆
帰路。八割地点。そろそろ疎らに竹が生えている。
「……」「……」
ララモイは、驚くほど無口であった。何か話題を探そうとしている……というのは分かる。だが、そもそも二つの氏族には文化的に大きな隔たりがあり……どのようにすれば地雷を踏まずに済むか、考えているようであった。
ツーズーは、バンブーの中では比較的話せる方である。しかし、氏族として武人、沈黙を尊ぶ場面があることも知っている。さらに言えば、一緒に騎獣を並べ、同じ道を移動しているだけでも満足できる心を持っていた。
その沈黙は、不意に破られる。
ツーズーは突如バンブーブレードを抜き放ち、ララモイの前に躍り出る。一瞬遅れ、「カァン!」という音がした。
「無事か、ララモイ」
「な、何があったゆ?」
「不意打ちだ。お前を狙って矢が飛んできた。バンブー氏族ではない」
「暗殺かゆ。ぞっとしないゆ」
「……敵は三体。皆殺しにしていいか?」
「情報がほしゆ。後で拷問できればそれが良いゆ」
「アイ。伏せてろ」
二十メートル先に剣士、六十メートル先に弓使い。そして百メートル先に伝令が一体。全員隠れているつもりだが、気配までは消しきれていない。
そして初撃をいなしたことで、伝令が撤退しつつある。こいつを逃がすと敵に情報が渡るので先に潰す。
「アイアーイ!」バンブー魔法を行使。
「アガッ!? 鋼みてェなタケノコがーッ!?」成功。恐らく足の甲を貫き、地面に縫い付けた。剣士は動揺し振り返ったが、弓使いは動じず。彼らの中では弓使いだけが実戦に足るレベルだろうか。となると、脅すべきは覚悟の弱そうな剣士か伝令だな。
「カォン!」矢の二発目。ハムイノシシに当たるコースだったが、問題なく切り払う。剣士が立ち直り、こちらに突進してくる。ララモイがむにゃむにゃと呟いている。魔法であろう。
「アイ……アーイヤッ!」剣士の対応は任せることにした。勢いをつけ、バンブーブレードを……投げ放つ。
「ぐッ……」手応えあり。竹めいて真っ直ぐに飛行したバンブーブレードは、第三の矢をつがえる弓使いの心臓を過たず貫通し……その命を奪った。
「怪我はないか?」
「……大丈夫ゆ。ツーズー、なんか……とても映えゆ戦いだったゆ」
「照れるぜ。ララモイもナイスアシストだ」
……剣士は、ポテサラ魔法でぐずぐずになった地面に、首まで飲まれかかっていた。
◆竹◆芋◆
目の前にはヒューマンの死体が三つ。弓使いであった者からは無数のタケノコが生えており、さらに全身の皮膚をぐずぐずにされている。恐らくこれを拷問のタネとしたのだろう、残りの二人は途中で失禁してしまったようだ。幸いなのは、すべての情報を吐いた後、首を落とすという、彼らにしては珍しい慈悲をもって始末されたことくらいだろう。
「やっぱ濡れ衣だったな」
「ゆ」
彼らからもたらされた情報はこうだ。
一つ、襲撃者は、金目当てであり、傭兵くずれの盗賊である。
二つ、バンブーエルフ氏族とポテサラエルフ氏族は互いに潰し合ってくれたほうが都合がいい。詳しくは上しか知らないが、そうすれば莫大な報酬が得られるらしい。なのでバンブーの宝を盗み、罪をなすりつけた。
三つ。バンブーの宝を盗んだのは我ら盗賊。だが、売ってしまった。あまり高値はつかなかった。
「全くハラ立つぜ。バンブー氏族ナメてやがる」
「宝物、探しに行くゆ?」
「当たり前だろー? いや、アタシの判断することじゃないけどさ」
「……もし、そうなゆんだったら、ぽてちはついていくかもゆ」
「多分長い旅になるぜ? ララモイに耐えられるかな?」
「……さっさと集落に着くゆ。はよ。はよ」
「アイアイ」
気づけば、笹の間を縫って、満月の光が差し込んでいた。竹の密度が上がるに従い、光は行き場を失う。二人のエルフは闇に溶け、帰路を進んだ。
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