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「スクラムを組んで『民主主義のDX』を前に進めたい」:CEO・栗本拓幸インタビュー

2020年2月末にLiquitousが法人として登記されてから、早くも1年が経過しました。
このタイミングで、Liquitous・CEOの栗本拓幸に、Liquitousにかける思いや今後の見通しについて、話を聞きました。

Q1.Liquitousのミッション・ビジョンは何ですか?

私たちのミッションは、民主主義のデジタルフォーメーション(DX)を進めていくことで、『一人一人の影響力が発揮できる社会』をつくることです。

一人ひとりの影響力を発揮できる社会をつくるためには、一人ひとりが、声を上げる、意見をする、などといったことをより当たり前にすることが欠かせません。同時に、様々な組織やコミュニティで、よりしなやかな「集合知を生み出す合意形成・意思決定」をより普遍的にしていくことに取り組んでいます。

Q2.ミッション・ビジョンをもう少し詳しく教えてください

『民主主義のデジタルトランスフォーメーション(DX)』と謳うとおり、私たちLiquitousのキーワードは民主主義なんですね。私たちLiquitousの根本的な思いとしては、民主主義という合意形成・意思決定のための仕組みは、世の中のいろいろなところ、つまり、政治や行政の領域だけでなく、民間企業やサードセクター、あるいは学校や地域コミュニティなど、様々なところで実践できるだろうというふうに考えています。

-デジタルトランスフォーメーションは、最近のバズワードですね
私自身の考えとしては、デジタルトランスフォーメーションとは、「何かすでにあるものをデジタル化する」ということではなくて、「そもそものあるべき論」というものをしっかりとまず考えた上で、それを実際に、テクノロジーやデザインの力を使って具現化していくことが、デジタルトランスフォーメーションだと思うんですね。

また、私自身は、一人ひとりが何か声を上げ、意見を表明をした上で、対話・熟議をして全体の合意形成・意思決定を図っていく。言い方を変えれば、集合知を生み出し、それを合意形成・意思決定に生かそうという営みが民主主義だと思っています。

-背景にある思いを教えてください
そもそも私は、『「Society5.0」の到来によって、物理空間とサイバー空間の境界に揺らぎが生じている中で、物理空間とサイバー空間の双方に新たな仕掛けを作ることで、人々の間に新しい民主主義の形と連帯を生み出し、「新しい公共」を創出できないか?』という問いを持っています。

その上で、Liquitousが「民主主義のデジタルトランスフォーメーション」を掲げている背景にある思いは、大きく分けて3つあります。1つ目に、『あるべき論が問い直される』という観点から、民主主義が政治や行政の領域のみに限られたものではなく、他のセクターに更に広がって行って欲しい。『(領域として)面的に広げる』という意味で、今までとはまた違った形の民主主義を具現化したい。

2つ目として、デジタルの力を使うことで、民主主義にもとづいた意思決定・合意形成がより容易に行うことができるようになる可能性です。一人ひとりが意見を出す、そして、それを集約していくという営みは、やわらかく言えば「面倒くさい」、つまり、様々なコストもかかる(から、止めましょう)となってしまいかねません。私たちLiquitousは、デジタルの力を使い、コストの問題をクリアできると考えています。つまり、デジタルの力によって、民主主義という営みを行うハードルを下げていきたい、ということです。

今からお話する3つ目のこと、これは今まで提示した2つの事柄を実現していく先にあるものだと思います。それは、民主主義を実践できる領域を面的に広げ、同時に営み自体のコストを下げ、営みに関わる私たち一人ひとりの発想を変えていくことも、民主主義のデジタルトランスフォーメーションを進めていく意義の1つであると考えています。少なくとも、政治や行政の領域では、民主主義というシステムの課題や不信感が声高に叫ばれています。私自身は、そうした課題や不信感の中でよく耳にする「大衆に決めさせたら衆愚になる」などといった言説に疑問を呈したい。ともに社会に生きる人々に信頼を置くことができる社会にしていきたいと強く思っています。

Q3.Liquitousを会社として立ち上げた理由は?

私は、15歳の頃から、現在に至るまで「若者や市民の政治参画」に関心を持ってきました。例えば中高時代には、生徒会活動に取り組んでいたり、その後はロビイングやアドボカシー、政策研究・調査、選挙運動支援に取り組んだりと、言うなれば、「民主主義」に当事者意識を持って、動いてきました。

しかし、本来は、民主主義は全ての国民が当事者であるはずです。ただ、現状では、国民の多くが民主主義に対して、当事者意識を持っている状態とは言えないでしょう。ただ、本当は民主主義に可能性があるはずです。多様な意見を持っている人たちが集まって自由に意見を言う、声を上げる。そして、対話と熟議を積み重ねて、集合知を創り、意思決定をしていく。これには可能性があるなと思っています。

ただ、可能性を見出している一方で、"ポンっ"と民主主義を実践しましょうと言っても、なかなかできないじゃないですか。例えばロビイストのように、提言・説得するだけでも役不足でしょうし、システムやアプリケーションをつくるだけでも活用されずに終わってしまう。必要なことは、社会に対する提言・説得とシステム開発を同時並行的に、両軸で進めて行くことが大切です。大仰な言い方をすれば、Liquitousを通して、民主主義という社会システムを「更新する」ことに挑戦したい。起業・法人化という形を選んだ理由は、あくまでも手段に過ぎません。この瞬間には、年齢が理由で選挙に出ることもできませんからね(笑)。

Q4.やはり日本は、社会システムの「更新」に向けた動きが遅いでしょうか?

あくまでも私自身の意見ですが、「このままじゃダメだ」という危機感を持ってる人は多いですが、何かを変える推進力に繋がることが少ないと感じています。一方で、目の前で起こっている変化に対して、「(今の形が変わるから)これは問題だ」と言う人はとても多い印象です。

実は、変化そのものに慎重であること自体は、当然だと思っています。例えば、既に仕事をしていて生活がある人に対して、パッと現状から変化しましょうと言うことは、「生き死に」の話だから無謀かつ無茶な話です。実際問題、私自身、今までに様々な人々とお話をする機会をいただいてきました。「問題意識はあるけれど、今の構造の中で何も身動き取れないよね」と言ってる人はものすごい多いんです。

ただ、私自身は21歳。若輩者で無知な人間であることは、痛いほど認識しています。それでも、構造の中に入りきっていないからこそ、自分自身が社会システムを更新していく起爆剤になることができるのではないか。しがらみがないからこそ、民主主義を機能させる仕組みというものをしっかりと構想して打ち出していけるんじゃないのかなと、考えています。

Q5.しがらみがない強さ、とは?

今、世の中には、大雑把に言えば「変化しなければいけない」という謳い文句が溢れています。様々な問題があるということも指摘されている。その一方で、次を見据えて、「未来はこうあるべき」と構想する動きは、経済分野はともかく社会システムの分野では、あまり多くはみられません。

私は、本当にありがたい境遇にいます。高校生の頃から、18歳で大学に入ってからも、特に、政治とか行政領域に関連する人々が実数としては多かったですが、様々なセクターの人と関わる機会がありました。例えばロビイングやアドボカシーをしていると、あるいは中学校や高校で授業を展開しているとき、はたまた企業の中間管理職の皆様を対象に、新規事業開発を行う際のメンターを担当させていただいていると、皆さん口を揃えて「やっぱり現状維持だとまずいよね」と仰るんです。でも「変えられない」と。

もう、既存の構造の中にいるから、変えられないというふうになってしまっているんですね。いわば窪みがある状態です。Liquitousは、特に民主主義という社会の中の合意形成システムを更新する際の窪みを埋める役割を果たしていきたいと考えています。

Q6. Liquitousでは、具体的にどのような事業に取り組まれているのですか?

一人ひとりが意見を出し、対話・熟議を積み重ねて集合知をつくる営みは、特に次を見据えて、「未来はこうあるべき」と構想する時代にこそ、重要ではないでしょうか。

その構想が、より多くの人々が関わる、社会のグラウンドビジョンになるかもしれないためです。全員がその結論に納得する必要はないと思うし、現実問題それは不可能だと思います。ただ、そうであっても、より多く人々の洞察が、結論を出すための過程に入ってる方がいいと考えています。


そこでLiquitousでは事業の1つとして、さまざまな組織やコミュニティの中で、人々の声や意見により、民主主義に基づいたフィードバックで、プロジェクトに強い推進力を持たせるソフトウェア "Liqlid" を開発しています。既存の合意形成・意思決定の仕組みを取っ払うものではありません。何か新しいものを生み出す時に、民主主義に基づいた合意形成・意思決定ができるソフトウェアです。

Q7. 話し合いの場が "Liqlid" ということですか?

そうです。少し専門的な話で恐縮ですが、Liqlidの開発にあたって参考にしている考え方が3つあります。1つ目は液体民主主義、2つ目が二回路制デモクラシー。3つ目が熟議民主主義です。

『液体民主主義』とは何か。それは、自分たちの代表者を選んだ上で、彼ら/彼女らに全て委任をするという『間接民主主義』。そして、全ての示された命題について、自らが賛成や反対を表明する『直接民主主義』の2つが融合した考え方です。
基本的には全部の政策課題に関して一人一票で投票していくのだけれども、例えば自分があまり関心がない、あまり詳しくないテーマについて、自分の意見を他人に委任できる仕組みが液体民主主義の概要です。

2つ目に参考にしている『二回路制デモクラシー』というものは、ユルゲン・ハーバーマスというドイツの政治哲学者が提唱した理論です。
私の理解としては、「民主主義は、選挙を通して選ぶ議会だけではうまく機能しない。市民社会、つまり、地域の寄合やNPO、NGOなどが知見を溜めていき、積極的に議会(制民主主義)の回路に提供することで、正統性の高い議会制民主主義がより機能する」というものです。さまざまなセクターを構成する人々が、それぞれのセクターや、セクターを構成する組織・コミュニティの中で、自由に意見した上で、合意形成を積み重ねて行く。
つまり、それぞれの組織・コミュニティの中で、既存の意思決定・合意形成の仕組みとは違う合意形成の仕組みを作りつつ、同時に、一人ひとりの意見を出す仕組みによって、社会の中にある合意形成に対する、一人ひとりの影響力を高めていきたい、と言うことです。

3つ目にあげた熟議民主主義も大切な考え方です。なんらか課題について、いきなり「あなた方には投票権がありますから、投票してください」と投票させるのではなく、しっかりと情報を与えてそれに基づく熟議をして、合意形成・意思決定をしていきましょうという考え方です。

これら3つの要素を絡めた、合意形成・意思決定のためのシステムこそが、"Liqlid" というオンライン上の合意形成プラットフォームです。従って、"Liqlid"は、アイデアをブレインストーミングする場でもあり、話し合いをする場でもあり、投票する場でもあります。最終的には、一人ひとりがしっかりと声や意見を上げながらも、しっかりと意見を集約をしてしっかりと合意形成に繋がる、言い換えれば、意見の通り道の役割を果たすソフトウェアです。

Q8.なぜLiquitousという名前に?

あまり公にはしていないのですが、当初から名称を色々と考えていました。何か象徴的な名前にしたかったからです。もともと一番最初にプロジェクトベースで立ち上げた2018年秋段階では、「Project Ente」という名称でした。私の在籍をしている大学のキャンパスには、鴨池という、鴨が飛来する遊水池があります。ある日、鴨がバタバタと飛んできて着水して、悠々と湖面を泳いでいる鴨の姿を見ながら、ふと「喧々諤々に議論をしながらも、ちゃんと合意形成や意思決定に向けて着水をして、そのあとスイスイ進んでいくような仕組みがあればいいな」と思ったことがありました。

ここから着想を得て、色々な言語で鴨という単語の表現を見ていた時に、たまたまドイツ語での表現である"Ente"が目に止まりました。私にとってドイツは興味関心のある政治哲学者、例えば先ほど触れたハーバーマス、あるいはハンナ・アレント、遡ればイマヌエル・カントなどを輩出している国ですから、どこかで通ずるものがあったのかもしれません。

結果的に、Liquitousという名前は、「Project Ente」を開始してから大体2か月後、2018年12月に編み出したと記憶しています。旧石器時代にあった、石槍を飛ばすための骨角器という道具に由来して、アトラトルという名前もいいんじゃないかなど、いろいろ考えてはいたんですけど最終的にはLiquitousになりました。

Liquitousは、『Liquid(液体)』と『ubiquitous(ユビキタス)』を組み合わせた造語です。私たちが提供するソフトウェアが、液体のように形を変えながら、様々な組織・コミュニティに実装されてほしい。そして、普遍的になって遍在するようになって欲しい、という意味をこめています。特に、ユビキタスというのも大体2000年初頭ぐらいにそういった一人一台端末を実現するような構想を表す際によく用いられていた単語でしたので、ちょうど良い言葉を見つけた感覚がありました。

Q9.最近、液体民主主義というワードをあまり前に出さなくなりました。これにはどういう意図があるのでしょうか?

確かに、少し前までは液体民主主義という言葉を前に出していました。ただ、これはこれで葛藤があったのです。先ほど申し上げたように、参考にしている考え方は液体民主主義のほかにも2つ(2回路制デモクラシー・熟議民主主義)あるわけですから、液体民主主義ばかり前に出してしまうと、そこにどっちも引っ張られてしまう、液体民主主義という言葉を出してしまうと、私たちの言いたいことが、表現しきれないというもどかしさを感じていました。

加えて、法人を立ち上げ、様々な方とお話をする中で、液体民主主義という言葉を出すと、ギョッとされることが多かったのです。そもそも民主主義という言葉が堅い。そこに「液体」とくっついてしまうと、最早何が言いたいのかもよくわからない、って言われることが多々ありました。

言いたいことも伝えられないし、周りからもギョッとされるということで、液体民主主義って言葉にこだわらない方がいいと考えるようになりました。元々は、「液体民主主義の社会実装を通して民主主義のDXを推進し、一人ひとりの影響力を発揮できる社会をつくる」というミッションを掲げていましたが、今は「民主主義のDXを通して〜」と言葉をまとめて使うようにしています。

Q10.Liquitousのミッションとプロダクトの関係性とは?

冒頭で申し上げましたが、私たちLiquitousが取り組みたいことは、『一人ひとりの影響力が発揮できる社会をつくる』ことなんですね。

私はLiquitousに取り組む際に、「『社会』は個人個人、色々な組織やコミュニティーから構成されている。それらの集合体が社会だ」という立場に立っています。私、そしてLiquitousが目指しているものは、様々な組織やコミュニティの中で一人ひとりが意見を上げたり、声を出したりということが当たり前になっている。その上で、しなやかで "適度にスピーディーな" 合意形成や意思決定が行われる仕組みが存在している状態です。

仮に、いくら自由に声を挙げることができたとしても、挙げた声がどういう風に扱われているのか分からない「ブラックボックス状態」だとすれば、合意形成の仕組みとしての民主主義と改善するという観点からは、大きな意味はないと考えています。

また、Liquitousでは、1つ1つの合意形成・意思決定がどのように行われ、結論を得たか、情報が蓄積され、後から参照できることが、非常に重要だと考えています。過去の合意形成・意思決定の過程が、未来で参考になるかもしれない。一人の個人の役割の変化を観察できるかもしれない。何より、一人の人間だったら意見も変わることを当たり前に見ることができるようになるかもしれません。

こうした観点からも、私たちLiquitousが提供するオンライン上の合意形成プラットフォーム "Liqlid" には意味があると考えています。

Q11. 方法論と目的を明確に分けて考えていらっしゃる印象を持ちましたが、いかがでしょうか?

おっしゃる通りです。私たちLiquitousが目指しているものは、『一人ひとりの影響力を発揮できる社会をつくる』ことです。その方法論として、『民主主義のDX』があり、現在は具体的な策として『オンライン上の合意形成プラットフォームであるLiqlidの開発』に取り組んでいます。

私自身が、Liquitousが、何に対して責任を負っているかと問われれば、最終的には『一人ひとりの影響力が発揮できる社会をつくることに責任がある』と答えます。

Q12. 意見を出すことは重要ですが、結論が出ないことも困ります。どこで区切りをつけるべきですか?

私たちLiquitousの "Liqlid" は、自由に意見を出すだけのツールではありません。ツールとしては、合意形成・意思決定に向け、引力をゆるくかけつつ、様々なハードルの高さの合意形成プロセスに参画する仕掛けを設けています。

一言に、合意形成プロセスに参画すると言っても、自由に意見を言うこと、出てきたものに対してフィードバックすること、叩き台をもとに議論すること、自分の価値観や正義と照らし合わせて投票すること、投票にあたって他人に委任することなど、参画する方法は多種多様です。

Liquitousは、合意形成・意思決定に向け、様々な参画の方法を提供するソフトウェア "Liqlid" を開発し、 "Liqlid" が導入された組織・コミュニティで、構成する一人ひとりが、合意形成・意思決定に対して影響力を発揮できる機会を作っていきます、

Q13. インターネットを通した世論操作や匿名性について、様々な問題が提起されています。Liquitousはどのように対応していきますか?

非常に重要な問題だと認識しています。私たちのソフトウェア"Liqlid"上では、合意形成に向けて、様々な情報がやりとりされることになります。ただ、どのようにフェイクニュースやそれに類されるものを扱っていくか考える際に、フェイクを100%排除する仕組みは構築できないと、まず認めなければいけません。

1つの可能性として、"Liqlid"上の「フィードバックする」という機能に注目しています。仮に、フェイクニュースやそれに類される情報が投稿されたとしても、より多くの視点が入ることで、フェイクかもしれないという気づきを与える可能性があります。1つの組織やコミュニティにおいて、情報のやり取りの回数を増やすことで、情報の信頼性が相対化されます。「これはより確からしい」など、情報の相対性をつくることで、一定程度はフェイクには立ち向かうことができるのではないかと考えています。

- サービス上では、どのように「一人ひとり」であることを確かめるのでしょうか?
私たちLiquitousのミッション『一人ひとりが影響力を発揮できる〜』においても謳っている「一人ひとり」を、デジタル空間でどういう風に担保するか、お話したいと思います。

基本的な考え方として、私たちLiquitousが提供するサービス上では、ひとりあたり一個のアカウントしか持つことができません。今のところ『Liquitousアカウント』と呼んでいますが、本格的なサービスインの後に、アカウントを発行する際には、本人認証をしっかりかけていきます。そして、近い将来には、分散型IDサービスと連携することで、非中央集権的なデータ管理体制を整備します。


また、言うまでもなく、本人の明示的な許可がある場合に限りますが、私たちが提供するサービス上での記録を本人のアカウントと紐づけていきます。

例えば、"Liqlid" 上で、Aという人がいらっしゃるとします。"Liqlid"のとあるプロジェクト上で、Aさんが何か発言した時、「他のプロジェクトで、Aさんはこのような貢献をしましたよ」とか、「Aさんはこういう傾向の発言をすることが多いですよ」などと可視化をさせたり、外部の情報と紐づけて「日常的にこういうことを考えてる人ですよ」と見せていくことで、ただ単にオンラインのサービス上の1アカウントに留まることなく、現実世界の人格が過去の蓄積と直接的に紐付いた「超時間的な人格」を生み出す可能性もあるのではないかと考えています。

Q14. "Liqlid" の具体的な活用イメージを教えてください。

2021年度4月以降に実証実験を進める中で、具体的なユースケースを精緻化させていくことを前提としたコメントになりますが、私たちLiquitousが開発している "Liqlid" は、政治・行政領域のみならず、様々なセクターの組織・コミュニティでご活用いただけると考えています。

− 行政や政治の領域ではどのような活用をイメージしていますか?
現在、行政と住民の関係性は「サービス提供者と受益者」の関係であることが大半でした。そして、住民から行政に対するフィードバックは、基本的に数年に1度の選挙しかありません。もちろん、陳情やデモ活動などもフィードバックの方法としては存在しますが、必ずしも一般的な方法ではありません。

私たちLiquitousは、オンライン上の合意形成プラットフォーム"Liqlid"を自治体などにご活用いただくことで、行政と住民の接点を強化し、住民から行政に対するフィードバック機能を強化すると同時に、行政側から住民に対して、積極的に提案をすることなどが可能になります。


つまり、”Liqlid”を活用して、民主主義の「回路」を生み出し、政策形成プロセスへ「住民と行政の対話」を入れ込む。行政と住民、場合によっては地域企業やNPO関係者も交え、対話的にまちづくりを担う「新しい公共」を実現するための仕掛けが、"Liqlid"ということになります。

− そのほかの領域ではいかがですか?
例えば、オープンイノベーションを推進している企業では、社内の新規事業開発のツールとして、あるいは産官学連携をキーワードとする研究施設、インキュベーション施設の中で、新しいものを生み出すためのツールとしてもご活用いただけるのではないかと考えています。

最近は、D2C(Direct To Customer)がホットワードになっています。企業が小売店を介さず、自社ECサイトを通して直接顧客に自社製品を販売するスタイルが、1つの当たり前になりつつあります。顧客のニーズをしっかりとつかむために、密なコミュニケーションが欠かせなくなっているということです。その際に、方法の1つとして、私たちLiquitousが提供する"Liqlid"をご活用いただき、例えば製品のプロトタイプに対して、どうフィードバックがあるか、綿密なやり取りを実現できます。

あるいは、新しい組織の形として、社内に階級や役職などが存在せずフラットで、組織としての合意形成・意思決定が分散的に行われる『ホラクラシー型』の組織形態を採用している企業やNPOが現れています。また、ブロックチェーンの技術を活用して、自律分散型で経営を行う組織である"Decentralized Autonomous Organization(DAO)"も出現しています。DAOについては、米国・ワイオミング州で企業として認定する法案が州議会を通過しようとしています(2021年3月12日現在)。こうした組織体においても、合意形成・意思決定の仕組みとして "Liqlid" をご活用いただけると考えています。


また、法的な課題もありますが、マンションの管理組合におけるユースケースも検討しています。弊社には開発チームとは別に『政策企画部門』というチームが存在します。政策企画部門は、ユースケースの検討にあたって、法的な課題なども併せて検討しながら、実際のご活用事例をご提案してまいります。

Q15. Liquitousはどのようなチームでありたいですか?今後のスケジュール感も併せて教えてください。

Liquitousのメンバーは学生が大半ですが、私たち自身は学生であるということを意識することなく、プロたらんという意識を持って取り組んでいます。それは、私たちが実現しようとしていることはとても大掛かりものですが、私たちがやらねばならないと考えているためです。

だからこそ、メンバー1人1人がそれぞれのポジションから、Liquitousのミッションを達成するために必要だと考えることに取り組むことが大切です。言うまでもなく、1つの組織として、議論すべきことは正面から議論して、しっかりと風通しよく話をしているチームでありたいとも考えています。


個人的には、チームのチーフとして、1人1人の取り組みをいい塩梅に繋げていく、Liquitousのミッションを達成するコーディネーターとしての役割を果たすことで、チームの発展に寄与していきたいと考えています。

今後のスケジュール感についてお話したいと思います。
2021年度の4月中旬頃から、様々なセクターの組織・コミュニティの皆様と実証実験を開始します。実証実験では、弊社が開発する"Liqlid"の具体的なユースケースの検証を行いつつ、「一人ひとりの影響力が発揮できる組織・コミュニティ」をつくるために、Liquitousとしてできること、他組織の皆様と協働できることを模索して参ります。


今後とも、Liquitousを応援してくだされば幸いですし、規模感を問わず、「Liquitousと、一緒にできるのではないか」といったご提案があれば、巻き込み、巻き込まれていきたいと考えています。Liquitousはベンチャー集団ではありますが、「民主主義のDX」を通して「一人ひとりの影響力を発揮できる社会」を実現するために、様々な組織やコミュニティの皆さんとスクラムを組んで、歩みを前に進めていきます。

(聞き手:琴浦将貴 / 語り手:栗本拓幸)