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【自治体職員インタビュー#1】神奈川県鎌倉市

実施日:2023年9月28日(木)
インタビュイー:鎌倉市政策創造課 勝勇樹様 松村隆介様
インタビュアー:Liquitous 政策企画 藤井海


導入前について

市民参加型合意形成プラットフォーム”Liqlid”に関心をもった背景

藤井:本日はよろしくお願いいたします。まずは、我々と初めて接点を持ったところからプラットフォームを導入するまでの中で、市民参加型合意形成プラットフォーム”Liqlid”を導入するに至った経緯をお伺いできればと思います。

勝さん:市民参加型共創プラットフォーム(=市民参加型合意形成プラットフォーム”Liqlid”)に関心を持ったのは、スマートシティ構想を作る段階の市民対話の中で「課題をみんなで見えるようにして、それをみんなで解決していく」というフレーズが出てきたことがきっかけでした。


鎌倉市 勝さん

この「課題を見える化して、みんなで解決する」というフレーズは現在のスマートシティ構想にも落とし込まれ、一つのコンセプトになっています。そして、このコンセプトを体現する手段として「意見や課題を可視化する」ツールが必要になるのではないかと考え、探し始めました。同時に、スマートシティ官民研究会でコンソーシアムの民間企業の方からいろいろと提案を受けてる中で、”Decidim”やLiquitousさんの”Liqlid”を知ったというのが、市民参加型合意形成プラットフォームに関心を持った背景とLiquitousさんとの最初の接点だったかと思います。

導入前、市民参加型共創プラットフォーム”Liqlid”に期待していたこと

藤井:プラットフォームを導入する以前、市民参加型共創プラットフォームには、どのような役割を期待していたのでしょうか。

勝さん:これまでの政策作りの中では、パブリックコメントやアンケートなど、一方通行とまでは言わないまでも、市民の声を行政がどう受け止め政策が作られているのかのプロセスがやや見えづらかった部分があると考えています。これをもう少し柔らかい段階から市民の意見を広く集め、まとめていきながら政策を作っていくことが大事なのかなというイメージがありましたので、プロセスをうまく可視化しながら市民の皆さんの意見を集め、まとめることができるといった役割を期待していました。

導入を検討する際に意識していたこと

藤井:プラットフォームの導入を検討する際に特に意識していたことはありますか。

勝さん:ツールの設計(UI・UX)と導入後のサポート内容は特に意識していました。Liqlidの他にも同様のツールが存在していることは把握していましたが、欧州発のツールであるということもあり、日本人が使うことに対して寄り添った設計(UI・UX)になっているのかという部分に若干疑問がありました。加えて、オープンソースであることから、どのベンダーでも構築自体は可能な一方、構築した後の具体的な活用方法に関して的確なサポートが得られるかという点は懸念材料の一つでした。

その点、Liquitousさんはツールを提供するだけではなく、仕組みそのものを行政と一緒に創ろうとしていただいており、特にオンラインと対面の組み合わせの設計などに対して果敢にチャレンジをしていく姿勢が良く汲み取れたので、我々が望んでいるものと方向性が一致するのかなとは感じました。

運用中について

プラットフォームを導入して得た気づき

藤井:ありがとうございます。実際に西鎌倉地域で一定期間試験運用したことで新たに気づきを得たり、学ぶ部分も多かったのではないかと思います。この点、お伺いできますでしょうか。

知ってもらうことと、意見を言いたいと思ってもらうことの重要性

松村さん:ツールを導入したからといって意見が簡単に集まってくるものではなく、より多くの市民の皆さんから意見やアイデアを集める工夫は、市役所が主体的に行っていかなければいけないと考えています。

また、プラットフォームを導入する際に重要なことが二つあると考えています。一つは「プラットフォームを知ってもらうこと」、もう一つは「プラットフォームに意見を言ってみたいと思ってもらうこと」です。意見を募集する際には、問いかけの内容や、プラットフォームに掲載する情報の見せ方、意見を募集する理由、意見がどう反映されるのか、といった情報を市役所が最初に見せることが、結果的に市民の皆さんがプラットフォームに参加する動機に繋がると考えています。また、実際に運用することでプラットフォームの広報周知の難しさも感じています。


鎌倉市 松村さん

藤井:導入後に意識した「プラットフォームについて知ってもらうこと」と、「取り組みに参加する動機(意見を言う動機)を持ってもらうこと」の二つのポイントについて詳しくお伺いしたいと思います。

まず、一つ目に挙げられていた「プラットフォームについて知ってもらう」部分について、具体的にはどのような周知をされたのでしょうか。

プラットフォームについて知ってもらうこと

”地上戦”と”空中戦”での広報周知

松村さん:広報周知の取り組みは大きく二つに分かれています。一つは、メールやSNS、PR動画などで、大人数に対して広く呼びかける”空中戦”。

ただし、取り組みについて知ってもらうだけでは、その地域で元々取り組んでいた方や、市役所の取り組みに興味関心を持って下さっていた方が参加してくれますが、そうでない方が参加するまでには至らないケースが多いと考えています。

ですので、そういった層に対しては、”地上戦”として、地域で活動されている方や、NPOセンターで活動されている方に協力してもらうなど、地域や個人の繋がりを活用しながら人伝で広げていってもらっています。


藤井:実際、地上戦・空中戦の効果はありましたか?

松村さん:ワークショップのアンケート結果を見ても、SNSやPR動画から取り組みを知ってご参加してくださる方も一定数いますし、既存のコミュニティから参加してくださる方もいるので、両方とも効果はあったと考えています。ただ、既存のコミュニティ経由での参加が多い傾向にあるので、SNSなどの周知からも参加者を集められるようにする必要があると考えています。

参考:取り組みPR動画

取り組みに参加する動機(意見を言う動機)を持ってもらうこと

藤井:ありがとうございます。では次に、二つ目の「取り組みに参加する動機(意見を言う動機)を持ってもらうこと」について詳しくお伺いしたいと思います。市民の皆さんに「この取り組みに参加したい」と思ってもらうような動機づけに関して、具体的にどのような工夫をされたのでしょうか。

松村さん:意識した部分が二つあります。一つは、”鎌倉市がなぜ意見を求めてるのか”という理由を明確にすること。二つ目は、”意見がどこにどう反映されるのか”を明示することです。市民の皆さんに参加していただく以上、取り組みの目的や経緯などの情報を示すことで市の意図を知ってもらうことが重要だと考えているので、この二点を意識しました。その上で、市民の皆さんの意見がどのように反映されていくのかを明確に出すことが、信頼とまでは言えないかもしれませんが、市民の皆さんが参加する動機に繋がると考えています。

というのも、プラットフォーム上で複数の問いかけを定期的に投げかけながら取り組みを進めてきた中で、次の問いかけに移るまでに少し期間が空いたときがありました。その際に、プラットフォーム上に何も動きがない状態が続くと投稿頻度も減る傾向にあることがわかったんです。ですので、継続的にプラットフォームを動かしながらしっかりと背景情報と意見がどのように反映されていくのかのプロセスを見せていくことが大切だと考えています。

Liqlidでの情報提供

特徴的な点:オンラインと対面を組み合わせた取り組み

藤井:もう一つ鎌倉市での取り組みの中の特徴的なのは、プラットフォーム上だけで取り組みを進めるのではなく、対面のワークショップと組み合わせながら取り組んでいる点だと考えています。これはどういった目的、意図があるのでしょうか。

オンラインプラットフォームの強み・必要性

松村さん:導入前にプラットフォームの強みを「公平性」「多様性」「透明性」の3つに整理しました。時間や場所に関係なく、多様な意見を広く集められる(=発散)点がプラットフォームの強みである一方、意見をまとめ、具体的なプロジェクトを作る段階(=収束)については、ノウハウが確立していない現段階では難しいと考えていました。ですので、対面のワークショップも並行して開催し、深い議論や活発な意見交換は対面の場で実施することで、オンラインと対面のお互いの強みと弱みを相互に補完する形で取り組みを設計していきました。

オンラインプラットフォームと対面ワークショップの参加者層について

藤井:オンライン(=プラットフォーム)で参加されている方と、対面ワークショプに参加されている方の属性など、参加者層には何か違いは見られましたか。

松村さん:参加者層で言うと、プラットフォームでは30代から50代が約半数を占めています。一方で対面のワークショップは現役で働いてる世代や、子育て世代、学生さんが参加しづらく、比較的ご高齢の方が参加する傾向にあります。ですので、プラットフォームを活用することで、対面だけで取り組むよりも幅広い属性の方々に参加いただけていると考えています。

藤井:オンラインだと場所や時間に制約がないので、より参加しやすくなっているのではないかということですね。

松村さん:そうですね。ですので、例えばプラットフォーム上に子育てに関する意見が多く出ている中で対面ワークショップをやってみると、対面ワークショップには子育てに関する課題意識を持っている人が少ないなど、オンラインと対面の参加者の関心テーマにギャップが見られるケースも出てきました。

藤井:オンラインでは子育てに関する意見が多かった一方で、対面ではそうした課題に関心が集まらなかったという一例について、具体的にどういった事象が見られたのでしょうか。

松村さん:プラットフォームで「出かけたくなる”目的”の充実と”手段”の充実」に関する意見の募集をした際、鎌倉は大きな公園が多くないこともあり、プラットフォーム上には”子供が遊べる場所”に関する多くの意見が出ていました。そして、対面のワークショップで、プラットフォーム上に出てきた意見をもとに我々が検討したいくつかの解決策に投票をしてもらったのですが、子供の居場所や子供が遊べる場所に関する解決策には票が一つも入らなかったんです。

我々はプラットフォームにワークショップの結果をそのまま反映しているので、投票結果も同様にプラットフォーム上に掲載したのですが、次の問いかけに移って意見を募集したときに、「オンラインプラットフォームではすごい子供に関する課題が盛り上がったのに、ワークショップではみんなが関心を持ってくれてなくてちょっとショックでした。」という意見が出てきたりしました。

対面とオンラインでの参加者属性の差異

藤井:対面の参加者層の傾向とオンラインの参加者層の傾向、それぞれの関心が分かれているからこそ起きたことなのでしょうか。

松村さん:色々な方が入ってるからこそというのと、やはりオンラインと対面で参加する方の年齢層が若干違うということが明確になったのかと考えています。

オンラインプラットフォームに対する市民の反応

藤井:市民の皆さんからは、プラットフォームを活用した取り組みについてどのような反応をいただいているのでしょうか。

松村さん:初回のワークショップから毎回「オンラインと対面を組み合わせた新しい共創の仕組みをどう思いますか」ということをアンケートを通して聞いていますが、「良い仕組みだと思う」と「とても良い仕組みだと思う」以外の回答はなかったかと記憶しています。

ですので、オンラインと対面を組み合わせた仕組みに関しては、皆さんが良いと思っていただいていて、それこそ「プラットフォームがあると、自分以外の考えを知ることができていいなと思いました。」というような意見も投稿されています。加えて、我々の取り組みは、プラットフォームを最初から完璧なものと考えているわけではなく、市民の皆さんからプラットフォームに対するフィードバックも募集しながら、一緒により良くしている面もあるので、今後さらに市民の皆さんにとってより良いものへとアップデートしていきたいと思っています。

利用者からのご意見

運用した上で見えた新たな期待やさらに良くしていきたい点

藤井:今まさに市民参加型共創プラットフォームを運用している最中だと思いますが、運用したからこそ見えてきたプラットフォームに対する期待や、今後さらに良くしていきたい点があればお伺いできればと思います。

松村さん:今年度からは、西鎌倉地域での取り組みに加え、庁内の政策形成や個別事業や計画策定などの庁内展開を進めていきます。ですので、まずは庁内の職員にプラットフォームについてさらに理解してもらうことが大切だと考えています。その上で、各事業に適したプラットフォーム活用の設計を進めたいと考えています。

また、現在西鎌倉地域で進めているような「地域共創」に関する取り組みについては、他地域への展開も見据えています。ですので、より多くの人にプラットフォームの存在を知ってもらうことが必要だと考えています。そのために、全市民に関連するようなテーマにも広げていきながら、「市民参加型共創プラットフォームって、鎌倉市と一緒に考えることができるようなものなんだよね」と市民の皆さんに認知してもらうことを目指しています。

今後に向けて

市民参加型共創プラットフォームが担うべき役割

藤井:では最後に”今後”について2点ご質問させていただきます。

現在鎌倉市では、スマートシティの取り組みを進めていますが、スマートシティ構想によると、鎌倉市スマートシティは3つの基盤で成り立っているとされています。1つは「データ連携基盤」、2つ目に「スマートシティ官民研究会」、そして3つ目が「市民参加型共創プラットフォーム」です。まさに、スマートシティの基盤の一つとして位置付けられている「市民参加型共創プラットフォーム」ですが、この基盤は、鎌倉市スマートシティのなかでどのような役割を果たしていくべきだとお考えでしょうか。この点お伺いできますと嬉しいです。

松村さん:市民参加型共創プラットフォームはスマートシティの取り組みの中の事業の一つであり、スマートシティ構想の中で「市民起点でサービスを進めていく」ということを謳っています。その「市民起点」を体現するものとして、この「市民参加型共創プラットフォーム」があるべきだと考えています。そもそも、鎌倉市が「人に優しいデジタル」を取り入れる根本は、あくまで市民の要望や意見などの市民のニーズに基づいています。

ですので何か新しい取り組みを始める前段階での最初の入口(市民にとっての入口となる部分)として、「市民参加型共創プラットフォーム」があり、そこで出てきたものをデータ連携基盤や官民研究会と連携しながら、具体的なサービス設計に展開していくところに繋げていければと考えています。

藤井:ありがとうございます。最後の質問です。今、プラットフォームに期待していることをお伺いしましたが、その期待している役割を担い、市民参加型共創プラットフォームが鎌倉市に根付いた状態が仮にあったとすると、そこではどのような社会やまちになっていてほしいですか。市民参加型共創プラットフォームが社会に根付いた後の理想の状態についてお二人にお伺いできればと思います。

松村さんー「市役所が”ちょっと身近な存在”になったらいい。」

松村さん:恐らく日本には市役所の取り組みに関心を持っている人はそんなに多くないと思っています。市役所とか区役所もそうですが、あまり日常生活の中で行きたいと思う機会は多くないと思いますし、積極的に関わりたいとも多分思わないのかなと思うんです。ですので、「役所のやっていることってなんかちょっと堅そうだし、あまり面白くなさそうだよね」っといったイメージを、市民参加型共創プラットフォームを通して、市役所のことをもっと知ってもらい、自分の意見を表明する経験や、自分の住んでいる地域の人の意見も知るといった体験を重ねてもらうことで、最終的には市役所と市民の皆さんとの距離が少しずつでも縮まっていけばいいなと考えています。市民参加型共創プラットフォームを介して最終的には市役所が、”ちょっと身近な存在”になるといいかなと思います。


藤井:ありがとうございます。勝さんはいかがでしょうか。

勝さんー「市民参加型共創プラットフォームが”当たり前の存在”として。」

勝さん:市民参加型共創プラットフォームというようなツールが意識されることなく使われている。言い換えると、こうしたプラットフォームが優しく裏側から生活を支えているような社会になるのが一番いいのかなと思っています。

今は、ツールを「使っている」っていうような認識をしていると思いますが、こういうツールが自然と生活の中に溶け込んでいるのが本来のあるべき姿だと思っています。自分が言ったことが市政やまちづくりに生かされ、反映されていくことが当たり前になっている。そういう社会になっていればいいのかなと考えていますし、当然そこには対面のコミュニケーションもあり、必要に応じてテクノロジーも活用されている。そうした光景が当たり前の日常になっているというのが恐らく鎌倉市が目指すスマートシティなのかなと思います。

藤井:ありがとうございます。以上で終了とさせていただきます。さまざまな貴重なご回答をいただきありがとうございました。