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<不定期連載>読書会について本気出して考えてみた。|第2話 「続く読書会、続かない読書会」(田中佳祐・竹田信弥)

第2話 「続く読書会、続かない読書会」

田中「こんにちは、ライターの田中佳祐です。」
竹田「双子のライオン堂書店の竹田です。」
田中「前回の更新、ぜんぜん本編にいかなったじゃないですか。」
竹田「そうですね。」
田中「ぼくたちはこれまでいろんな読書会をやってきたじゃないですか。」
竹田「飽きっぽいですからね。」
田中「まず、われわれのやってきたことを少し整理していきましょうか。最初は、入門書を読んできて感想を話す読書会からはじめましたね」
竹田「すごい覚えています。祖父江『文化人類学入門』でした。婚姻制度の話とかでもりあがった。」
田中「その後も何度かこの本では読書会をしましたね。会によって、集まる人が変わるからか、盛り上がるポイントも変わるのが面白い。」
竹田「お店開店当初は読書会をやることを拒否していた僕ですが、なぜ入門書読書会から始めたのかを覚えてない(笑)田中さんに、じわじわと説得されたのは覚えているんだけど。」
田中「二人が知っているジャンルだと参加者に教えるスタイルになり兼ねなくて、それは嫌だって言ってたから、我々も一緒に本を手掛かりに入門していくのはどうか、と。参加者とフラットな関係で始められるならいいかも、とか言ってましたかね。」
竹田「塾とかカルチャーセンターとかじゃない。あくまで本屋だから。「お客さんとはフラット」に拘っていたんだなぁ。やり方次第なのに、めんどくさいやつでしたね、昔の僕は。」
田中「話題の本じゃなくて、二人で興味のある分野を決めて、その分野の中で比較的読まれている入門書や初学者向けの本を課題本にしました。」
竹田「これは何年か続きました。いまは毎月はやってないですが、これはみんなに感想を聞きたいとか、知って欲しいという入門書に出会ったら突発的にやりますね。」
田中「そういえば、店長は室井さんの話をいつもしてました。」
竹田「あー、門前の小僧的なやつですね。」
田中「ちゃんと説明してください!」
竹田「室井光広さんという作家がいて、自分の恩師なんですが、この方がよく自分は「門前の小僧、経を覚える」的に勉強してきた。でもいつも門の外にいて中には入れない。次から次へと門の前を移動していくんだ」と言う趣旨の話をしていて、学生時代から、それにすごく共感していた。何かの専門家になれず、いろんなものに興味を抱くも飽きっぽい自分を肯定してもらえたような気持ち。ただ、室井さん自身はそう言いながらも多くのジャンルに詳しかったですけどね。」
田中「それってめっちゃ本屋的ですよね。本屋に行くとまさにいろんな門がありますもんね」
竹田「そうそう。この入門書読書会のおかげで、読書会への嫌なイメージはまったくなくなりました。今思えば、学生時代にゼミ室とか空いている部屋で同期と本の話をしていたんですよ。それと同じだったんだけど。本屋という立場をややこしく考えていたんでしょうね」
田中「ぼくはそういう経験がないので、うらやましかったですね。なので読書会ができてよかったです」
竹田「この読書会が基礎になって、数ヶ月後に「『日本文学全集』を全部読む」読書会も始まりましたね。これも大きな意味で入門書だと。刊行タイミングも重なったのも大きかった」
田中「児童文学の読書会、哲学の読書会、連続する読書会、未読書会、美術の読書会、ゲームの読書会、一巻だけ読む読書会・・・読書会以外のイベントはおいておくとして結構やってきました」
竹田「ちょっと同じひとたちがやっているとは思えない量ですね(笑)田中さんのやる気が凄すぎて、最初は課題本を読むのに必死だったなぁ。」
田中「基本はぼくたち二人でしたからね。誰も来なくてもふたりいればいいかと。後に、企画によってはお客さんを巻き込んで共同開催したりもしていきましたけど。」
竹田「どの読書会も参加者が違うのが面白いなといつも思っています。悪く言えばお店にファンがついていないという。あくまで本主体。」
田中「ぼくたちは自分たちの読書会に名前をつけてなくて、本が主役になって欲しい、本のタイトルで参加して欲しい、のと、はじめて来る人が参加しやすいかなと。まあ、本屋がやっているので本屋の名前があるのが大きいですけどね。」
竹田「入門書のあとは、縦横無尽に課題本を決めていった時期もありました。けど、自分たちの好みに偏りがちになってしまって、あるときから自分たちの好みに偏らず、新しい出会いもできるようにテーマを決めたり、レーベルを固定したりしましたね」
田中「それでも自分たちの好みではあるんですけど、ゆるく縛りがあることで普段はあまり手に取らない本を、我々も読めるというメリットがあって、より刺激的に楽しめるようになりました。」
竹田「自分の知らない世界のことを読んだりするほうが、飽きずに続けられるかもしれないですね。好きな本は趣味で読めばいいし。」
田中「店長は、趣味じゃなく読書会はビジネスなんですね。」
竹田「まあ、ビジネスは言い過ぎですが、言い得て妙な部分もありますね。自分の趣味だけでは、今みたいに続かなかったでしょう。あと、百年続けるためのコンテンツとしては大事だなと改めて思っています。さらに言えば、「読む」ことを主軸にした本屋というコンセプトも読書会があったからこそでしょう」
田中「上にあげた企画の中には、続いた読書会と続かない読書会がありますね」
竹田「たしかに。一番続いているのは、「連続する読書会」ですかね。続いている理由はなんでしょうね」
田中「ひとりの作家の作品を集中して読むことって、普段はあまりできないから楽しい。研究者の読み方みたいで憧れるし。連続チケットも販売しているので、同じお客さんが参加してくれやすく、深い話ができる、とかですかね。一方で、作家やジャンルは固定ですが、シリーズ物を読んでる訳ではないので、2回目、3回目とかからでも参加できる。連続で読む作家が変わればそこで、来てくれる人も変化するのでメンバーが良い感じに固定化しすぎないとかもありますね。」
竹田「あと、僕たちは長い作品が好きだから、そういうじっくり読むことがテーマのこのシリーズは選びやすい。半年ぐらい拘束されるので本当に読みたい作家を選ぶからモチベーションが維持できる、なんかもありそうですね。」
田中「なんか急に説明ぽいですけど。」
竹田「(笑)実際にやる前は、3〜4人集まればと思っていたんですけど、連続する読書会は、初回10名、その後も作家を変えて平均7〜8名は集まってくれて。参加者に聞いてみたら、「ひとりの作家をじっくり読みたかった」や「大学のゼミみたいなものに憧れていた」などの感想がもらえました。」
田中「ニーズがあったんですね。それも続けれてる大事な理由ですね」
竹田「続かなかったのは「児童文学読書会」。『モモ』『ハックルベリーフィン』『不思議の国のアリス』『オズの魔法使い』『ガリヴァー旅行記』をやりました。なんで続かなかったんだっけね。人が来なくなったとかだっけ?最初は盛り上がった記憶はある。」
田中「「児童文学を読む」読書会が続かなかった理由は、参加者はたくさん集まったので、人数が原因じゃあないんです。でも、その人気の高さが逆に続かない要因になってしまったのだと。さっきの「連続する読書会」で選んでる作家は、僕と店長が好きだったり、少し知識がある分野でした。でも、児童文学は好きだけど全然詳しくありません。そうすると、どの作品が有名で、どの作品がそうでないのかが分からない。人がたくさん来てくれるものだから「みんな知ってる作品を選ばなきゃ」と勝手に思ってしまって、選書が窮屈になって。それで、モチベーションが続かなかったな、といまは思います。ちゃんと自由に選ぶことにして、再開したい!」
竹田「そうですね。気負ったのはあったかも。良い意味でふざけられなかった。門外漢であるということも忘れていたのかもしれませんね」
田中「今回は詳しくは書かないですが、頓挫した企画のうちには、世の中のニーズとまったくあわず、我々もなんとなく時流に乗ってみた系の読書会は惨敗しています。」
竹田「参加者さんにも分かるんでしょうね。」
田中「まあ、最後にひとつ言いたいことは、読書会の盛り上がりは人数に関係ないですね。」
竹田「ふたりいれば、それは読書会。そういえば、最初はそれが合言葉でした(笑)どうしても「**会」って言うと人を集めるプレッシャーが出てくる。それではじめられなくなる。それはもったいない。実際に、イベントしたいんですが教えて欲しいという相談をお店でされることが多いんですけど、まずは当時僕が田中さんに言われたことを言ってますね」
田中「ひとりで始めるんじゃなくて誰かを誘っちゃえば読書会は成立!他の参加者が来なくたって、成功ですよ。あとは自分たちのモチベーション維持を考えて続けていくことですかね。」
竹田「実際に、最近でも僕たちふたりってありますから、ぜんぜん。」
田中「僕たち、企画を攻めすぎる傾向がありますからね。」
竹田「まだまだやりたい変わり種読書会もあるんですけど、しっかり準備していきたいと思います。」

(つづく)


<筆者プロフィール>

・田中佳祐
「街灯りとしての本屋」執筆担当。東京生まれ。ライター。たくさんの本を読むために2013年から書店等で読書会を企画。企画編集協力に「草獅子 カフカ」「しししし1 特集宮沢賢治」「しししし2 ドストエフスキー」「しししし3 サリンジャー」(双子のライオン堂)。好きな作家は、ミゲル・デ・セルバンテス。

・竹田信弥
「街灯りとしての本屋」構成担当。東京生まれ。双子のライオン堂店主。文芸誌「しししし」発行人兼編集長。単著『めんどくさい本屋』(本の種出版)、共著『これからの本屋』(書誌汽水域)、『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)など。好きな作家は、J・D・サリンジャー。

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