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高齢者の疾患と生活習慣・環境

球麻痺・運動神経障害

片麻痺などの運動障害や言語障害は日常生活に大きな影響を与えます。高齢者は脳血管疾患を発症する確率が高いですが、急激な身体機能の低下が脳血管疾患が原因ではなかったケースを紹介します。

Aさんは80代後半の女性。50代で脳梗塞を発症し、左半身不全麻痺がありました。自立心のとても強い方で、障害のある息子さんと二人暮らし。左上肢は拘縮が強いが、短距離歩行は可能です。息子さんが他人が家に入ることを嫌がるからと、電動車いすで買い物に行ったり、調理もしていると話していました。ある日デイケアの職員から「お迎えの電話連絡を入れると『歩けない。』と言っている。」とケアマネに連絡がありました。自宅を訪問すると、仰向けの状態で頭の近くには携帯電話。
ふらついて転倒したようですが、足に力が入らず立ち上がれないとのこと。息子さんに助けを求めたが無理だったようで、せめて携帯電話を近くにもってくるように頼んだとのことでした。脳梗塞の再発の可能性もあり、救急要請を行い病院に同行。MRI検査を施行されましたが異常は認められず。本人は自宅に戻ると言い張りましたが下肢の脱力は続いているため説得し、利用中のデイケア併設の老人保健施設で緊急ショートステイを利用することになりました。

翌日、施設の職員から「Aさんが食事を食べないのでこれ以上ショートステイは利用できない。」と言われました。利用している老健施設では、食事の摂取量が介助されてでも栄養補助食品でもいいので半分以上摂取できないと利用継続ができません。体調悪化時には緊急的に点滴加療なども行えますが、基本的には医療機関への受診が必要となります。医療行為を行うと費用が発生しますが、老健施設は治療を行っても診療報酬を算定できない包括医療制度が適応されているため、例外を除いて行いません。Aさんはショートステイで利用していたので、なおさらです。
Aさんは食べ物だけでなく、水分も飲み込めない状態になっていました。施設から前日に受診した病院に送ってもらい再受診しますが、やはり脳血管疾患の可能性は低いと言われました。検査をして診察を待っている間にも身体機能は低下し続け、立位も体幹の保持もできなくなっていました。自分の唾液さえ飲み込めない状況だったため、医療機関も入院を認めてくれました。

Aさんには遠方に住む長男がおられたので連絡しておいたのですが、1週間後に経過報告に来てくれました。Aさんは会話もできない状態になり、すべて筆談でやり取りし、在宅生活は困難であるため退院後はサービス付き高齢者住宅などで生活することになると話されました。
Aさんが利用していた福祉用具事業者に連絡し、折りをみて貸与中の商品を引き上げるよう伝えていたところ、数日して電話がありました。同居の次男が本人は自宅に帰るのになぜ福祉用具を引き上げるのかと怒っていると。病院に確認すると、身体機能は改善し、本人は自宅に帰ると言い張っている。食事も誤嚥が危険なので徐々に普通食に戻す予定が、Aさんは「こんなもの食べていたら、よくなるものもよくならない。」と、何かあっても自分の責任と普通食に変更させたと話されました。

最初に救急要請してから約3週間ほどの出来事で、本当に不思議でした。ご本人は、以前より身体機能は低下していますが、在宅生活も過ごせるようになりました。入院先の診療情報提供書を見ると、「球麻痺」との記載があり、いろいろ調べていくうちに、発症の1~3週間前に風邪を引いたり下痢をしたりする感染症の症状として、発症することもあることが分かりました。Aさんは、よく風邪を引いて服薬し朝起きれないことがある方で、ちょうど発症の2週間前にデイケアの迎えに行ったときに連絡が取れないと報告があったことを思い出しました。

球麻痺
ギランバレー症候群

診断名にはありませんでしたが、経過があまりにも酷似していたので、印象に残った出来事です。

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