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GAFAのCEO4人組が反トラスト法委員会で何を詰問されていたのか

7月29日に米議会下院司法委員会の反トラスト小委員会によるIT企業大手4社のCEOの諮問委員会が行われた。遅れて始まるのを深夜待ちながらこんなことで夜更かししてどうするよ、とも思うのだが、これがショボいドラマをネトフリで観ているより面白い。

この公聴会に呼ばれたのは、

フェースブック   マーク・ザッカーバーグCEO
グーグル      スンダー・ピチャイCEO
アマゾン      ジェフ・ベゾスCEO
アップル      ティム・クックCEO

という豪華顔ぶれなのだが、全員コロナ禍対策でリモート会議を通じての参加だったので、臨場感はナシ。もし集まってやっていたら、場内が議員と記者でギッシリ、カメラが4人をフラッシュでパシャパシャ写すという、おなじみの光景が展開されていたはずだと思うと感慨深い。

私の顔本では「同じ大きいIT企業なのにマイクロソフトはどうした?」とか、「顧客データを吸い取っているのが問題」などという人も見かけたが、なぜこのメンツなのかと言うと、4社合わせて500兆円という資産価値、世界ランキングトップの大富豪が2人、そこで問題視されているのは、市場独占・寡占による競合企業潰しだから。個人データ取得を問題視しているのは米議会ではなく、EUの方で、アメリカではその辺は個人データと引き換えに利便性を手に入れているんだからアンフェアとはいえないよね、という理解のようだ。

委員会の議員(特に共和党)が繰り返し強調していたのは、「大きさそのものが悪いとか、違法であるとかいうのではない」ということ。問題はそのデカさにものを言わせて競合や、新規市場参入してきたスタートアップの芽を潰しているのではないかと言う点。特に今回の公聴会ではグーグルとフェースブックに対する風当たりが強かった印象。

その本題から思い切りズレるのだけれど、共和党のマッチョ脳が筋肉おバカ議員(オハイオのジム・ジョーダン、お前のことだ)が「SNSは保守系のサイトばかり厳しく削除している」とのっけから食ってかかる場面も。それは、保守派の方が陰謀論や誹謗中傷、ウソの情報を流しているのが多いから、同じ規定を設けても削除対象になる確率が高いってだけの話なんだがw

そんなわけで、4人の晒しあげ(英語ではgrilling)に対し、各CEOは冒頭陳述で、自分がいかに苦労してきたか、そしてエントレプレナーに寛大なアメリカのおかげで会社を大きくすることができたかをひとしきりくさった。皆さん、普段からオフィスではもっとラフな格好してるだろうに、なんだかお揃いのダークスーツ姿でちょっと笑った。日本のZOOMマナーではお辞儀をしながら退出したり、5分前から待機してたりと、大変そうだが、そういうのは一切なし。ただ、各議員の質問時間が限られているので、YesかNoで答えよと言われているのに、グダグダ話を伸ばしていると容赦無く文句を言われる。

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議員側からの尋問事項と回答と、私の評価は以下の通り。

グーグル社:検索対象に入ってくる新興企業のデータを盗んで、自分たちのコンテンツに使っているのでは? 例えばレストランレビューサイトYelp!のレビューを自分たちのデータとして表示しているのではないか? 自分たちの広告収入が増えるように、アルゴリズムで検索結果を操作しているのでは?

ピチャイ:「やった」「やってない」など具体的な答えは避け続けた。何を聞いても「グーグルは常にユーザーの利便性を優先し〜」とのらりくらりかわしてくる感じ。

評価:そうやって時間制限のある議員にストレスかけにきました、みたいな回答、裏目に出とるぞw ビル・バー司法長官はトランプにいい顔したくて、グーグルの広告ビジネスで違法行為があると訴追する準備してるからな。

フェースブック:インスタグラムなど、成長しそうな競合サービスがあると、それを買収したり、買収した上で潰したりしているのでは?

ザッカーバーグ:確かにインスタグラムはライバルだと考えていた。でも買収の際にはFTC(連邦取引委員会)の許可があった。フェースブックが買収してこそインスタグラムは今のような成長を遂げることができた。

評価:2年前に初めてこういう公聴会に呼ばれた時は、ピチャイよりもさらに歯切れが悪く、とにかく非を認めたくない態度が出ちゃって大失敗だったので、かなり学習した感じ。

話はそれるが、途中でまた共和党のおバカ議員(名前知らない)がザッカーバーグに対して「大統領がSNSでつぶやいたことを一部削除とか、注釈つけるとか、ありえないんだけど〜」と怒りのお言葉をぶつけた時、「あ〜、それはツイートなんでツイッター社に言ってください」と交わす場面にこっちも苦笑い。2年前から周到に準備してきた議員と、相変わらずなんもわかってない議員がいて面白いよね。

アマゾン:マーケットプレースを通じて商品を売っている中小ベンダーの売り上げ情報を勝手に使って、売れ筋の商品を真似してもっと安く売ったり、勝手に規定をコロコロ変えてベンダーを弾いたりしているのでは? ライバルになりそうな新興スタートアップを叩き売りセールで追い詰めているのでは?

ベゾス:顧客第一でやっている。個々の事例については社内調査の上で回答する。

評価:ベゾスはこういう委員会の前に出てくるのは初めてだけど、一度も笑うことなく、そつなくこなしてたね。でもベゾスはトランプにもマークされているので、ベンダーいじめがバレたのはでかい。しかし「データの流用はあったのか、なかったのか?」と問われて明確に「なかった」と言わなかったのが大きい。

アップル:アプリの開発についての規定の改定が一方的で、アップルが自前で作ったネイティブアプリを優先しているのではないか?

クック:アプリの売り上げのコミッションが3割というのは当初から変えていない。

評価:GAFAの中ではいちばん叩きにくいかも。アプリ以外の面では、アンドロイドというライバルがいるので、あまり独占という感じはしないし、ティム・クックのプレゼン慣れはプロだよ、やっぱり。

議員の中には社内機密文書や、元社員から証拠となるEメールを提供されていたりで、だいぶ勉強してきた感じ。特定の産業のトップが雁首そろえて、議会で絞られるというのは1994年にタバコ業界が「ニコチンは中毒性があるのではないか?」と問われたケースに似ている。

とりあえず、この4社はITの花形企業というイメージから、トラスト法に引っかかる独占企業というネガティブなイメージになったのは大きいかと。米司法省は、トランプにいい顔したくてこれから11月までに訴訟を起こしてくるかもしれないが、急いで訴追して叩ける相手ではないので、裏目に出るかも。

問題はこれから議会がどう出るのかで、民主党のリベラルには派は、解体を含めてなんらかの措置がなされるべき、あるいは法律を改変してテクノロジー産業もちゃんと見張れるようにすべきという議員が多い。対する共和党は法律を変えるという気持ちはさらさらなさそう。だから、11月の選挙で、大統領と上院が民主党過半数になったら、FTCや司法省がきっちり訴訟を起こして取り締まる方向に動くだろう。

それまでに、この4社が、ユーザーのデータで商売しながら、新興ライバルやベンダーを苦しめる悪徳独占企業というイメージを払拭できる策を講じられるかですね。まぁせいぜいロビイングにカネ出すんですな。予算はいくらでも取れるだろうし。


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