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シンギュラリティ信仰はいかにして生まれるか〜終章

終章 シンギュラリティ信仰の確立

第1節 シンギュラリティ信仰の拡大

第1項 シンギュラリティ大学

 カーツワイルの楽観的な未来観は、シンギュラリタリアンと呼ばれる人々の支持を集め、信仰されるようになった。シンギュラリタリアンたちは、シンギュラリティが2045年ごろに到来すると信じ、シンギュラリティ大学と呼ばれる学校を設立し、シンギュラリティの到来に向けて、テクノロジーの発展を進めようとしている。

 シンギュラリティ大学は、2008年にカーツワイルとピーター・ディアマンディスの二人によって設立された研究機関である。この研究機関は、企業の指数関数的な急成長もしくは技術の爆発的な進化に注目しており、たとえば、無限のコンピューティング資源、センサー、ネットワーク、AI、ロボット、デジタルマニュファクチャリング(デジタル製造)、合成生物学、デジタルメディシンといった分野がある19)。また、学生は、世界の優秀な起業家と、フォーチュン500企業の経緯英幹部を想定として集められ、彼らが世界中の何十億人に対して良い影響を与えることを支援するのが、この大学の使命である20)。シンギュラリティ大学のホームページによると、$14,000という高額な受講料にも関わらず定員以上の申し込みが続いており、世界中のメディアからも大変な注目を集めている21)。シンギュラリティ大学を支援するスポンサー企業には、Google、ジェネンテック、デロイト・トウシュ・トーマツ、SAP等の有名企業がずらりと並ぶ22)。また、シンギュラリティ大学が2017年に主催したグローバル・サミットでは、64か国から1600人の参加者と100人を超えるプレゼンターが集まった23)。

このように、シンギュラリティの実現に向けた研究機関であるシンギュラリティ大学は、大企業がスポンサーにつき、2017年主催のグローバル・サミットでは、世界中から1600人の参加者を集める等、シンギュラリティ信仰の拡大を象徴している。

第2項 宗教性を帯びたシンギュラリティ

 カーツワイルの描いたシンギュラリティがこれだけ支持を集めるのには、いくつか理由がありそうだ。まず、考えられる最も重要な理由は、その宗教性である。シンギュラリティは一つの教義として成り立っており、その福音が『ポスト・ヒューマン誕生』に書かれている。なかには、人間の救済を説くようなものがあり、たとえば、G(遺伝学)革命による全ての病の撲滅と寿命の大幅な延長、非生物的な知能との融合による人間の能力の拡大、脳のアップロードによる死に関する制約の撤廃、完全没入型ヴァーチャル・リアリティの実現による身体の可変等がその例である。特に、脳のアップロードは、肉体を離れコンピュータの中で生きることにより、たいていの死因が取り除けるようになるということからもわかるように、不死の実現による魂の救済を説くものである。また、シンギュラリティ信仰の教祖であるレイ・カーツワイルは、現在Google社に招かれ、機械学習と自然言語処理の技術責任者を務める等、権威を与えたことにより発言力を高めている。

 さらに、シンギュラリティは従来の宗教の枠を超えて、科学、医療、政治・経済、教育の分野へと越境していく。医療の分野では、人工知能が医師の代わりをするようになり、教育の分野ではシンギュラリティ大学が設立され、テクノロジーの進歩が進められているのだ。このような宗教性を帯びたシンギュラリティがひとつの信仰として拡大しつつあるのだ。

第2節 シンギュラリティ思想における霊魂観

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