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シンギュラリティ信仰はいかにして生まれるか〜はじめに

はじめに

 レイ・カーツワイルは、「シンギュラリティ」という概念を用いることによって、ある未来図を描いた。シンギュラリティとは、われわれが今日理解しているような人類のあり方が終わりを告げるほどの劇的変化が、技術の指数関数的進歩によってもたらされる地点のことを指す。その未来では、強いAIが登場したり、人間が非生物的な知能と融合して知性を獲得したり、脳をコンピュータにアップロードすることによって、人は死から免れるようになり、ヴァーチャル・リアリティの世界で姿を自由に変えられたたりするようになる。本稿の目的は、このようなシンギュラリティの思想がある種の宗教性を備えている点に注目し、その系譜をたどることによって、新たな宗教、信仰としてのシンギュラリティの特徴を示すことである。

 序章は、カーツワイルの描くシンギュラリティ自体の概要を紹介する。続く第1章から第3章では、シンギュラリティ思想に連なる三つの系譜を説明する。第1章では、「シンギュラリティ」の思想が、ジョン・フォン・ノイマンによって提唱され、ヴァーナー・ヴィンジを経てカーツワイルへと受け継がれ、そのアイディアが変化していったことを示す。次に、第2章では、シンギュラリティの思想がトランスヒューマニズムに位置づけられることを示す。トランスヒューマニズムとは、寿命の大幅な延長や認知拡張などを通じて、人間がその生物的制限を超越することを目指す思想および運動のことである。ここでは、ハンス・モラヴェックからカーツワイルまでの系譜をたどる。そして、第3章では、シンギュラリティの第三の系譜としてサイバネティクスの理論があることを示す。サイバネティクスとは、機械と生物における通信と制御の理論であり、20世紀にノーバート・ウィーナーによって提唱され、その後フォン・ノイマンらによって発展した。

 終章では、本稿の結論として、以上の三つの系譜を踏まえたうえで、シンギュラリティがある種の宗教性を帯びるようになり、その信仰を拡大させ、現代社会における新たな宗教、信仰となっていったことを示す。

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