誰も教えてくれなかったおしゃれのルール(アーカイブ)タックパンツ、ノータックパンツ
ズボンを女性がはくようになったのは20世紀後半からと言われています。それまでは、女性用のズボンというものはなく、男性用のものを借用する形での着用でした。
しかし、女性が男性と同じような活動(それは多くの労働ですが)をするようになって、女性のあいだでもズボンの着用が広がり、それを決定的にしたのは第二次世界大戦でした。なぜならその期間、女性は男性と同じような労働に従事したからです。
その歴史からも推測されるように、当初のズボン、今で言うところのパンツは、女性にとって、オーバーサイズであり、ダボダボしたものをひもなり、ベルトなりでウエストを縛ることによって、初めて着用可能となるものでした。
基本的にパンツとは、大き目のサイズのものを自分に引き寄せて着るものであり、ウエストの細い女性がはくと、ウエストにはギャザーやタックが自然とあらわれました。
女性と男性の体型の違いはいろいろありますが、その中でも大きな差異は、男性にはない曲線を女性が持つということでしょう。バストとウエスト、ウエストとヒップの大きな差というものは、男性にはないものです。
そのため、平面である生地を立体にうつすとき、その「差」の処理として、ダーツ、タック、ギャザーが用いられます。ウエストとヒップの大きな差は、洋服のボトムスを作る上でのもっとも重要なポイントであり、服の美しさは、その処理の仕方によって生まれると言っても過言ではありません。
1970年代に入り、服全体のシルエットがタイトなものになると、より体にフィットした、つまりウエストにタックもギャザーもできないスタイルのパンツが要求されるようになりました。それはあくまで見た目の問題で、機能的なものではありませんでした。
しかし、女性の身体のウエストとヒップの大きな差は、依然そのままです。ウエストとヒップの差が大きければ大きいほど、余った布の処理は難しくなります。ストレッチ素材やニットを使わずにウエストからヒップのラインを出すためには、何らかの工夫をしなければなりません。
やってみればわかることですが、ある程度の固さのある生地を、何本ものダーツを入れずにウエストからヒップまでなじませるのは、簡単なことではありません。生地に無理が出て、余計なしわが出ることになりますし、決してはき心地がよいものにもなりません。
そこで発明された1つの形が、ウエストとヒップの差を少なくすること、つまり、ウエスト位置をヒップのほうへと近づけるという手法でした。
ローライズと呼ばれるこのウエスト位置は、当初、格好いいからではなく、単に技術的な目的のために生まれたものだと思われます。
何かを縛ってとめるとき、細いところをしばりたくなるのは当たり前の行為。それをわざわざずらすのですから、それは苦肉の策とも呼べるものでしょう。
ファッションの流行は繰り返します。ですから、このような、ウエストにタックやギャザーのない、体にタイトにフィットした形のノータックパンツと、それとは逆に、ウエストにタックがあり、緩やかに体にそうタックのあるパンツとが交互に流行します。
このところ長く続いたのは、ウエストにタックのないノータックパンツでした。残念ながら、ノータックのパンツには体を補正して見せるという要素がありません。身体になるべくそわせるということを意図しているのですから、当然のことながら、ヒップから脚にかけてのラインは、はいている人、そのままの形です。
また、いわゆる股上のところに水平にラインが出たり、股のY字型が目立って見えるなど、必要以上に、その人の体型を際立たせるという特徴も持っています。
ノータックパンツをきれいに着こなのすに必要なのは、理想的な体型でした。だからこそ、私たちは服を自分にあわせるのではなく、自分たちが服にあわせるべくダイエットに励むのです。
しかし、このようなタイトフィットのノータックパンツも行きつくところまでいくと、次は必ず逆戻りすることになります。そして今また、タックパンツの時代に入ろうとしているところです。
パンツの美しさというものは、すっとまっすぐに下に落ちていく、その生地の流れでしょう。折山にタックをとり、センタープレスをかけることで、縦線はより強調され、脚そのものの形を目立たせることなく、ウエストから足元へと、見るものの視線を導きます。
女性特有の、ウエストからヒップのカーブも、タックをとることにより、自然と解消され、下腹部のふくらみも、太ももの太さも、はっきりとはわかりません。また、水平ラインにしわが出ないため、脚の長さもより長く見えるようになります。そこにはもう、下半身そのもののシルエットを外へさらして出て歩くような気恥かしさはありません。タックパンツをはくことで、ウエストから下は窮屈な履き心地から解放され、他人の視線から守られます。
すべての流行は、行きつくところまでいったら、必ず今度は逆の方向へ戻ってきます。その先はもう行き止まりで、不毛な開発しかないからです。もはやそこには着やすさ、楽しさ、リラックス感など、存在しません。
過度なダイエットを要求するような服は、それ自体、危険な存在です。盲目的な利益追求主義者と、市場の動きこそが正しいと断言する経営者たちが作る、それら危険な服を、私たちは断固拒否することができます。
女性が男性のズボンをこっそりはいてみて、鏡の前に立ったときのあの感動は、ウエストからヒップにゆったりとタックができ上がり、下半身が目立つこともなく、自由に行動することができる、その点にあったと推測できます。なんと自由なんだろう、そして見た目もそんなに悪くはない。これなら女性がはいても悪くはないのではないか。男性のズボンをはいてみた女性たちは、きっとそんなふうに感じたことでしょう。
もしそれがぴったりしたニットのズロースであったなら、余りの恥ずかしさに、そのままの姿で外を歩こうと思う女性はいなかったのではないでしょうか。
女性がズボンをはくことは、今では当たり前になりました。100年前に、それは当たり前のことではありませんでした。ズボンをはいた女性は非難の対象でした。けれども今、私たちは、下半身を目立たせることなく、脚をすっと長く見せるタックの入ったパンツを、選ぶことも、選ばないこともできます。それは100年前の女性が持っていなかった権利です。
後戻りするつもりがないのなら、より進化したタックパンツを選ぶといいでしょう。それは選ばされるのではなく、こちらから選ぶのです。
選ぶ権利はこちらにあります。奪われては、いけません。
2014・12・22
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