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誰も教えてくれなかったおしゃれのルール(アーカイブ)オーダーメイドの落とし穴

最近、オーダーメイドで失敗した話を立てつづけに聞いたので、今日はオーダーメイドで作った服が、なぜいまいちなのか、素敵に見えるはずが、なぜそうならなかったのかについて書いてみたいと思います。


オーダーメイドの失敗には、大きく分けて2つあると思います。

まず1つは、単純に採寸ミス。採寸しているつもりが、それが不正確で、でき上がったものの寸法が足らない、または余っているという場合。

オーダーメイドといっても、ほとんどの場合は元の型があり、その一部修正の形だと思われますから、採寸が不正確であったら、でき上がったものは、その人に合ったものにはなりません。

スカート丈、袖丈などはあまり間違えようがないと思いますが、バスト寸法が足りないための横しわ、引きつれしわなど、または、タイト・スカートのウエストからヒップにかけての横しわなどは、明らかに採寸ミス。

そしてそのミスの結果、パターン修正をしなかったため起きた失敗です。これはそのお店がそれだけレベルが低いということを示しています。


2つ目の失敗です。

採寸も正確、身体にぴったり合っている、だけれども、全く素敵に見えないというもの。

実はこちらこそ、オーダーメイドの大きな落とし穴です。
私が服飾専門学校に行っていたとき、上半身の型を石膏でとり、その内側に薄い紙を張って、そこからパターンを起こすという授業がありました。6人ぐらいで1組になり、選ばれた人が上半身裸になって、身体の片側に石膏をぬられ、型どりします。

そのリアルな人体の石膏型は乾くまで、教室の脇で乾燥させられ、乾いたら、つぎは内側に薄い紙を張り、それをきれいにはがして、はさみを入れて分解し、平面にし、そこからパターンを起こして、今度は布に置き換えて、再び立体にし、そこからシーチングでブラウスを作って実際に着てみるという、かなり面倒な、しかし人体を理解するのには必要な作業の授業がありました。

そこで、でき上がったブラウスを最初のモデルに着てもらうのですが、それは確かに身体にぴったり合っているにもかかわらず、素敵ではありません。もっと言うと、それをあえて作りたいとは思えない代物です。

私たちのグループのモデルはフィッティング・モデルのアルバイトをするぐらいの、かなりスタイルのいい人でしたが、それでも彼女の寸法ぴったりに作ったブラウスは素敵なものではありませんでした。


どういうことかというと、採寸を正確にして、その採寸結果に必要なゆるみを足した形でパターンを作って、それを形にしたところ、スタイルがよく見える服はできないということです。なぜなら、それはただ単に、もとの肉体にゆるみを加えただけ、つまり120パーセントでコピーされただけの、自分の着ぐるみだからです。


たとえば、これがミランダ・カーの着ぐるみだったら、それは誰もが入ってみたいことでしょう。なぜなら、ミランダ・カーは多くの人が望む体型の持ち主だからです。それが正確な形で着ぐるみになり、着ることができるのなら、誰でもその瞬間、モデル体型になれるわけです。

しかし、多くの人は、自分の体型をそのまま120パーセント拡大されたものを、あえて着てみたいとは思わないでしょう。

ここが嫌、あそこが嫌、お腹が出ている、寸胴すぎるなど、どこかしら、スタイルがよい方向に形を変えたいはずです。

私たちが洋服を着て見せたい体型、そして自分が見たい体型は、決して自分の120パーセント拡大コピーではなく、バージョンアップした自分です。そしてそれができることが、わざわざオーダーで服を作る理由なのです。


ただ正確に採寸ができればいい服ができると考えているテイラーにオーダーメイドに依頼したら、その服は失敗します。そうではなくて、正確な採寸、その上で、理想の体型の明確な立体イメージ、そしてそれを作り上げるパターンのテクニックがなければ、スタイルがよく見える、いい服はできません。


そうでなくても、立体感覚に乏しい日本人です。この技術を持っているテーラーの数が多くはないであろうことは、誰にでも容易に想像できます。

そしてそんなテクニックが、一朝一夕に身に着くあろうはずがありません。生まれ持った才能、優れたテーラーのもとでの修行期間がなければ、そんな服を作る人には、なれないのです。

そんなテイラーに出会えるかどうかは、宝くじに当たるより低い確率です。そしてそんな人は、もうすでに多くのお得意さんがいて、囲われているでしょう。なぜならそれほどまでに、そういうテイラーは希少だからです。


中途半端なテイラーにワイシャツのオーダーをするぐらいなら、イタリアンメイドの高度なパターンテクニックを駆使した、高級なシャツを着るほうが、よほど体型はよく見え、見違えたように見えます。もちろん動きやすいというおまけつきです。

それでもどうしてもオーダーメイドにこだわるならば、誰かに秘密のテイラーを紹介してもらうか、ミラノにでも行って、シャツをオーダーしてみればいいでしょう。(最近、ビスポークという名称でいろいろなブランドがやっています。)日本で作るより、ずっと満足のいくものが手に入るでしょう。


パターンのいい服が知識と経験でわかっていなければ、そのパターンがいいものかどうか、普通の人に見抜くことは難しいです。オーダーメイドだから、身体にぴったり合ったいいものに決まっているという、その間違った思い込みが、失敗のもとです。


間違った思い込み、それとは逆に制限的な信じ込みは、早いところ手放しましょう。

頭の中のそのガラクタのおかげで、あなたはしなくてもいい失敗をするはめになります。

過剰な自己宣伝の言葉や、高額な値段設定、にこやかなプロフィール写真など、本当のところ、何の根拠にもなりません。


落とし穴に落ちてしまった人は、高い勉強代を払ったと思って、つぎからはだまされないように気をつけて。

だまされないための第一歩は、本物を知ること。ただ、それだけです。

2014・04・30

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