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誰も教えてくれなかったおしゃれのルール(アーカイブ)「ファッションで世界を変えられるか」という問い

2015年春夏のプレタポルテのコレクションで、シャネルはストリートのセットを作成し、フィナーレでプラカードを持ったモデルたちがデモ行進をするという演出を行いました。それを受けて、「ファッションで世界を変えられるか」という問いがあちこちから聞かれてきました。

さて、ファッションで世界は変えられるのでしょうか。


パリ・コレクションがファッション業界のトップであるとすれば、底辺は木綿畑であり、羊牧であり、石油の掘削現場です。その底辺からトップへいくまでの間に、収穫する人、運ぶ人、生地を作る人、デザインやパターンを作る人、縫製する人、検品する人、アイロンがけをする人、荷造りする人、搬入する人、売り場に並べる人、そして服を売る人まで、実にさまざまな種類の業種、そして人がかかわります。

ファッション産業は、時間軸で見ると、人間が衣服を作り始めたときからであり、空間軸で見れば、それは世界規模の広がりです。

パリ・コレクションという一部の小さな狭い側面だけを見れば、ファッションなどというものは、世界や歴史に対してとるに足らないものかもしれませんが、裾野から頂上までを俯瞰して見るならば、それは世界の隅々まで、そして過去から未来まで、広範にわたり影響を与える存在です。


哲学用語で、「ホロン」という考え方があります。

部分は全体をあらわし、また全体もまたその部分と同じ構造であるという考え方です。その考え方でいくと、ファッション業界は世界の産業の部分であるとともに、その構造は、まさに世界の産業そのものであると言えます。

そして、服を1枚買うごとに、私たちは、この構造に参加することになります。私たちが服を1枚買うという行為がファッション産業に与える影響は、世界の産業に与える影響と同じものなのです。


ファッション産業は、「フェア」であることとは、ほど遠い産業です。人権をないがしろにされる部分も多いです。表に見えるきらびやかさ、美しさとは反対に、内部はあきれるほどに残酷で、腐っています。

1枚のTシャツを外から見ただけでは、その来歴はわかりませんが、木綿畑までたどってみれば、多くのものには、何らかの「フェア」でないことが存在します。それは過剰な農薬かもしれませんし、児童労働かもしれません。


私たちは、服を1枚買うごとに、この構造に影響を与えます。違う言い方をすれば、どんな服を買うかという選択する権利を持っています。
世界を変えることができるのは、この選択する権利を持っている私たちです。私たちは選ぶことによって、世界を変えることができます。つまり、「フェア」なものを選ぶならば、フェアな世界へ変える手助けをすることができます。


しかし、多くの人がここで、「だけど」と言うでしょう。「フェア」なものは高価で買えないと。それは、確かにそのとおりでしょう。なぜなら、私たちの多くもまた、ホロンの全体であるところの産業に組み込まれているからです。

私たちが買えないのは、私たちが「フェア」な扱いを受けていないからです。私たちの行為は、自分の尾を噛むウロボロスの蛇のように、私たちにかえってきます。

「フェア」な扱いを受けていないから、「フェア」なものは買えない。この悪循環から抜け出すためには、「フェア」な行いによって、「フェア」な扱いを受ける方向へ乗り換えなければなりません。


過剰な農薬にむしばまれているのは、過去のあなたかもしれません。劣悪な環境の縫製工場で事故に遭うのは、未来のあなたかもしれません。それは、世界のどこか知らない地域の話でも、自分たちに全く無関係な話でもありません。

それは、日本で言えば福島の縫製工場の状況でした。そして現在のあなたが、「フェア」でない扱いを受けているのなら、「フェア」な行為をしないことには、あなた自身も、そして、世界も変えることができないでしょう。


「だけど」と言う前に、少し考えてみましょう。いつもなら2枚買うTシャツを1枚にすれば、よりフェアなものが買えないか。新しさだけを追求しなければ、より安価に、しかも高品質なものが買えないか。古着や中古品ならば、手に入る範囲で、熟練した職人が、フェアな対価で作った、上等なツイードのジャケットが買えはしないか。方法は、ほかにも幾らでもあるでしょう。


「ファッションで世界を変えられるか」という、その問いは、問いの中に含まれる、「世界に対するファッション」という、その前提が間違っています。

ファッション産業そのものが世界の産業の構造であり、それは世界に含まれています。


ファッションが世界を変えるのではありません。「フェア」なものを選ぶという行為がファッション産業を、ひいては世界を変えます。そして、最終的にはあなたを変えるでしょう。

その力を、私たちは持っています。

2014・10・27


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