誰も教えてくれなかったおしゃれのルール(アーカイブ)ヴィンテージ

ヴィンテージ、またはヴィンテージ風のものが最近、流行しています。ヴィンテージを取り入れることによって、いろいろな効果が生まれます。

まず1つは、オリジナルということ。

ヴィンテージは、ほぼ1点ものです。ですから、ほかの人とかぶるということがありません。現在のような、大量に同じ品物が出回る時代において、手軽に1点ものを取り入れられるということは、着る人のオリジナル性を出すのに役立ちます。

次に、その風合いです。

新しいものと違って、ヴィンテージには年代を経たものが持つ、独特の親しみやすさがあります。また、大事に着続けられてきたものだけが持つ、一種のはかない輝きも、特徴ではないかと思います。ノスタルジックなはかなさが、着る人のセンスのよさをあらわします。それはぴかぴかした新品の服にはないものです。

人は、すべてが真新しい空間にいるときに、何かそわそわしてしまうように、新しいものだけのスタイルも、ほんの少しですが、居心地が悪いのです。ヴィンテージを取り入れたスタイルは、なじみのカフェでくつろぐような、リラックスした雰囲気を着る人に与えてくれるので、誰からみても親しみやすくなるでしょう。


また、いつも書いていることですが、洋服のスタイリングはバランスが最も重要です。

すべて真新しいものだけだと、全体のバランスが悪くなります。それはショーウィンドウの衣服のようです。ですから、その全体のバランスをとるためにも、ヴィンテージは使われます。


ただ、ここで問題があります。

ヴィンテージを選ぶのは、とてもとても難しいのです。

私もロンドンなどに行ったとき、必ずヴィンテージショップへ行って、見てはみるのですが、今まで一度も買ったことがありません。ずいぶんと丁寧に、スカーフの一枚一枚までも吟味するのですが、これがなかなか買えないのです。なぜかというと、そのヴィンテージの服や小物が持つ、目には見えない歴史の部分が感じられて、おいそれと自分のものにしたいとは、思えなくなってしまうからです。


人には五感があります。
目に見えるもの、さわる感触、香り、聞こえるもの、味覚。

このうち、洋服を選ぶときに主に使うのは見た目と感触でしょう。(少しばかり、においというものもあります)

だけれども、ヴィンテージを選ぶときは、この五感をこえた、目に見えない、さわってもわからない、その服が持っている歴史、層、レイヤーも重要なのです。

それは見えないし、さわってもわからない。けれども、たしかにそこにある、それ以上の情報。

ここのショップに来る前に、あの小高い丘の貴族の館に住んでいた、美しい貴婦人が、いつも散歩をしていたときにかぶっていたしゃれた帽子。その貴婦人は、貴族の末裔ではあったけれども、つつましく暮らしていて、つい最近、ひっそりとこの世を去っていった。そのとき、婦人の部屋のクローゼットに大事にケースに入れられてしまってあった、その帽子。それが今、このショップにあり、私が目で見て、手で触っているもの。これは、ただの古い帽子ではなく、あの美しい貴婦人が大好きだった帽子。

こんなふうに、ヴィンテージには、その背景に物語があります。


私たちはサイキックではないので、さわっただけで、この情報のすべてを感じとるわけではありません。
けれども、何かがわかるでしょう。
このものが持っている、感情や思いが。
それは誰にでもある経験だと思います。


だから、ヴィンテージのものはなかなか買えません。
手に撮った瞬間、うん、大丈夫だ、いい気分がすると断言できるものでないと、自分のたんすに入れるわけにはいきません。


では実際、どうやってヴィンテージを選んだらいいでしょうか。

まずは、信頼できるショップをみつけること。信頼できるオーナーを見つけて、その人が選んだものなら大丈夫と思えるものを選ぶこと。そういったショップは、余り規模が大きくないですから、少数精鋭の品ぞろえでしょう。

その中から、何度も通って選ぶこと。そして、ほんのちょっとでも、何か違うかも、と思ったら、決して買わないこと。

また、なるべく先によいものを見ておくこと。外国に行ったら、服飾博物館を訪れて、展示品を数多く見ておくこと。ある程度、目が肥えてから、実際に買いに行くとよいでしょう。


次、もう本物のヴィンテージを買うのはあきらめて、ヴィンテージ風のものを選ぶ。新品ではあるけれど、古い感じが出ているものは、それだけでリラックス感があります。そういうものを1つ取り入れると、全体として、スタイルがしっくりくるでしょう。


見えたり、触ったりしたものの先に、見えない、触われない情報がある。これは、何もヴィンテージに限ったことではありません。

本当はどんな新品の服にも、見えない情報があります。
誰が、どこで、どんな環境で、どんな気持ちで作ったか。
生産されたものは、すべてこの情報を持っています。

プレタポルテという、既製服がこの世に出てから、この情報は限りなく買う側から遠ざけられて、わからなくなりました。
大量消費時代になった現在、隠されている情報はたくさんあります。


見えるもの、さわれるものに惑わされないで、それ以上の情報を探索してみましょう。

どんなものにもそれがあります。
それは人でも同じです。
見た目、
語られた言葉、
つけている香り、
それらはいとも簡単に人をだまします。

そろそろ私たちは、それ以上の情報を知る能力を開発したほうがよさそうです。

ヴィンテージを選ぶとき、あなたも試してみてください。
見えないものが、そこにあると感じるかどうかを。
そしてそれがわかる自分であるかどうかを。

2012・08・20


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