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誰も教えてくれなかったおしゃれのルール(アーカイブ)理想のボディ(トルソー)を探すべし

色についても、細かいテクニックも理解し、実践できるようになったけれども、なぜか格好良く見えないことがあります。


その理由の一つに「工業用ボディ」の問題があります。


既製服メーカーは、ほぼすべて工業用ボディというものを使っています。(トルソーはフランス語ですが、日本で婦人服を作る現場では、ボディと呼ぶのが通常です)

そして、その工業用ボディにシーチングと呼ばれる、木綿の生地をのせて、トワルという布のもとがたを作成することによって、紙のパターンを作ります。(シーチングとは、つまり、シーツの生地ということです。)


この工業用ボディですが、どのような基準で作られているかというと、ある一定の日本人女性の体型の平均値によって作られます。

工業用ボディの目的は、多くの人に着られるように作るということです。
日本人女性の体型が理想の体型かと言えば、それは違います。

理想とは、常に今の自分よりも上の状態です。平均的な体型と、美しく格好良い体型も違います。


日本の多くのアパレルメーカーは、この工業用ボディを使ってパターンを作ります。専属の理想の体型をしたフィッティングモデルを使って、トワルチェックをするのは、ごく一部の限られたブランドのみです。

どんなに大手であっても、シーチングで作ったトワルを縫って組み立てて、実際にそれをモデルに着せてチェックするところは、ごくごく少数派です。ほとんどは、ボディに着せたまま、しかも半身のみで、サンプルを作成します。そして、サンプルを着てみるのはほとんどの場合、そこの会社のスタッフです。理想の体型のモデルではありません。


つまり、日本の多くのアパレルメーカーは、理想の体型のための、格好いい服を作っているわけではないのです。着てみて、平均値に近くなるための服を作っています。


ここまで書いておわかりでしょうか。この最大公約数を目的として作られた工業用ボディを使ったパターンでできた服を着たところで、格好良く見えるわけがありません。なぜなら、彼らは格好良いことなど、目指してはいないからです。



例えば私が学生時代に使っていたBUNKAボディです。このボディは、前側に傾斜した首、猫背気味、しかも肉づきのいい背中、そして鳩胸が特徴です。

つまり、日本人平均女性の体型とは、このように、背中が丸まって、鳩胸で、首が前に出ている、ということを示しています。

このボディが着て美しいジャケットを、もし私が着たならば、私は不必要に猫背になり、背中の部分が余り、鎖骨のあたりはぶかぶかになります。もちろん、それは私にとって理想でも、格好いい姿でもありません。よって、私はBUNKAボディで作られた服は、着たくありません。


80年代半ば、日本中がバブルで浮かれていたころ、アルマーニのジャケットが、おしゃれな人のあいだで一世風靡をしました。なぜか。

アルマーニが提案する、格好いい体型が、この日本の平均的体型とは全く違うものだったからです。そのジャケットは袖を通しただけで、猫背が解消され、背筋がしゃんと伸び、誰でもが、格好良く見えたのです。服、特にジャケットのように、中に芯を入れ、形が作られた服には、このように肉体を違うように補正する効果があります。

80年代半ば、インポートブランドが多く入るようになったとき、一部のおしゃれな人たちは、そのことに気づいきました。


パリコレクションに参加するようなブランドは、独自のボディを使います。そして同時に、独自の理想とするフィッティングモデルを必ず雇っています。

また、デザイナーが交代したら、そのボディもかえているはずです。エディ・スリマンのサンローランは、それ以前のサンローランとは、絶対に違うボディを使っています。着てみれば、その違いは明らかです。


どんなジャケットを着ても、何となく垢ぬけて見えない、自分の理想に近づかないのは、もともと、あなた自身の理想とする体型のボディを使って作った服を選んでいないからです。そんな服は、誰が着ても、その程度のものなのです。なぜなら、彼らの理想は、不特定定多数にたくさん売ることなのですから。


幸いなことに、現在、日本だけでなく、各国からのインポート・ブランドが手に入る環境に、私たちはいます。そのすべての中には、どこかに必ず、理想とするボディを使って服作りをしているブランドがあるでしょう。


では、どうやって自分の理想のボディを使って服作りをしているブランドを見つければいいのでしょうか。それは、自分で端から着てみる以外、方法はありません。どんなに誰かが骨格を診断したところで、そんなことは、決してわかりません。

洋服を着るときに重要なのは、骨だけではなく、筋肉と脂肪のつき方、そして姿勢です。洋服の構造やパターンを理解せず、骨格だけで判断できると考えるならば、それは素人考えにすぎません。(言っておきますが、服のパターンは、専門学校に3年行ったぐらいでは、絶対に理解できません)


西洋美術の歴史を見てみればわかるように、ルネッサンス以降、理想の肉体美の追求というテーマが必ず出てきます。ミケランジェロのダヴィデ像が美しいのは、イタリア人男性平均体型だから、ではないのです。それがうつくしいのは、理想としての、憧れとしての、たどりつきたい体型だからなのです。それは、街を歩けばごろごろ転がっているような体型では、決してありません。

そして、日本には、このミケランジェロのダヴィデ像に匹敵する、理想の体型の追求という文化がありません。
もちろん、専属のフィッティングモデルがいるようなブランドのものは、安くはありません。ですから、全身をそれでそろえろとは言いません。

けれども、できればジャケットとコートは、自分の理想の体型のボディを使ったブランドのものを買うことをお勧めします。そんなブランドは、自分の欠点を隠し、理想の体型にその人を近付けます。


チェックポイントは、横と、後ろ姿です。ベテランの販売員の方以外の言葉を信じてはいけません。どんなに不格好でも買おうとさせるのが、今の販売の姿勢です。販売員の方とは、適当に話をあわせ、いつもの自分より、自分がより理想に近づいているかどうかチェックしてください。

猫背に見えたり、変なところにしわができたり、姿勢が悪く見えるなら、そのジャケットは、あなたに合ってはいません。さっさと次を探しましょう。

もちろん、単なる白いシャツも、ニットもすべてにおいて、いいパターンのものは、凡庸な体型を理想に近づけるようにできているのですが、当面のところ、ジャケットとコートだけの試着で構いません。それを着てみれば、大体すべてわかります。ジャケットがだめなところは、すべてよくありません。


自分の体型の欠点を知っているのも自分、そして理想の体型を知っているのも自分です。誰もが同じ体型を目指しているわけではありません。だから、誰からも、どこのブランドが自分にぴったりか、教わることはできません。

文章を読んだだけでもだめ、雑誌のモデルが着ている写真を見ているだけでもだめです。それがわかるのは、実際に着てみたときだけです。

行動しないことには、何もわからないし、変わりません。自分で行動したものだけが、理想の自分に近づけます。それ以外、願いがかなう方法は、残念ながら、ありません。

2014・11・10


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