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LINEみらい財団主催「GIGAスクール時代における新しい情報モラル教育のポイント~組織的な推進のポイント、教員・保護者の現状調査データ、活用型情報モラル教材のご紹介~」オンライン説明会レポート【後編】

一般財団法人LINEみらい財団(以下、LINEみらい財団)では、GIGAスクール構想の中でより重要となっている「情報モラル」と「情報活用」の知識・思考力の育成や向上を図るために開発した、活用型情報モラル教材「GIGAワークブック」の、自治体様・学校様に向けた説明会を2023年6月16日に開催しました。
 
説明会の様子はアーカイブ動画でご覧いただけます。
また、レポート記事(前編、後編)をLINEみらい財団のnoteに掲載しておりますので、ご覧ください。
レポート記事【後編】では、LINEみらい財団が行なった「GIGAスクール対応後の教員・保護者の最新ニーズ実態調査速報」と、常葉大学講師 酒井郷平氏に「情報モラル教育を組織的・体系的に進めるためのポイント」についてお話いただいた内容を紹介します。

▼アーカイブ動画はこちらからご覧になれます。

 
※「GIGAスクール時代における新しい情報モラル教育のポイント~組織的な推進のポイント、教員・保護者の現状調査データ、活用型情報モラル教材のご紹介~」オンライン説明会レポート【前編】はこちら(リンク)



■GIGAスクール対応後の教員・保護者の最新ニーズ実態調査速報
(LINEみらい財団 調査研究部 鈴木信也)

LINEみらい財団では、GIGAスクール構想下の教育現場における情報モラル教育の実施状況についての調査を行ないました。
この調査は多摩大学情報社会学研究所による監修のもと、ウェブ上で教員1000名、保護者1000名を対象とし、2023年3月17日から4月2日にかけて実施しました。調査結果から、教員向けのアンケートの一部を紹介します。

1.GIGAスクール端末の使用頻度

まず、GIGAスクール端末の使用頻度について。「月1回程度以上」が合計で約80%、そのうち「週1回以上」が25.1%、「週3回以上」が36.9%と、比較的高い頻度で、定期的に学校で活用されているという結果が出ています。

2.情報モラル教育の実施時間(年間)

情報モラル教育を2022年度中にどれぐらい実施したかという設問では、「1時間以上2時間未満」が約35%、「1時間未満」と合わせると約50%が2時間未満となっています。また、情報モラル教育を「行っていない」という回答も約20%ありました。

3.情報モラル教育に対する意識

次に、情報モラル教育は必要かというシンプルな質問をしたところ、「そう思う」、「ややそう思う」を合わせて80%以上あり、先生方の意識は高いと考えられます。
一方、情報モラル教育の時間数は足りていると思いますかという質問では、「そう思わない」、「あまりそう思わない」を合わせて約43%、「そう思う」、「ややそう思う」を合わせて約21%という結果でした。足りていないと感じている先生がやや多いようです。

4.情報モラル教育の授業時間の増減意向

そういった中で、現在の時間割の中で情報モラル教育を年間どのぐらい増やすことができるかという質問をしたところ、「増やすことが難しい」という回答が半数近い結果となりました。


5.情報モラル教育の授業を行なうタイミング

次が、情報モラル教育の授業を何の時間に行なっているかという質問です。「総合の時間」が54%と最多で、「道徳の時間」、「ホームルーム」、「情報の時間」が約21%から約31%というのに対し、「国語/算数・数学/理科/社会の時間」は8%に満たないという限定的な数字になっています。

6.情報モラル教材の導入経緯

最後に、情報モラル教材の導入経緯を質問したところ、教育委員会からの指定が約43%という結果が出ております。

7.まとめ
・GIGAスクール端末を「月1回程度」以上使用しているのは全体で約8割。多くの学校で定期的に活用されている。
・年間における情報モラル教育の実施時間は「2時間未満」が約5割、「行なっていない」が約2割。
・情報モラル教育の実施時間が「足りていない」と感じる教員が4割以上いる一方、実施時間を「増やすことは難しい」という回答が半数近くに上る。
以上からは、教育現場で情報モラル教育の実施が必要とされる一方、授業時間の捻出が課題になっていることがうかがえます。
・情報モラル教育の実施は「総合の時間」、「道徳の時間」が比較的多く、「国語」、「算数」などの各教科での実施は限定的。
・情報モラル教材の導入は、教育委員会からの指定が4割以上と最多。教育委員会による影響の高さがうかがえる。
以上より、現在の年間計画の中で情報モラル教育を新たに追加することが困難な中、「国語」、「算数」など各教科で端末活用時に情報モラル教育を行なうことがひとつの方法だと考えられます。
そこで、こういった調査結果を踏まえて、学校において具体的にはどういう進め方で活動していけばよいのか、常葉大学の酒井先生からお話いただだきます。

■情報モラル教育を組織的・体系的に進めるためのポイント(常葉大学講師 酒井郷平氏)

1. 情報モラル教育の課題

「教育課程でゆとりがない」教員が感じている課題
先ほどの調査とは別にものになりますが、LINEみらい財団GIGAワークブックの教員向け研修を行なった際に、現場の先生や教育委員会の方から取ったアンケ―ト結果の一部をご紹介します。
設問は、「GIGAワークブックを活用して自ら授業(ホームルーム等での活用含む)ができると感じることができたか」、つまり、研修でGIGAワークブックの内容を見ていただいて、ご自身で実践できそうかということです。
「そう思う」が約60%、「ややそう思う」が約34%となっている一方で、「どちらとも言えない」、「あまりそう思わない」、「まったくそう思わない」という回答もそれぞれ5.5%、0.5%、0.5%ありました。
後者の理由として「教育課程にゆとりがなく、時間設定が難しいと思うから」、「どの時間にやるのが適切か、これを考えることが難しい」という回答があり、やはり時間の確保を課題に挙げておられます。また、おそらく中学校の先生だと思うのですが、「自分の教科の中ですべて行なう事は難しい」という回答もありました。

このことから、情報モラル教育の課題が2つ見えてきます。1つ目は、教育課程や授業との関連を持たせることの難しさ。2つ目は、組織的に情報モラル教育へ取り組むことへのハードルの高さです。
そこで、この2つの課題に対して、GIGAワークブックと絡めながらご紹介、ご説明させていただきます。

2.教育課程や授業との関連を持たせるには

情報活用場面がどこにあるか考えることがポイント
学校で情報モラル教育を進めていくための手順として、大きく以下の4つの流れが考えられます。
① 生徒の実態を把握する。これは、画一的に同じ教材をすべてのクラスに当てはめるのではなく、学校や地域ごとに実態に応じたものを使うことがポイントになると思います。
② 年間指導計画の作成。学年ごとに、どういうスケジュールで、どの教科でやっていくか情報モラルの指導イメージを学校内で共有します。
③ 指導方法の検討。指導計画や目標に応じて、具体的な場面ごとの指導方法を検討します。
④ 実践・評価
 
③と④については、GIGAワークブックの導入によってカバーできる部分が多いのではないかと感じております。GIGAワークブックには、15分という短い時間で実践できるコンテンツも入っていますので、柔軟に指導方法の検討や実践につなげていけるのではないでしょうか。
一方で、②の年間指導計画の作成は、お困りの先生が多いのではないと思います。そこで、まずは無理せずできるところから進めることが大切になってきます。先ほどのアンケート結果の中で、自分の教科の中ですべてを行なうのは難しいというご意見がありましたが、その通りだと思います。すべての授業・教科に情報モラル教育を組み入れることは現実には難しいでしょう。ポイントは、情報活用場面がどこにあるか、それを含んだ教科が何かを考えていただくことです。
これまでの情報モラル教育は、(何か問題が起きたときに、それについて学ぶという)対症療法的なものでした。それを態度の側面というふうに捉え直すと、少しずつでも継続的に行なっていく方が、態度は養われていくと考えられます。
これについても、GIGAワークブックの15分間の活用により、例えば情報活用場面の「導入」や「振り返り」の役割としても位置づけられるのではないでしょうか。
 
年間指導計画の作成については、
「GIGAワークブック指導計画サポートブック2023年度版」を紹介させていただきます。これは学年ごとにGIGAワークブックを導入する際の年間指導計画例や実施項目のチェックリストが載っている指導計画のサポートツールです。


GIGAワークブック単体だけではなく、まずは、こういったサポートツールも参考にして、ご自身の学校でできるところを考えていただけるとよいと思います。

●GIGAワークブック 指導計画サポートブック2023年度版


3.組織的に情報モラル教育へ取り組むには

まずはワークを「体験」してもらい「模倣」「アレンジ」と段階を踏むことが必要
次に、組織的に情報モラル教育へ取り組むためのポイントです。よくある課題として、情報モラル教育は担当の教員がやってくれるだろうと考え、学校全体で取り組めないという声を聞きます。しかし、情報モラル教育を継続的に行なっていくことを考えると、学校全体で組織的に取り組んでいく姿勢は重要です。
児童・生徒が1人1台端末を使う状況で、これからは先生の姿から情報モラルの態度を学んでいくということも考えられます。ですので、「うちの学級ではやらない」というような情報モラル教育に消極的な先生は、子どもたちからも、態度の育成という意味では少し消極的に映ってしまいます。
また、情報モラルを指導することで、よくあるトラブルや今何が求められているのかということもわかり、先生方自身の情報モラル教育にもつながります。こういった点からも、学校全体で組織的に情報モラル教育に取り組んでいくことが必要です。
 
組織的に情報モラル教育へ取り組むためのポイントとしては、体験、模倣、アレンジという段階を踏んでいくことだと思います。
GIGAワークブックがどういう教材なのかを知っていただくためにも、まずは「体験」する機会を設けていただくことです。
次に、授業の実践事例を学校内で共有し、そうした事例をいろんな学級で「模倣」していく。慣れてくれば、独自に教材を「アレンジ」して活用していくことも考えられます。
また、組織的に進めていくためには、全員が同じペースで進んでいくのではなくて、先進的に取り組む先生と模倣しながら実践していく先生に役割を分けていく必要もあるでしょう。
GIGAワークブックの活用研修会や校内研修での体験からスタートしていただいて、役割を決めて模倣、アレンジというふうにつなげていただくのがよいと思います。
GIGAワークブックを使った情報モラル教育のポイントを解説した動画も公開されています。こういったものを、例えば校内研修の前に先生方に見ていただいて、ある程度ポイントを知っていただいてから体験していただくこともできます。

●活用型情報モラル教材「GIGAワークブック」(動画)
https://www.youtube.com/watch?v=OEXHQHlqJLY
●GIGAスクール時代における新しい情報モラル教育のポイント(動画)
https://www.youtube.com/watch?v=b5VMUcLG58Y

4.今後の取り組みについて

動画教材などサポートツール開発
最後に、ここまでの話を踏まえて、今後の取り組みの計画を説明させていただきます。
GIGAワークブックの普及を進めるため、学校管理職の先生や情報担当主任の先生に対しては、年間指導計画作成のサポートツールや動画教材のような校内研修に向けたサポートツールを開発していきます。また、各クラスの担任の先生や各教科の先生に対しては、実践事例を共有するためのコンテンツや、家庭との連携を進めるためのサポートツールを開発予定です。
このように、今後もGIGAワークブックを中心に情報モラル教育を進めていきたいと考えております。


説明会の内容は以上となります。塩田先生、酒井先生ありがとうございました。
 
今後もLINEみらい財団は、教育現場や社会の変化にあわせ、情報モラル等に関する教育活動に取り組み、子どもたちがデジタル社会で生きる力を養うことを支援してまいります。
 
「GIGAワークブック」について詳細等は、こちらの特設サイトをご参照ください。

●活用型情報モラル教材GIGAワークブックについて

講師プロフィール
常葉大学教育学部 講師 酒井郷平(さかい きょうへい)
愛知教育大学・静岡大学共同大学院博士課程修了、博士(教育学)。東洋英和女学院大学助教、講師を経て、現職。専門は、教育工学、教育方法、情報教育。情報モラル教育を中心に、学校教育における「現代的な課題」に対する教材開発や調査研究について工学的に研究している。主な著書に、『行動改善を目指した情報モラル教育―ネット依存傾向の予防・改善―』(2018)などがある。



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