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GIGAワークブック2024年度版の進化と、授業前後の児童の意識変化【前編】

LINEみらい財団は、2024年3月8日、「2024年度版GIGAワークブック活用セミナー 〜教育現場ニーズに対応した最新教材情報と、授業前後の児童の意識変化データを公開〜」を自治体様および学校様向けにオンラインで開催しました。
このセミナーでは、活用型情報モラル教材「GIGAワークブック」の2024年度版での新規追加コンテンツと現在制作を進めているサポートツールのご案内、そしてGIGAワークブックを使った授業前後での児童の意識変化調査のデータ公開等を行ないました。

▼アーカイブ動画はこちらからご覧になれます。

このセミナーのレポートを前編・後編の2回に分けて掲載いたします。
【前編】では、静岡大学の塩田真吾氏による「2024年度GIGAワークブック追加教材の概要」と、常葉大学の酒井郷平氏による「GIGAワークブック教材の逆引き・年間指導計画例検索WEBツール」についてお話いただいた内容を紹介します。

▼【後編】はこちらから
https://note.com/line_mirai/n/n3fdce2dff4b9


■2024年度GIGAワークブック追加教材の概要について
(静岡大学教育学部 准教授 塩田真吾氏)

1. GIGAワークブックの概要と2024年度版で追加されたコンテンツ

活用場面ごとに短い時間で実践できる教材を提供

これまで情報モラルの授業は、道徳や学活、総合などで45分とか50分かけてやるという学校が多かったと思いますが、なかなか時間が取れないという問題もありました。そこでわれわれは、各教科のタブレットを使う場面ごとに短時間で情報モラルについて指導していくというアプローチを考えました。45分、50分かけて行なう授業が必要ないというわけではありません。それに加えて活用場面ごとに短い時間で実践でき、また、情報活用と情報モラルがセットで学べるものがよいのではないかという考えです。
このアプローチで作っているのが「GIGAワークブック」になります。主に小学校1年~3年向けの「ビギナー」、主に小学校4年~6年向けの「スタンダード」、主に中学校・高校向けの「アドバンスド」と3種類を用意しております。

この4月からの2024年度版「GIGAワークブック」では、次のようなコンテンツを追加しました。
① これからの学習スタイルで増えると考えられる、探求的な学びに使える活用スキルのコンテンツ。
② 生成AIに関するコンテンツ。
③ これまでわれわれが取り組んできた情報防災訓練、金融・情報リテラシー、性被害対策のコンテンツ。

2. 探求的な学びに使える活用スキルのコンテンツを追加

課題の設定、情報収集、整理・分析、まとめ・表現するための情報活用能力を学ぶ

まずは、探求的な学びに使える活用スキルのコンテンツの追加です。GIGAワークブックでは、写真を撮るとか調べものをするといったICTを使う場面ごとに、活用スキル、情報モラル、トラブル対応について短い時間で実践できるコンテンツを用意しています。
2024年度版では、このうちの活用スキルを24コンテンツ追加しております。

この背景として、探求的な学習がこれから増えていくと考えられることがあります。課題の設定、情報収集、整理・分析、まとめ・表現というものが探求的な学習のプロセスですが、これらは、まさに情報活用能力が基盤となります。探求的な学習の力=情報活用能力と考えてもよいと思えるくらい情報活用能力がベースになってくると思います。
具体的には、例えばビギナー版では、情報収集するにあたって「どの方法で調べたらよいのかな」という課題を設定しています。図鑑で調べるのか、インタビューをするのか、新聞なのか、そういったところを学んでいくコンテンツです。

また、何でもかんでも調べればいいというわけではなくて、調べるべき「よい問い」を作ることがとても大切ですよね。そこで、調べるべき「よい問い」をどのように作るかを考えるコンテンツも追加しています。

また、情報分析する際にいろいろなデータ、例えばグラフが2つあって、その2つのデータから「どんなことが言えるのか」ということを読み解いていく力も必要になってきます。そういったことを学ぶコンテンツも入っています。
話し合ったことを共有していくために、会議を効果的に進めるための働きかけ、いわゆるファシリテーションの力も必要になってきます。そこで、会議の進行・まとめ役である「ファシリテーターをやってみよう」といったコンテンツも追加しました。

3. 生成AIに関するコンテンツを追加

生成AIだけではなく新しいサービスや危険の出現にも適切に対応できることが重要

2つめは、「生成AI」に関するコンテンツの追加です。今まさに生成AIはホットな話題で、もし学校現場で活用するとなれば、いろいろな心配事もあると思います。例えばよく言われるのは、情報の不正確さとか、著作権の侵害や個人情報の漏洩とかですね。自分で考えずにすぐに(AIに)聞いてしまうとか、使いすぎとかの問題も考えられます。
このあたりは、これまでのネットの付き合い方でもある程度は同じなので、対応できるコンテンツはすでに入っています。また、生成AIだけではなく、「将来の新たな機器やサービス、あるいは危険の出現にも適切に対応できることが重要」ということが学習指導要領にも書かれています。そこで、生成AIに対応する力だけではなく、新しい情報技術と上手に付き合う力を育てるコンテンツを追加しました。
 
例えば、「新しい情報技術とのつきあい方を考えよう」というコンテンツを東京都教育委員会様と一緒に作りました。「きりり」というキーワードにまとめたのですが、新しい情報技術が出た時にはまず基本的な仕組みや「規約(き)」を知る、どんな「リスク(り)」があるのか考える、そのうえで上手な「利活用(り)」の方法を考えるということを学べるコンテンツです。
それから、保護者と一緒に生成AIを体験してみよう、というコンテンツも入っています。

4. 情報防災訓練や金融・情報リテラシー、性被害対策のコンテンツを追加

災害時のSNSの使い方やキャッシュレス決済などとの上手な付き合い方を考える

そして3つめは、情報防災訓練や金融・情報リテラシー、性被害対策に関するコンテンツの追加です。これまでわれわれが研究してきた内容をカスタマイズして入れています。
情報防災訓練は、「災害時にどのようにSNSを使っていったらよいのか」といったことを学ぶ教材です。
金融・情報リテラシーは、キャッシュレス決済ですとか、見えないお金と上手に付き合うためにはどうしたらいいのかを学ぶ教材です。特に商品購入時にもらえる「ポイント」については、考えなくてはいけないことが多いと思います。
そして、性被害対策。例えば自画撮り被害をどのように防いでいくかとコンテンツです。

最後に、ちょっと気が早いのですが、来年度「GIGAワークブック(2025年度版)」がリリースされる予定ですが、どのように考えてるかということだけお知らせして終わりにしたいと思います。今回、活用スキルを24コンテンツ追加しましたので、2025年度版では情報モラルとトラブル対応のコンテンツをそれぞれ同程度増やす予定です。
 
まずは、2024年度版で追加した活用スキルのコンテンツをご活用いただき、来年度追加予定の情報モラルやトラブル対応についても情報をお寄せいただけますと幸いです。
私からは以上です。ありがとうございました。
 
※2024年度版の「GIGAワークブック」は、LINEみらい財団のホームページより無償でダウンロードできます。中身の確認のほか、テスト授業などにもご活用ください。
新たに「生成AIの活用」などに関するコンテンツを加えた2024年度版「GIGAワークブック」を全国の学校向けに無償で提供開始

■GIGAワークブック教材の逆引き・年間指導計画例検索WEBツールについて
(常葉大学教育学部 講師 酒井郷平氏)

1. 「GIGAワークブック」を学校で使いやすくするサポートツール開発の背景

学校の現場でどのような課題があるのか(調査データより)

私の方では、「GIGAワークブック」を学校でより使いやすくするためのサポートツールの開発を行なっております。完成前ではありますが、その概要についてご紹介いたします。
 
その前に学校の現場でどのような課題があるかを見てみたいと思います。
LINEみらい財団が2023年3月~4月に調査したデータ(※)をご紹介させていただきます。
※調査の詳細は、LINEみらい財団ホームページにてご覧いただけます。
「GIGAスクール構想における情報モラル教育の実状等に関する調査報告書」を公開
 
「学級で情報モラル教育は必要だと思いますか」という問いを見ると、8割を超える方が、「そう思う」「ややそう思う」と回答しています。一方で、「今年度の時間割の中で、情報モラル教育を年間どのくらい行なっていましたか」という問いでは、年間の授業実施時間が2時間未満という方が5割を占めるというのが現状です。

また、「情報モラル教育の時間数は足りていると思いますか」という問いでは、33%の方が「あまりそう思わない」、9.8%の方が「そう思わない」と回答されています。「現在の時間割の中で情報モラル教育を年間どのくらい増やすことが可能だと思いますか」という問いについても、「増やすことが難しい」という回答が44.5%と、ネガティブなご意見が多くあります。情報モラル教育の時間数が足りていないと感じていらっしゃる先生が多い反面、とはいえ実施時間を増やすこと自体も難しいということが現状として考えられます。

別の調査になりますが、「GIGAワークブック」の研修に参加された先生に、「実際に授業で活用できると感じたか」を聞いたアンケートの結果があります。ほとんどの方が「そう思う」「ややそう思う」という回答だったのですが、「どちらとも言えない」「あまりそう思わない」「全くそう思わない」といった回答も合わせて6.5%ありました。理由を伺いますと、やはり「教育課程にゆとりがない」、「どの時間にやるのが適切か判断するのが難しい」、「自分の教科の中ですべてを行なうことは難しい」といった意見がありました。

このことから「GIGAワークブック」自体はコンテンツがそろっているとか使いやすいという印象をお持ちでも、実際に使うとなると課題も多いと考えている先生がいらっしゃることがわかりました。

自治体の教育委員会等が主導となって「GIGAワークブック」を学校に紹介していただくことも多いと思いますが、その情報を受け取った学校では次の2つの課題があるのではないかと考えております。
そのひとつめとしては、例えば管理職の先生などが多忙な状況で、学校が一体となってこれを活用することが難しい、どうしても情報主任の先生や1人のICTが得意な先生に任せきりになってしまうこともあると思います。
2つめは、「GIGAワークブック」のコンテンツが多くなってきたこともあり、情報担当主任の先生ですとか各担任の先生は、実際の授業でいつ使うか、どこで使うか、何を使うか、といったことを判断するのが大変というお悩みもあると考えております。

2. 中長期的な指導に向けた「指導計画サポートツール」

指導する学年や重視するスキルなどを選択すると年間指導計画のモデルを提示

現在、先ほどの2つの課題に焦点を当てたコンテンツ・サポートツールを開発しております。
まず、ひとつめの「多忙な中で学校一体となってGIGAワークブックを活用することが難しい」という課題に対する解決策について、中長期的な指導に向けた「指導計画作成サポートツール」ご紹介します。
これは、ウェブサイトの中で、学年、重視するスキル(指導方針)、実施頻度を選ぶと、これぐらいの時期にこういった教科で、「GIGAワークブック」のこのワークを行なえますということを年間指導計画のモデルとして提示するものです。
年度始めや学期始めに指導計画を立てる際にご活用いただくことを想定しております。提示された指導計画例を参考に、学校で詳細なものにアレンジしていただくというような使い方ができるのではないかと考えております。

3. 効果的な指導に向けた「GIGAワークブック逆引きツール」

指導したい内容に合う「GIGAワークブック」のコンテンツ、ページ数を提示

2つめの「情報主任の先生や各担任の先生が、いつ、どこで、どのコンテンツを使えばいいのかを判断するのが難しい」といった課題、お悩みについても、同じようにウェブツールを開発しております。
こちらも学年、教科、目的となる身に付けさせたいスキルなどを選んでいただくと、「GIGAワークブック」の「ビギナー」とか「スタンダード」とかの、何ページめのこのコンテンツがお勧めですよと提示してくれるものになります。
日常の教科指導の中で「この教科との連携は難しいかな」と思われる場合でも、このツールで検索すれば、「このコンテンツと連携ができそうだ」ということを確認していただけると思います。また、学校で子どもたちの情報モラルに関するトラブルが起きるなど「クラス全体で指導したい」ときに使えるコンテンツを探すというような逆引きツールとして使えるようにしたいと考えております

この2つのコンテンツが搭載された活用サイトに利用者向けのガイドブックを付けまして、先生方の課題に対する課題解決改善を目指しております。
簡単ではございますが、私の方からは以上です。ありがとうございました。
 
※サポートツールの具体的なリリース時期やウェブサイトへのアクセス方法は、詳細が決まり次第LINEみらい財団から発表いたします。

後編はこちら https://note.com/line_mirai/n/n3fdce2dff4b9
 
●「GIGAワークブック」について詳細等は、こちらの特設サイトをご参照ください。
活用型情報モラル教材GIGAワークブックについて



講師プロフィール
静岡大学教育学部 准教授 塩田真吾(しおた しんご)
早稲田大学大学院博士課程修了、博士(学術)。千葉大学特任研究員、静岡大学教育学部助教、講師を経て、2015年より現職。専門は、教育工学、情報教育。第4期静岡大学若手重点研究者に選定。2021年より文部科学省ICT活用教育アドバイザーを務める。
 
講師プロフィール
常葉大学教育学部 講師 酒井郷平(さかい きょうへい)
愛知教育大学・静岡大学共同大学院博士課程修了、博士(教育学)。東洋英和女学院大学助教、講師を経て、現職。専門は、教育工学、教育方法、情報教育。情報モラル教育を中心に、学校教育における「現代的な課題」に対する教材開発や調査研究について工学的に研究している。主な著書に、『行動改善を目指した情報モラル教育―ネット依存傾向の予防・改善―』(2018)などがある。

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