短編⑮

 初めてのスマホからの投稿。上手くいくでしょうか。とても心配。

 今回もお題.comからで『おそろいの指輪』です。割としっかりできた。と思う。たぶん。約2000字。万人向けの短編です。ちょっとこなれてきたかもね。

* * *

 もう、忘れてしまっているだろうか。遠い日の約束。誰しもありそうな、ありきたりな思い出。大切な約束だった。少なくとも当時は。
 今は、どうだろう。素敵な思い出ではあるが、それはそのまま残しておきたいような、思い出してくれたら、ドラマや映画のような感動的展開を望んでもいいものか。


 もそもそと朝食を食べながら、自室の棚に、態々ケースを買って飾った古びた指輪を見上げた。


 それが見つかったのは、押し入れの整理をしているときだった。
 何か気に入らないことがあれば、決まってどこかの整理整頓をするようにしている。そうするとうまい具合に身体を使うことができて、身の回りもスッキリするからだ。


 そのときは、なんだったか。もう忘れてしまったということは些細な苛立ちだったのだろう。
 それを解消するために押入れの中身を片端から引っ張り出して、整理しようとした時にそれは出てきた。


 これまで、思い出なんて数えるほどしかなく、スルーし続けてきた中、それだけは異彩を放っていた。
 見た途端に思い出した。かつての出来事を。
 そして意外にも夢見がちな自分に驚いたものだった。


 その指輪は子供の頃、ある友達に貰ったものだった。いつまでも一緒だよ、と、そう言った友達は無情にも親の転勤で引っ越していってしまったが。いや、その子のせいではないのだが。


 それでも当時はそれが分からなくて、一度ならず捨てようとした指輪で。そのたびにその子との思い出が蘇って捨てるに捨てられず、どこかにしまったまま、いつの間にか失くしていたものだった。


 それで今更何を、とも思ったが。この年まで来ると、どうでもよさと、どこかそれが自分ではなく他の誰かの記憶のようにすら思えてくるものだから。
 ふと思い立って、ケースを買ってきて入れて、自室の棚に飾ることにしたのだ。


 こうすることで何かあるわけではないけれど。  
 その思い出はまだそこにあって、ケースがそれを守ってくれるような気がして。


 そんなふうに、形のないものを大事にすることが、新鮮で楽しくて。
 なにかあると、もしくは何もなくてもそちらに目をやるようになった。


 傍目から見れば、古びて汚れたガラクタみたいな輪っかを大事にケースに入れて、それを見てニヤニヤする変人かもしれないが。
 なんとなくそうするようになってからは、不思議と調子が良くなって、でも、元々面倒くさがりなために、部屋が散らかる一方で。


 良し悪し、という感じだった。


 そんなある日のこと。大人になってから出来た知り合いと、いつものように昼食を共にしたときのことだった。
 その知り合いは、食の好みが合う相手が少ないとよく愚痴をこぼしており、そのたびに誘われる、いわば犠牲者とも言えるわけで。


 好き嫌いは少ない方だからと付き合ってあげているが、その日はどうにもダメだった。
 虫はさすがに食べられないし、食事風景を見るのもダメだ。


 とはいえ一人は寂しいし初めての店だからと引きずられるように入店。仕方がないので目をつぶって手探りでお冷を飲んでいる。
 そんな意味のわからない状態で、カタン、コロコロと、何かが落ちた音がして、つま先に何かが当たった感触がした。


 あ、ごめんと聞こえる声からして落とし主は眼の前の知り合いのようで、それならと、テーブルの下に頭を突っ込み、それを探すと。
 そこにあったのは、幾分かきれいなあの指輪だった。


 思わず頭を上げて強かに頭を打ち付ける。
 大丈夫!?と慌てる声に、無言でそれを拾い上げ、懐かしい呼び名を口にした。


「久しぶりだね。あーちゃん」

「……気づくのが遅いんだよ。ばーか」


 そんなふうにして、失くしたと思っていた繋がりは、今までで無かったことが嘘のように戻ってきて。
 悪友が新たに一人、増えることになったのだった。


終わり


蛇足 あーちゃんといっくん

「いっくん、それとって」
「やだよ。今忙しいから」
「忙しいってマンガ読んでるだけじゃん」
「今いいとこなの」
「全く、『仏頂面』がいっくんだったなんてね」
「そういうお前は『ニヤケ面』だろうが」
「うわ、傷ついた」
「ふざけろ」
「あはは、それにしても……覚えててくれたんだ」
「つい最近まで忘れてたよ。押入れの掃除してたら思い出した。きったねぇ指輪が出てきてさ」
「うわ、サイテー。女のコとの思い出だよ?」
「重ねてふざけろ。自分の身を振り返ってみな」
「思い当たる節しかないわ」
「だろうね」
「……にしても不思議だよね」
「何が?」
「ついこの間まで赤の他人みたいな付き合いだったのに。あの指輪だけでここまでくっついちゃうんだもん」
「ヤな言い方すんなよ。寒気が走るだろ」
「ひどっ」
「でもまぁ。俺もそれは思った」
「でしょ!?あ、そうだ!そっちの指輪見せてよ!そのきったねぇっていう指輪!」
「おまえ……やーだよ、面倒くさい」
「なんで!?」
「だってお前そんなことしたら……

終われ

* * *

あとがき

 一人称使用しないチャレンジ。達成……出来てる?2人の絶妙な距離感。最後だけだけども。

 割とすんなりいきました。2人をどうやって会わせるかだけ、ちょっと考えました。こんなご時世だもんね。なんかはっちゃけ過ぎるのもね。

 毎回蛇足が長いんじゃ。
 では、また機会があれば、よろしくおねがいします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?