短編④

 たぶん短編です。8000字弱。ファンタジー系。主人公は無口なおっさんです。たぶん公開したことはない、だいぶ前に書いたやつ。2人の視点が交互に入る感じのやつです。

 割とちゃんとした小説…のつもりです。一応何度か手直ししてるのでガバくはないはず…。

* * * * * *

 焚き火に照らされる植物紙が白く光る。反射ではない。この紙自らが光を放っている。不思議と眩しくないその光は、私がそこに筆を滑らせるとふわりと浮いて漂った。
 さらさらと筆を滑らせて、呪いの一句を書き終える。
 さて、次は何を書こう?

 薄暗い森の中、空き地の中央の焚き火から少し離れたところに一人の男が居た。その男の表情は真剣で、手元の白い紙を凝視して何か考え込んでいる。
 彼の傍には大きな背負い鞄が一つ。ただ、それは鞄の大きさの割に内容物はそう多くないように見える。また、鞄には幾つもの丸められた紙 - スクロール - が縛り付けられているようだった。

 しばらく物思いに耽っていた男はふと頭を上げて、なにやら猛烈な速度で筆を走らせ始めた。それは紙が大きく震えるほどであったが、結局書き損じることは一度として無く、森の静寂を破ることも無い奇妙な静謐さを携えていた。

 数秒の先には書き終え、男はそれを満足そうに眺めるとクルクルと巻いて鞄へと括りつけた。そこから更に1枚の紙を抜き取り、それを手に焚き火の元へ戻ろうとしたところで、男の横方向にある茂みからガサガサと音がして、一人の女が姿を現した。
 男はビクリと身体を震わせてその方向を見る - こともなく、冷静そのままに焚き火の傍に戻ろうとしたところでその女は男に声を掛けた。

「あ、あのっ」

 しかし、それに頓着せず焚き火の前に座り込んだ男は、今度は少しも考える素振りも無く、瞬時に一筆書き上げると丸めることもせずにその中心を突きはっきりと告げた。

「発動 - アウェイクン - 」

 その瞬間に辺りは再び静寂に支配された。男の隣にはいつの間に近寄ったのか、女が心細く眉を下げ懸命に男に話しかけている様子だが、男の耳にその声は聞こえてなかった。静寂(サイレント)のスクロールの効果であったが、そんなことは女の知る由もない。
 男はもう一枚の白紙を取り出し、それを手に熟考に入った。


 それからどれだけの時間が経っただろうか。顔に当たる光にふと顔を上げた男は、光り輝くスクロールを見てそれに手を伸ばし__握りつぶした。音も無く五月蝿い光は消え、その残滓を残すことなく消滅する。
 それを見た男は満足そうに頷き、焚き火を消そうと足元を見下ろしたところで眉を顰めた。その焚き火の隣には見知らぬ女が寝転び寝息を立てていたからだ。

 男は丁重にその身体を抱き上げ、女が出てきたはずの茂みの中に戻すと焚き火の元へと戻った。


 __鳥の鳴き声に男は薄目を開けた。薄暗がりの森の中、まだ日は昇っていない。それどころか鳥の姿さえそこには無かった。あるのは鳥の鳴き声を上げている一枚の紙。
 男は幾らか草臥れて色も褪せているその紙の中心に指を突き立ててぼんやりと言った。

「休止 - レスト - 」

 鳴り止む紙をクルクルと丸め、枕元に置いた鞄に括りつけると、男は大きく欠伸をして…背中を何者かに突き飛ばされた。数歩多々良を踏んで後ろを睨みつけると、そこには昨晩の女が居た。
 男にはそこに例の女がいるのは分かっていた。ただ、"攻撃"してくるとは思わなかった。

 男は素早く鞄から一枚の丸めた紙を抜き取ると躊躇無く"発動"した。
 その紙は男の指に突かれるまま空中を滑るように動き、驚いて口を開ける女の顔面に張り付く。強静(クワイエト)のスクロールの効果だ。女は混乱して紙を引き剥がそうともがいている。

 男はそれを鼻で笑った後に手早く荷物を纏めると足早にその場を後にした。


 酷い目に遭った。彼女は先日遭遇した男を思い返してギリギリと拳を握り締めた。薬草採りで森の中で迷ってしまったのも災難だったが、その後がなお悪かった。
 辺りが暗くなり始めて焦っていたところに焚き火の光を見つけてホッとして近寄ったものの、そこにいた旅人と思われる男は彼女をガン無視して"お絵かき"をして、しかもそのまま就寝。
 仕方が無いから明日の朝、是が非でも話を聞いてもらおうと焚き火の傍で寝て、起きたら茂みの中で草塗れ。
 流石にキレて寝起きに突き飛ばして仕返しをしたら、今度は顔にべったり張り付く何かを飛ばしてきて、焦って引き剥がそうとしても全然引き剥がせなくて、意識が遠くなって…目が覚めたら男は居らず。
 そのまだ新しそうな足跡を追って漸く森を抜け、村へと戻って来れたのだけど。

 ただ道を聞きたかっただけなのに、無視された挙句に殺されかけたのだから溜まったものではない。
 危ない人だった、ということならまだ頷けるが、こう見えて狩人の娘である私は害意を察知するという感覚に優れているのだ。その感覚を信じるならばあの男は悪人ではなく、単に私が突き飛ばしたことに対する報復としてあんな悪ふざけにも近い方法で仕返しをしてきたのである。
 それが何よりも腹立たしかった。
 嫌なら嫌、知らないなら知らないと口で言えばいいのだ。
 それもせず、まるで何か鬱陶しい虫を追い払うように扱われたことが酷く気に障る。

「あ~もう…さいっあく!」

 その言葉に反応したのか、扉の向こうの存在の動揺が伝わってきた。足音を聞いていると父さんのようだった。

「どうしたの?父さん」
「いや、客人がいらっしゃったのだが」
「ん、行く。待ってて」

 だけど、村長の娘として客人を迎えることとそのことは話が別だ。
 なにより父さんを困らせたくないし、そう思って私は深呼吸して心を落ち着けてから身支度を整え部屋を出た。


 紙束を括り付けた鞄を手に下げた男は村長の隣から女が出てくるなり思わず目を瞠った。見間違えようもない。昨晩の鬱陶しい女である。ちら、と村長を見るにどうやらその女は村長の娘のようだった。
 女はと言えば男を見るなり一瞬顔を顰めた後、村長の下を訪れる旅人に向けた来客用の笑顔へと表情を変えた。その変わり身の早さに一瞬戸惑った男であったが、ほっと胸を撫で下ろした。
 野宿は野宿で乙なものだが、屋根がある方が当然良いのだから。

 だが、そこで終わりではなかったのだと男が気が付いたのは、翌日、散歩と称して村を見て回っていた時だった。村人たちが農業に勤しむ中、村はずれに佇む女は男を待っていたかのように手招きした。
 __逃げ場は無い。
 そう悟った男だったが、ただ捕まるのも癪であった。
 男はズボンのスクロールホルダーから一つ紙筒を取り出すなり、広げて小さく呟いた。

「発動 - アウェイクン - 」

 それだけで、たった10cm四方の紙切れが1m四方の半透明の板へと変形し、地面上数センチのところを走り出す。
 駆け足でそこに追いつき飛び乗った男は軽やかに滑り出し、女が呆気に取られている所を通り過ぎて…

 __バランスを崩して付近に生えていた庭木と正面衝突した。


 ズシン、と音を立てて庭木と男が揺れるところを見た私は嘆息した。かっこ悪い、と。
 男の目つきが変わって、変な板切れに乗って滑り出したところは、なんかちょっと颯爽としていて、おっさんでなければかっこいいかな、と思えるぐらいだったのに。
 私はさっきの高揚が嘘だったかのようにあっという間に冷めていた。
 なんだ、つまんない、ともちょっと思った。

 走って追いかけるまでもない。歩いてその胡散臭いおっさんのところへ行くと、その人は頭を振りつつふらふらと立ち上がるところだった。あれだけ勢いよくぶつかっておいて怪我もないのは褒めるところだろうか。
 私と目があってぎょっとするおっさんに、私は大きくため息を吐いた。

「おとといのこと。謝ってもらおうと思ったけど、もういいわ。なんか疲れたし」

 その私の言葉にほっとした顔をしたのにはちょっとイラっとしたけど。
 逃げ回るおっさんを追いかけるのもバカらしいし。

「村、案内してあげるけど、どうする?」

 すると、その人は首を振って断った。まぁ、当然だよね。私だって農作業サボるための口実だし。
 あーあ。せっかく、ちょっと期待したのにな。旅人がこの人じゃなかったら…なんて考えながら、私は怒られるのを承知で畑の方に戻るしかなかった。


 思いのほかあっさり引き下がった村長の娘のことを少し見直した男は、改めて散歩を再開した。サボりを庇う気は男には無い。そもそもそれが目的であることすらどうでもよかった。
 男は呑気に村を見回りながら、次はどんなスクロールを作るか、想いを馳せるのだった。

 その数日後。見るところも無くなったので、男は村を発つことにした。
 元々ただの小さな農村である。何か特別目立つものもなかったし、訓練も一区切りついたので、男はあっさりと村を出た。

 さて、今日は何を書こう?

 しんと静まり返った森の空き地で、男はボロボロになった手帳を開いてそんなことを呟いた。
 時刻は夜。男は夜が好きだ。暗がりで、時折、焚火に燃える木切れが爆ぜる。そんな音に耳を傾けるのが好きだ。

 そうだ。あの村での顛末でも書くか。

 そういえば、今日この後村を発つことを伝えたときの娘の顔は見ものだった。怒りや寂しさがない交ぜになった後、最後に出て来たのは無関心だった。
 いや、努めて無関心にしていたのかもしれない。
 男は娘に対して村内で会えば挨拶をする程度までは関係を改善していたが、逆に言えばたったそれだけだった。
 だと言うのに、女心とは分からないものだ。

 そう思って指ではなくペン先を手帳に突きかけたその時だった。

 遠くで魔獣の声が聞こえた。特にこの辺りで凶暴と言われる5足の鹿の魔獣だ。6足の鹿は神聖視され、その性質も大人しいものだが、なぜか5足の鹿は邪悪であるとされている。
 その声は酷く濁っていて、それでも大気を大きく震わせるだけの力を持っていた。
 ……過去に一度だけ、男はその声を聴いたことがあった。当時は慌てて逃げ出したものだったが。

 いずれにせよ、これだけ遠ければ問題ないだろう。そう考えて視線を上げて声のした方角を見上げて。

 男は戦慄した。


 勢いよく突き飛ばされて私は地面を転がった。
 悲鳴と共に何かが潰れる音と、ビシャッと水音がして赤い液体が広がる。私はガチガチと震える歯を食いしばって、地面の土を握り締めることしかできなかった。

 なんでこんなことに。どうして私が。父さんはどうなったのか。これからこの村はどうなるのだろう。
 いろんな思いが私の中を駆け巡っていく。それでも、結論は出ない。
 何故なら、これは不幸だから。数ある村の中で私たちの村が襲われたのは偶然という名の理不尽だから。
 分かっていても悔しいと思ってしまう。
 彼我の力の差がはっきりしていても。

 そんな中で、ふと、あの人はどうしているだろうか。と思った。思ってしまった。あの化け物が苦痛に悶える声を聴いて、顔を上げて、見てしまった。

「お父さん、止めて!お父さん!!」

 私はあの人に、亡き父の面影を見て溢れる涙を抑えきれずに泣き叫んだ。


 後ろで娘が泣き叫んでいる。今集中しているから黙っていろと言ってもきかないのだろう。
 男は押し殺したため息をついて、何枚ものスクロールを宙に放った。

「発動 - アウェイクン - 」

 一つずつ丁寧に起動していく。
 一つのスクロールの中央から氷の杭が張り出し、二つのスクロールの間にはつむじ風が発生する。
 牡鹿の魔獣は怒りのままに咆哮を上げて突っ込んでくるが、男はこれを1m四方の半透明の板を操り躱した。散歩ついでに村はずれにある森で鈍った操作技術を鍛えなおして心底よかったと男は思った。
 まさかこんな荒事に揉まれるとは夢にも思わなかったが。そこだけはあの娘に感謝してもいい。

 さらに一つのスクロールから粉塵が噴き出し、牡鹿の視界を眩ませた。これでしばらくはスクロール制御に専念できる。そう考えた次の瞬間、牡鹿の魔獣はそれをものともせず真っすぐに突進を仕掛けて男を吹き飛ばした。
 予め張っておいた魔力壁が一度に全て突破されたことに驚愕しながら男は自分が空高く舞い、地面に落ちていく感覚を実感した。すかさず、攻撃準備として待機させていたつむじ風を操り、傷だらけになりながら落下の勢いを殺す。

 これではいけない。まだだ。まだ足りない。

 とっておきのスクロールを空へ放つ。出し惜しみは無しだ。これで終わらせる。

「連鎖発動 - チェインアウェイクン - 」

 そうつぶやいたとき、男の姿は土煙にかき消えた。

 その日、数々の村で地面が揺れたという。人々は驚天動地の前触れだと騒いだが、いつまでたっても何も起こらないと分かると、あっさりと忘れ去られていった。


 連鎖発動。それは男が面白半分で威力度外視、コスト度外視で作り上げた切り札だった。
 これを使えば対象諸共、男は死ぬだろう。それと分かっていても、傑作であるそれを捨てることはできなかった。
 だからだろう。その時、何のためらいもなく使えたのは。
 決して村のためでも娘のためでもない。男はただ、使ってみたかったのだ。その暴力の権化を。

 今しかないと思った。あの老人との約束を破る時が来たと確信した。だから使った。

 鞄の中の魔力プールから根こそぎ魔力がその数十メートルにも及ぶスクロールへと吸い込まれていく。
 牡鹿の魔獣の周囲は局地的に悪天候に見舞われ、雹の暴風に加え雷が落ちる。それだけではない。
 地面が波打つように隆起しては牡鹿の脚を捕らえ、毛皮を裂き、深々と突き刺さり、内部で割れて肉に欠片を残した。
 風は刃のように吹きすさび、立派な毛皮に幾本もの傷を付けていく。毛皮は瞬く間に真っ赤に染まった。
 拳大ほどもある雹は牡鹿の魔獣をその硬度で殴りつけ、幾つもの打撃痕を残し、砕けて突き刺さる。
 雷はその圧倒的熱量と轟音で、牡鹿の魔獣を焼き焦がし、頭部を揺らした。

 それでも牡鹿の魔獣はそれらにあらがうように首をもたげ、男をねめつけた。
 男は傷だらけの体を治療する余裕もなく、その瞳を真っ向から見返した。

 どれぐらいそうしていただろう。鞄から配給される魔力が付きかけたその時、ようやく牡鹿の魔獣が膝をついた。
 そこに男はもう一枚の、普通のサイズのスクロールを取り出した。牡鹿の魔獣は目を瞠り、もがくも立ち上がれない。
 終わりだ。男はそう呟いて、なけなしの魔力を注ぎ込んでスクロールを起動した。

「発動 - アウェイクン - 」

 そこから現れた閃光に目がくらんだ牡鹿の魔獣は、足元から心臓を狙いすました土の隆起に気が付かなかった。


「……さん、お父さん!!」

 私は傷だらけになってベッドに横たわる恩人を前に、何もできないことを悔やんでいた。
 私は今まで何をしていたのだろうか。分かり切っている。幼い頃に亡くした父を忘れようと努めて、ただの村娘として村長の下で暮らしてきた。はずだったのに。

 あの恐ろしい化け物を身を挺して倒した男の人は、真っ青な顔で死人のように私の目の前に横たわっている。
 まるで…、まるで熊にやられた父さんが…私の目の前で息を引き取ったときのように。

 まさか、助けてくれるなんて思わなかった。父と同じように、暴力の前に死ぬのだと思っていた。
 それが償いだとは思わなかったけど、やっと父のところへいけると思っていたのに。私は助けられた。
 あの頃の父と同じぐらいの年齢の男に。

「………」

 村長は私のことを心配そうに見るだけだ。村長は私の事情を知る数少ない一人だけど。
 私は村長を父のようには思えなかった。どこかよそよそしい態度を取る彼は、私とは別の事情で苦しんでいるから。
 だから頼れないし、だから助けてもくれない。だけど、この人は違った。

 私たちのために戻ってきて、私たちのために戦って、私たちのために…死にそうになっている。
 どうして、と何度も思った。それでも分からなかったのはきっと。私や村長と同じように、何か特別な事情を抱えているからなんだろうって。

 だけど、それでも。
 ここで死ぬのは間違ってる。
 贖罪を理由に牡鹿の魔獣にやられて死ぬことをよしとした私が言えることじゃないかもしれない。
 だけど、私はこの人に生きていて欲しかった。それは私の事情、なのかもしれないけど。

「……っ」

 小さく身じろぎをして何かを呟いたその人を見て、私は思わずその力の無い大きな手を握り締めた。


 ぼんやりと視界に映った娘の姿を見て、身じろぎしたことで体の端々に痛みが走ったことを感じて、男は今、自分が生きているのだということを実感した。
 どうやらまだ死ぬには早いらしかった。

 甲斐甲斐しく世話をやこうとする娘をぼんやりと見ながら、男はどうしてこの女が、と思うと同時に、癖でないはずの鞄から紙を取り出してそこに指を突き立ててから、その指が空を掻いたことに気が付いた。
 その様子を見ていたのか、どこからか紙が差し出されたので、男はそこに指を滑らせる。
 何のことはない。ただ傷を治すための呪いを書くだけだ。

「発動 - アウェイクン - 」

 そうつぶやいた男は体が淡い光に包まれるとともに痛みが薄れていくのを感じて眠りについた。


 その翌日、すっかり萎んだ鞄を持って村を出ようとしているお父…その人を見て私は思わず声を上げようとして口ごもった。数々の言葉が浮かんでは消えていって、やっと一つだけ、言葉が出てきてくれた。でもそれは…

「どうして…」

 何故、そんなことを言ったのか。私は自分でもよく分からなかった。
 その人は一度立ち止まったけれども、再び歩き出す。

「待って、お父さん!」
「私は君の父ではない」
「それはっ…」

 そうだ。そうだけど、でも。

「私の父は熊に」
「知らん」

 そう言われては仕方がない。泣いて縋りつきたかったけど我慢した。
 だけど、もうちょっと優しくしてくれてもいいのに、と思ってしまった。
 泣きたいのをこらえながらとぼとぼと村長の家に戻る。また、中々忘れられない父のことに振り回されるのかと思うと辛かった。けれども。
 いつの間にか私の部屋に飾ってあった小瓶に入れられた花が、私を癒してくれた。

 花は数日で枯れてしまったけれど、あの人が大きな手で花を摘み、小瓶に入れているところを思い浮かべるだけで、私は穏やかな気持ちになれたのだった。


 薄暗い森の中、空き地の中央の焚き火から少し離れたところに一人の男が居た。
 その男の表情は真剣で、手元の白い紙を凝視して何か考え込んでいる。
 彼の傍には大きな背負い鞄が一つ。ただ、それは鞄の大きさの割に内容物はそう多くないように見える。
 また、鞄には幾つもの丸められた紙 - スクロール - が縛り付けられているようだった。

終わり

* * * * * *

後書き

 元々は後日譚として書いたはずなんですが本編を書くのに全く筆が乗らないので、これだけ独立しました。プロットはあるのに…いやプロットを書いたから満足してしまったのか…

 ちなみにこのおっさんは少年の頃にとある錬金術師の遺産を引き継ぎスクロールを生産しながら以来ずっと行商している。という設定です。快適な一人旅が続いた結果…こんなヤツになりました。

 ここから本編に盛り込めなかった設定の蛇足です。

※始終不愛想なのは自分のことにしか興味がないから。スクロールとかスクロールとかスクロールとか
※小瓶の花は父を失った彼女に師匠を失っていた自分を見たため。完全に同情。でも置いてきてから恥ずかしくなってちょっと後悔している。

 可愛いおっさんっていいよね…

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