タンザニアで最も影響力があるのは中国?その関係性の歴史と今
近年、アフリカといえばやはり中国が進出している、というイメージを思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。中国が唱える広域経済圏構想「一帯一路」政策における主要な投資地域がアフリカです。
実は、タンザニアと中国は「一帯一路」構想の以前より、経済的、政治的、文化的に深く結びついており、その歴史は数十年にわたります。今回は、両国の関係の歴史的背景、現代の協力関係、そして未来の展望について探っていきます。
なぜタンザニアと中国は関係が深いのか?背景にある社会主義政策
中国とタンザニアの関係は、なんと1960年代にまで遡ることができます。
実はタンザニアは、もともと2つの国が一緒になってできた国です。アフリカ大陸本土がタンガニーカ、そしてダルエスサラームからフェリーで1.5時間ほどのところにある島・ザンジバルの2つが合わさり、タンザニアとなりました。タンザニアの前身となるタンガニーカは1961年に独立します。その後、1964年から大統領になったのが、国民から「ムワリム」、つまり先生と呼ばれるほど尊敬を集めるジュリウス・ニエレレでした。
ニエレレはタンザニアで生まれましたが、イギリスでも教育を受け、帰国後に教師のかたわら政治活動を開始しました。植民地時代にも一度首相になっていますが、独立後に改めて大統領になりました。
ニエレレは、1967年に「アルーシャ宣言」といわれる独自のアフリカ型社会主義を提唱しました。当時のタンザニアはイギリスから独立したばかりであり、アフリカ独自の文化や愛国心を追い求めるムーブメントが高まっていました。西欧的な資本主義を否定し、農村を基盤としたアフリカ人の尊厳を取り戻すための社会主義国家を建設しようという呼びかけは、農村では熱狂的な支持を受けたのです。
当時の中国は、まさに文化大革命が始まったところでした。中国共産党の毛沢東によるこの政策により、中国国内の政治や社会は混乱に足を踏み入れ始めていた一方、同時期に発売された毛沢東の書籍は世界各国の左翼、新左翼に影響を与え、社会主義が盛り上がりを見せていました。
こうした流れもあり、ニエレレ大統領は、独立後のタンザニアを社会主義路線で主導しました。その際、強い関係を結んだのが中華人民共和国です。彼の政策は、中国の人民公社を手本としていました。
1965年には、両国の関係を象徴する出来事がありました。隣国の内陸国であるザンビアが、主要輸出先のローデシアが経済制裁を受けたことにより銅鉱石輸出ができなくなった際に、ニエレレが中国に資金と技術と労働力の提供を打診。ザンビアとタンザニア・ダルエスサラームを結ぶタンザン鉄道(タザラ鉄道ともいう)の建設を進めました。この鉄道は1975年に開通し、アフリカ内陸への輸送・移動にとって重要な働きを担っています。
参考:タンザニア連合共和国(タンガニーカ・ザンジバル)(世界史の窓)
参考:中国のタンザニア進出・・・中国の対タンザニア・ビジネスと経済協力(在タンザニア日本大使館)
現在のタンザニアと中国の関係は?開発分野でも大きな協力関係
このように、歴史的に深い関係がある中国とタンザニアですが、現在の状況も見ていきましょう。
政治
政治分野でも連携は緊密です。
2022年にタンザニアの現大統領であるハッサン氏と習近平氏が北京で会談し、両国関係を「全面的戦略協力パートナーシップ」に格上げすることで合意しました。これはタンザニアへのインフラ投資などの支援だけでなく、あらゆる分野での協力関係を強固にしていくことで、中国の国際的な立場も有利にしようという目論見があるものと思われます。
この年の共産党大会以後、初めて中国を訪れたアフリカの元首だったということで、タンザニアと中国の関係性の深さが伺い知れます。ちなみに、現在のタンザニアの大統領であるハッサン氏は女性で、タンザニアでは初めての女性大統領となります。
また同年には、中国共産党が出資する「政治学校」がタンザニアで開校。日本の新聞などによれば「南部アフリカ地域の若手政治家を対象に党の統治手法や発展モデルを教える学校」であるとのことで、第一期生として120人ほどが入校したといいます。
元々社会主義という思想を共有していた中国が、貧困から大きく脱却して成長したことで、その政策方針や思想を伝えてアフリカにおける影響力を拡大しようという背景が見て取れます。
開発投資
中国のサハラ以南アフリカの投資対象として、重要な役割を果たしているのがタンザニアです。前述したタンザン鉄道に始まり、大規模なインフラプロジェクトを多数手がけているのが特徴です。
タンザニア投資センターの報告書によれば、2023年に最もタンザニアに対し直接投資を行ったのはやはり中国であり、その額は約3.8億ドル、日本円にして約570億円となります。その後大きく差が空いて、インド、バハマ、モーリシャス、UAEが続きます。
中国は、2021年から2023年までにタンザニアで256のプロジェクトを手掛けており、プロジェクトの総額は約24億ドル、約30,000人もの雇用を創出したと言います。また、中国人観光客の数もかなり伸びており、2022年と比べて3倍以上に増加したことを強調しました。
中国はさらに2024年2月までには、タンザニア全体で1,274のプロジェクトを登録し、総額約114億ドルの投資を行う予定です。特にタンザニアは国立公園などの自然資源が豊かなため、環境保護と経済成長の両立を目指しており、自然エネルギーなどの持続可能な開発分野への大きな投資が期待されています。
参考:TANZANIA INVESTMENT CENTRE QUARTERLY BULLETIN JANUARY TO MARCH 2024
主な投資案件
・キガンボーニ橋(Kigamboni Bridge)
ダルエスサラームの中心地の港に通じる入江の反対側に、キガンボーニ地区があります。元々この地区への行き来はフェリーでしか行えず、タンカーやコンテナ船が港に入るのを横切って移動用のフェリーが通過していたため、大変不便な状況でした。これを解消するため、1970年代から横断する橋の建設が望まれており、日本にも協力が要請されていましたが、大規模なプロジェクトのため日本側は協力に躊躇していました。
ところが、2012年1月に中国の企業グループが日本円にして約10億円で建設を請け負うことを発表。費用は、60%がタンザニアの国家社会保障基金(NSSF)、40%を国が負担することになりました。サハラ以南の南アフリカ地域で最大の傾斜型海上橋で、中国がインフラ開発において高い技術を持っていることが伺えます。
・バガモヨ新港
タンザニアには、沿岸の中心地のダルエスサラーム、北部のタンガ、南部のムトワラに国際港があります。近年国内や内陸国の輸入需要が増加し、港の能力拡張が求められていますが、いずれも天然の入江を利用しており、大型船が接岸できるようにはなっていません。
2009年には、世界銀行が長期計画としてバガモヨに新港開発を提案するプランを策定。
日本も2011年から全国物流マスタープラン策定プロジェクトを開始し、動向を注視していましたが、2012年の夏、中国の企業がタンザニア政府と覚書を結び、バガモヨの新港建設と関連するムベガニ経済特区の開発、鉄道などの交通網の建設を引き受けるという基本合意が成立しました。
しかしタンザニア前大統領時代からの交渉で、他の中国の投資案件に見られるように「搾取的」な契約だとの声が上がり、2023年まで開発が停止していました。今後の開発が楽しみなインフラです。
今後のタンザニアと中国の関係はどうなる?
タンザニアだけでなく、多くのアフリカの国との関係性を強めている中国ですが、特にタンザニア都の関係性は強いということがおわかりいただけたのではないでしょうか。
中国とタンザニアは合同軍事演習を行ったり、中国の一国二制度を指示したりなど、軍事・政策面でも強く協力をしており、なくてはならないパートナーの立ち位置を築いています。
日本も以前から直接投資は積極的に行っていますが、道路、送配電網、給水などの経済社会インフラに偏っており、中国に比べるとまだまだ存在感が薄いのは否めません。
タンザニアは治安も安定し、資源も豊富ですが、日本企業の進出はまだまだ多くないため、この機会を逃さず検討してみるのはいかがでしょうか。
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