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【創作】腐れ縁だから|#青ブラ文学部(約4700字)

「なんで、あなたがここにいるの?!」

社食でAランチを頼み、座って食べるための席を探していた。混んでいたので「相席してもいいですか?失礼します」と相手の顔を見たら… 知った顔の男性だった。幼馴染というか元同級生というかなんと呼んだらよいのかわからないが、そういう関係だ。

「それはこっちのセリフだよ。お前、いつからこの会社にいたんだ?全然知らなかったよ。俺はもう食べ終わったから、ここ使っていいぞ。じゃあな」

「うん、ありがとう」

ビックリしすぎて、お互い配属先のこととか聞く余裕もなかった。お腹も空いていて早く食べたかったし…


私は大学卒業後、しばらく地元の金融機関で働いていたが、女は結婚するまでの腰掛け程度にしか仕事をしない…と根強く思われている職場に嫌気が差し、結婚する予定もないが辞めてやったという感じだ。

女性が仕事に生き甲斐を求めてはいけないのだろうか。恋愛や結婚も憧れるけれど、自分の人生は自分の好きなように生きたい。恋愛も共感してくれる人でないと無理… ましてや結婚で相手に束縛されるのは勘弁してほしいと思う。

そんな私は都会に出て…なんとか転職に成功した。あいつの言う通り、最初からこっちで就職していれば良かったとちょっと反省。そんなあいつと、今日ここで会うなんて!


あいつは地元の同級生。家が近所というわけでもないが、小学校や中学校までは同じ所に通った。クラスも1、2回一緒になったことがある。席が一度だけ隣同士になったことがあるが、あいつはノートに落書きばかり描いていた。「ちょっと見て!」と鉛筆でツンツンされ見たら、私が鼻ちょうちん出して寝ている絵のようだった。授業中に寝てたりしてないし!よっぽど勉強が嫌で時間を持て余して描いたのだろうな。あと印象に残っているのは、運動会の応援団はお互い毎回なっていて、敵になったり味方になったりと、年によって変わっていたが精一杯応援する姿勢は変わらず、それだけはカッコいいと思っていた。応援団姿の時だけあいつは女子の注目の的だった。

高校は違ったが、通学電車ではたまに一緒になった。2、3回ほど「マックでも行く?」と誘われて駄弁ったりしたっけ。「彼女に叱られない?」と聞いたら「そんなもん、面倒くせーから居ねーよ」と笑っていた。いつもどうでもいい話に花を咲かせてコーラを飲みハンバーガーをかじっていた。一度だけあいつの高校の体育祭をこっそりと見に行った。あいつは案の定応援団をしていて…変わらないなと思った。私は応援団ではなく団旗や応援看板の創作の方面に変わったけれど。

大学は…偶然同じ所に通うことになった。学部学科は全然違うけれど、たまにキャンパスですれ違うことがあった。お互いに友だちなのか彼氏?彼女?的な人が隣にいたりしたから、すれ違っても会釈みたいな挨拶程度しかしなかったけれど。

成人式で地元に帰った時に同窓会があり、その時は少し話をした。「彼女できたんだね」「まぁね。お前こそ彼氏ができた?」「まぁね」「良かったね」何がどう良かったのかよくわからないが、そんなことを話しながら祝杯をあげた。

キャンパスに戻ると、相変わらずたまにすれ違う。なんか隣に並ぶ女性が時々違う感じもしたが、正直よくわからない。そんなことを気にする自分の方が変だと思うし。

就活で学生課に行くと、あいつがいた。たまたま偶然の二人きり。「お茶する時間ある?」と声をかけられ、高校時代の時のように…マックへ寄った。

「お前はどこで就職すんの?こっちで?地元?」
「地元で頑張ろうと思ってさ。多分こっちの方が就職しやすいと思うし、地元に帰ると結婚がどうとかうるさいと思うけれど、負けないで頑張りたいの」
「お前は理系だからな。SEとか目指しているの?だったらこっちで就職して、それから地元に帰って地域に貢献する方がいいんじゃね?」
「いや、最初から地元でコツコツ頑張るのをみてもらった方が受け入れてくれるんじゃないかなって…」

あいつはコーラを一度ズズッと飲んでから
「お前の人生だからな。自分で考えて決めるのが一番だからな。まぁ、俺みたいな考え方もあるよ…というお節介でした」

私もジンジャエールを飲みながら
「あなたはこっちで就職するの?地元に帰らないの?確か長男の一人っ子でしょ?」
「今どき長男が家を継ぐとかないから。親父やお袋は俺を都会に進学に出した時点で、俺の人生は好きなようにやらせるって覚悟しているから」
「そうなの…」


そして別れて3〜4年ぶりの再会だろうか。

石の上にも3年とか言うが、3年以上地元で頑張ったがSEになるどころか、後から入社する男性の方がどんどん先にキャリアアップしていく。女性従業員の専門職は必要ないという姿勢は変わらない。就職面接の時の「女性の専門職や管理職について前向きに検討中です」という言葉は…反故にされたようだ。しっかりとシステム設計されていない仕様書に顧客からの無理な依頼をぶち込んだめちゃくちゃな注文に対応するプログラム作りをする私。なんとか無事に作成しても、成果は営業や設計者のものとなる。もう少し丁寧な仕事のまわし方ができないか意見すると「女が口出しするな」「誰のおかげで仕事ができていると思うんだ」「それがお前の仕事だろ」「だから結婚できないんだよ。かわいくねーから」云々。

地元では実家から通勤していたが、親も「そろそろ仕事を辞めて家庭でも持ったら?会社にいい人いないの?」という声をかけてくる。確かに三十路目前だし、私の友だちはけっこう結婚しているが、していない人もいる。なんなら離婚している人もいる。私は今は仕事をしたい。お金を貯めたいとかではなく、自分を生かせる場が今は仕事だ…と思うから。でもそれも十分発揮できていない。それなのに結婚なんて… 考えられない。

仕事の合間に転職サイトを見て応募し… 7社目で内定がついた。そしてすぐ辞表を出し、家族には「転職して一人暮らしするから」と言って… 家を出たのだ。

新しい職場には女子寮があったので、そこに入った。地元での仕事内容から「あなたはSEで登録しても支障ないですね。即戦力としてすぐに働いてもらいますからそのつもりで!」と言われた。使用言語もほぼ同じで、初めての仕様書を見ても理解ができた。設計もきちんとしているし、追加仕様があったとしてもわかりやすく記されている。納期もしっかりしていた。「明日までにすぐ!」なんていうことは無い。周りを見てもそんな光景はみかけない。転職してまだ半年もしていないが良い職場だと思った。


あいつと会ってから3日後位に、弁当を忘れたため再び社食に入った。相変わらず混んでいて… 前回会った席を見たら彼がいて、隣が空いていた。でも席にカバンが置いてある。誰かのための予約席みたいだったので諦めたが突然目が合った。

「ここ、空いてるぞ!」
「えっ?誰かの席じゃないの?」
「お前座れよ。早く来いよ!」
「ありがとう。でも本当にいいの?」
「いいよ 」
「じゃあ、座るね。私、いつも弁当持参なの。今日は作ったのに置いて来ちゃったから…」
「そうなんだ。でさ、お前いつからここで働いていたの?地元帰ったんじゃねーの?」
「地元帰ったけど、あまりにも理不尽で半年前に辞めてきた。で、あなたがここにいるなんて知らなかったよ。それより、やっぱこの席って他の友だちの席じゃないの?」
「…お前のだよ。この前偶然会えただろ?俺、嬉しくって、あれから毎日席を確保してたんだよ。昨日と一昨日は空振りで顰蹙モンだったけどな」
「えっ?それは失礼いたしました。でも、そんなに私に会いたかったの?」
「会いたいというか、この前は碌に話ができなかったじゃないか。もっと昔みたいに、軽くおしゃべりする時間が欲しかった…そんな感じかな」
「そうなの」

私は何故か少しだけ胸の奥がチクッとした。

「こういうの、腐れ縁とか言うんだろうな」
「そうだね、きっと」

私はB定食のハンバーグをほおばりながら空返事した。

「なんかさ、お前とはどこに行ってもついてくるというか… 一生こんな感じかな、なんて思ったりもして」

大盛り炒飯のレンゲを口元に運びながら、妙なことを口走っている。なんなのよ、一生こんな感じって… でも、ただの腐れ縁かな。私たちって。

「LINE教えるから、もう席の確保はしなくていいよ」
「わかった。話したくなったらLINEする」


俺、出向することになった。3年は帰れないかも

ある日、そんなLINEが届いた。別に恋人でもなんでもないけれど、なんだかとても寂しい。せっかく再会できたのに、また、別れてしまうのかと思うと。

返信の言葉が見つからずにいると…

明日、社食で会おう

またメッセージが届いた。これなら返信できる。

     いつもの席でね!

カバン置いとくから

     私の方が早かったら私もカバン置いとく

よろしく!


「やっぱ、俺の方が先に着いたな」
「席の確保いつもありがとう。ところで出向ってどこに行くの?」
「海外なんだよ。英語を特訓しないとなぁ!」
「あなたは英文科だったんじゃない?得意なんじゃないの?」
「読んだり書いたりなら支障ないけど、しゃべるのは苦手なんだよ… すぐに言葉になって出てこないというか。はぁ、憂鬱だ」
「珍しく弱気だね。応援団やってた時の面影が消えちゃっているよ」
「そう言えば応援団やっていたな。お前もやってたよな。高校ではやらなかったみたいだけど」
「なんで知ってるの?私は裏方で団旗や看板作りをしていたんだよ」
「実は冷やかしに一度見に行ったことがあるんだ。なのにいなくてガッカリしたよ」
「ふーん…」
「なんか、こういう話ができるのっていいよな。出向したらできなくなるかと思うと、寂しくなるぜ」
「そぅだね」
「でもさ… なんか、また会えるというか、お前とはずっとこんな感じで、離れてもつながっているような、そんな存在だと思うんだよ」
「ね、あなたって彼女とかいないの?」
「ずーっと前にも、そんな質問されたことあったな。なんか面倒臭くて…いないんだよ。いてもすぐダメになるっていうか。けれど、お前は面倒じゃない。なんなんだろうな。ごめん、俺のワガママだよな」
「私もあなたのこと、まぁ腐れ縁的な存在だと思っている。私も彼氏いないし… 似ているね、私たちって」
「そうだな。お互い、独り身同士だし、このまま付き合っちゃう?腐れ縁だし」
「えっ?そ、それは…」
「俺、3年ばかし海の向こうに行ってるけど、良かったらたまにメールとか電話してくれる?会いにきてくれたら一番嬉しいけど…」
「電話やメールくらいならいいけど、会いに行くって…」
「深く考えなくていいよ。腐れ縁なんだから」
「でも…」
「俺のこと嫌い?」
「そんなことはないけど…」
「俺はお前のこと…」
「なに?」
「いや、腐れ縁だよな。ずーっと腐れ縁。死ぬまで腐れ縁。一生腐れ縁!大切な腐れ縁だと思う」
「ありがとう。私も、ずーっと腐れ縁でいたい…と思う。あなたとは、どこまでも腐れ縁な気がする」
「良かった。これで安心して日本を離れられるな。どこに行っても腐れ縁が待っていてくれると思うと勇気がわくよ」
「どこかで偶然、また近いうちに会えたりするかも…だしね。腐れ縁だし。私もここで仕事を続けるよ!クビにならないように頑張る」
「頑張りすぎて、海外出張命じられて、俺のところまで来たりしてな!」
「あるかもー!!」
「腐れ縁、最高!」
「最高!!」


「あ、いる!本当に…」
「本当に来ちゃったか。やっぱ、腐れ縁だな」

山根あきらさんの企画↑ に応募しました。
ネガティブではなくポジティブな方で書いてみました。

#青ブラ文学部
#腐れ縁だから

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