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矛盾がなす双璧〜書き下ろし作品

⚪️矛盾がなす双璧⚪️

おまえはなぜ獄門に立っている?
そこで何をしてるのか?と男は尋ねた。
おまえこそ、ここに何しにきた?
図体のデカい大柄な男は尋ね返した。
男は答えた
俺は来たのではない。いつのまにかいたのだ。
それなら俺はおまえをそこへ行かさないために
ここに立ってると言った。
男は再び尋ねた。
それは答えになってないぞ。
俺がここを通ることをなぜ予想できた?
おまえが悪人だからだ。
なぜ、おまえは外見で判断する?
悪人じゃないかもしれないじゃないか
あれは冤罪だったんだ。
俺は何もしちゃいない。
大男は答えた。
それならおまえがここにくることはないはずだ。
じゃあ俺はいったい何をしたんだ?
それがおまえの罪だ。
自分が何をしたのか分からないでいる。
いつのまにか人を傷つけていることにも
気づいていない。
それがおまえの罪だ。
やっていいことと悪いことの区別もつかない。
それがおまえの罪だ。
いつになったらこの悪状況から出られる?
それはおまえが自分の罪がなんなのか気づくまで。
俺はいったいどんな罪を犯したんだ?
なら聞くが俺がなぜここに立っているか分かるか?
俺自身、分からないのだ。
だから俺は自分が何故ここに立っているのか気づくまでここから離れることができない。
人を殺めたりモノを盗むことだけが罪ではないのだ。
見方を変えればいろいろな罪がこの世には限りなく存在してる。
見ろ。この雨を。
雷雲がおまえを歓迎しているではないか?
おまえはまるで都落ちしてきた落武者のようだぞ。
おまえこそ、地獄の門番のように見えるぞ。
この門の先には何が待っている?
それは俺にも分からない。
通ってみないと分からないのだ。
おまえが罪を犯していない自信があるなら通るがいい。
おまえに通る自信があるか?
罪を犯していない自信があるか?
俺にはない。
だからここに立っているのだ。
誰かやってくるまでひたすらに待っていた。
そしたらおまえが現れた。
400年ぶりにな。
恐ければ戻ってもいいんだぞ。
それもおまえの人生だ。
しかし、またあのツライ日が待ち構えているぞ。
俺は戻りたくもない。
進みたくもない。
だからここに立って誰かの決意を見届けたら
自分の答えを出すつもりだ。
それは安直な考えじゃないか。
まぁおまえには時間はたっぷりある。
じっくりと考えてみることだ。

周りには何にもない。
ただ平地が広がっているだけだ。
そこにひとつだけポツンと門だけが立っている。
重厚な分厚い扉だ。
レリーフがあちらこちらに見られて
細かい彫刻が彫られている。
これは簡単には開きそうにないな。
この扉はびくともしない。
そんなことはないぞ。
おまえの気持ち次第だ。
この400年間で通った人間はいるのか?
いや。まだ何人たりとも通っていない。
それならなぜこの門を通れると分かる?
だから俺もツライのだ。
おまえがツライようにな。
さっき落武者のようだと言ったな。
ああ。風貌さえ違えどな。
今はどのような世の中なのだ。
俺は三河にいた武家出身のものだ。
しかし、まあおまえのそのいでたちは滑稽だな。
まぁ400年も経てば世の中は変わる。
ならば聞くがおまえがいた400年前からみた更に400年前の人間からしてみれば、おまえの時代のいでたちも滑稽だと思うだろうな。
きさま…見どころのあるヤツだな。
気に入ったぞ。
しかし、双方いずれかが譲らぬ限り俺たちに終わりは来ないぞ。
それはおまえがいた世界でも同じことだと言える。
世の中、時代が移り変わろうと同じことを繰り返していると言える。
おまえの世界でも、今まさに争いが絶えないだろう。
いずれかが引かぬ限り終わりのない戦いが果てしなく続くだろう。
それはとても辛く哀しいことではないか。
そうは思わないか?
ああ…
お互いがお互いを批判して罵り合い、罵倒を繰り返す世の中。
そんなことがあってはならないのだ。
分かり合える日が来るまで俺たちも一歩も引かぬだろう。



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