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羞恥を晒した赴任前健診の話②

(①の続きです。お食事中の場合、読まないことをお勧めします)

赴任前健診後、暫くして診断結果が届いた。

バリウムの検査が飲めなかった胃の検査で「中止のため結果なし」と書かれる以外は何も問題などないだろう、と気楽に考えて結果を開いた。

えっ

総合判定は「要精密検査」だった。項目は便潜血。

生理中でもなかったのに、どうして。。

1~2か月間のうちに医療機関に相談せよ、とのことだったので、健診を受けた病院で予約をとることにした。夫は「この機会にしっかり診てもらうのがいいね。ついていこうか?」と心配してくれたが、わたしは「一人で大丈夫だよ」と軽く答えた。

病院に一度行けばその日のうちにささっと精密検査をして結果が出るものだと思っていた私は、予約時の電話口の言葉通り、普通に食事を摂って病院へ向かった。更なる羞恥の道に向かっていると思いもせず。

お医者様は男性だった。和やかな問診が始まった。「痛みはある?」「いえ、特にないです」「そうか」

「一応、検査しておこうか」急にお医者様の放っている空気が変わったように思えた。「便の検査に引っかかった場合、みんなに受けてもらっているんですよ」

「―あ、そうなんですね。わかりました。」また別の日に来ないといけないのか。

そこから検査方法の説明を受けた。選択肢は2つ。1つはおしりに管を入れて大腸を内視鏡で見る検査。もう1つはCTといって、多方面から大腸のCTスキャンをとって、後でそのデータを立体的に合成して観察する検査。

前者の内視鏡は大腸の形にもよるが、痛いかもしれない。実際に入れてみないとその痛みの程度はわからない。手術の痛みを経験している方は、内視鏡を選びたがらない傾向があるらしい。痛み止めを打つ方法があるが、その場合検査の翌日午前中まで車の運転ができない。ただ、検査の過程でポリープが見つかった場合、その場で切除することができる。ポリープを取った場合は、当日は入院になる。(なにより、お医者様とはいえ、ひとさまに肛門を晒すのは恥ずかしい)

後者のCTは、痛くない。ただ、立体合成データでポリープが見つかった場合、別の日に来院してポリープをとらなければならない。

暫し思い悩んだが、病院の雰囲気が苦手なわたしにとって、その場でポリープをとってくれて来院回数が少しでも減る内視鏡検査の方に心が動いた。

その後、一筆書くように紙を渡された。そこには、内視鏡は失敗する可能性もあり、腸に穴が空くことがある、と書かれていた。「確率は低いですよ。交通事故のようなものですよ」とフォローしてくださったが、正直な話、交通事故経験者(怪我はしなかったが)にとってはちっとも笑えない説明だった。紙を凝視して固まってしまったわたしに対し、お医者様の助手は「一度サインしていただいて、やはり受けられないと思うようだったら、後日電話いただいても構いませんよ」とにこやかに背中を押してくれた。

帰宅後、夫に事情を話すと、夫は「おしりむきだしにするの?」となんだか凄く嬉しそうな顔をした。「いや、内視鏡検査用のパンツがあって、だからおしりはむきだしにしないんだよ」「内視鏡検査用のパンツ?」「そう、肛門のところに穴が空いていて、検査用に買うんだよ」「穴あきパンツ?買ったの?」「うん、買ったよ」夫の目が光った。「病院に履いていくの?見せてよ」「検査の時だけ履くよう言われているから、履いていかないのよ」「当日は立ち会ったりできるのかなぁ」どこまでも恥ずかしがるわたしを見るのを楽しみたい夫であった。平日だし、夫は海外出張から戻る日だから物理的にも立ち会うことはできないのだが。

内視鏡検査当日。

内視鏡を入れる前にまずは大腸の中を洗浄するモビプレップという透明の液体を大量に飲む必要があった。指定された席に座ると、別に4名の男性が座っていた。あぁ、この人たちも内視鏡検査か。モビプレップは飲んでもオエっとなるほどではなかったが、とにかくまずかった。酸っぱくて薬臭い。腸内洗浄が早く進めばそれだけモビプレップを飲む量が少なくて済む、と説明をうけたので、院内を歩いたりトイレに籠ったりして頑張った。最後の方はウォシュレットの使い過ぎで肛門がひりひり痛み、ウォシュレットを使うたびにヒーと悲鳴をあげそうになった。説明をしてくれた女性が、わたしのみ女性であることを非常に気遣ってくださり、「どう?順調?」「でた?」とかなり頻繁に声をかけてくださった。その優しさをありがたいと思いつつ、男性ばかりの中で出たとか出ないとか言うのも恥ずかしかった、今更恥じらうのも変な話なのかもしれないが。

いよいよ検査室に入る。穴あきパンツと検査着に着替えると、女性の助手さんが席に案内してくれ、横向きに寝ると痛み止めの薬を打ってくれた。指先に洗濯ばさみのようなものを使って挟まれると、心拍が機械に表示され、ピコン、ピコンと鳴った。医療系ドラマによく出てくるあれだ。「さあ、そろそろお医者さんを呼んできましょうね」と助手さんが言うと、急に自分の心拍数が上がっていくのがわかった。だめだ、リラックスできない。それに、自分が動揺しているのが数値化されてみえみえなのも恥ずかしい。あと10分でお医者様が来てしまう。

そんな私の状況を察した助手さんは、顔の近くまで寄ってくれ、楽しくおしゃべりをしてくれた。「ここに若い女性が来るの珍しいのよ。だから嬉しくって。-えー!仕事辞めちゃうのー!?もったいなーい!」と自分の親戚に対するかのように言ってくださったのも嬉しかった。会ったばっかりなのに、本当に良くしてくださって、なんて温かく素晴らしい方なのだろう。おかげで緊張がだいぶほぐれ、お医者がやってくる頃には普段とあまり変わらない心拍数に戻っていた。そこからはあっという間だった。体内に内視鏡の管と大腸を膨らますための空気管が入っていく。「肛門から、空気管で入れたガスが漏れておならのようにでてくることがあります。遠慮せず、どんどん出してくださいね」「はーい」あ、これ、夫が喜ぶ展開だ…

お医者様は腕利きだったらしく、痛みは全くないまま、最短時間で検査が終わった。管を身体からぬいた後、車椅子に乗せられて、検査結果を聞いた。

何も問題がないことがわかった。

車椅子のまま安静室へ。薬の眠気効果がおさまるよう、60分間寝たきり休憩をすることになった。問題がなかったことに一安心して、早速夫にLINEで報告した。なんだかんだいって、きっとすごく心配してくれているだろうから。

最初から最後まで恥ずかしいことだらけだったが、今までにしたことのないことをしたのだから良い経験になったし、結果的に問題はないことがはっきりしてよかった。願わくば、今後あまり頻繁にやらなくて済むように。

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