僕と彼女、それぞれの道

「大丈夫?」それが彼女の口癖だった。
自分が一番大丈夫じゃないくせに、人の心配ばかりする。
彼女がうつ病だと知った時「あぁ、やっぱり…」と確信した。
時々、仕事帰りに泣きながら電話をしてくる時があった。何が原因か分からないらしい、あぁ厄介だなと思いつつも彼女の悲しい姿は見たくないからサポートをしていた。

僕はストレスには強い方だ、発散するのも上手い。
うつ病と無縁な僕は彼女を理解しようと、沢山の本を読んだ。本を参考にサポートを続けた。
しかし治るどころか症状は悪化していった。

僕は焦って酷い事を言ってしまった。
「僕は、君が早く良くなるようにサポートしてきた
その類の本は何冊も読んだ、うつ病を理解しようと努力したのに君は良くなるどころか悪化していった」
焦る気持ちは僕を饒舌にさせていた。

「知ってるよ…」
そう呟いた彼女の顔を見て、我に返った。
ごめん。そう言おうとした時に彼女が話し出した。
「貴方がたくさん本を読んで、うつ病を理解しようと努力してたの私は知ってたよ」
「けどその本の中に私は居た?私のことは見ていた?」
僕は彼女が何を言ってるかよく分からなかった。
「その本に載ってた症状は私の症状と同じだった?
皆が同じ方法で治ると思った?」
そうだ、一人一人それぞれの苦しみがあるのに
同じ方法で解決する訳がない…
彼女は彼女の苦しみを抱えて、それにあった治し方、支え方が必要だったのに。
気付くのが遅かった。

彼女は「貴方にはすごく感謝してる、けど私を見てくれない人と一緒にいるのはとても辛い」
「だから私は貴方と一緒に居れない…本当にごめんなさい」と言って僕の前からふっと姿を消した…
謝るのは僕の方なのに。

半年後、友人から彼女が今はうつ病も治って幸せに生活してると聞いた。
彼女が幸せになれて良かった…と思った。
あの日買った本をペラペラとめくりながら
「人それぞれだよな」とひとり呟いた。

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