フィレンツェ ちょっと怖いハナシ
ヨーロッパの夜はなぜだかアクマ的な闇を感じる。
アメリカの夜はクライム的に怖い感覚はあるけど、ヨーロッパのそれは歴史が漆黒に発酵したかのような、底知れぬ怖さがある。
もちろん根拠があるわけじゃなく、個人の感想だけど。
イタリア滞在では昼間であっても歴史ある建物の片隅にゾッとする気配を感じたりする。でもその闇のベースがあってこその美しいこともたくさんあり、そのコントラストに惹かれるんだろうなとおもったり。
少々の怖いもの見物は愉しみのひとつでもあるけど、葛藤しつつ、どうしても入れなかった場所がフィレンツェにある。
Museo La Specola
(スペコラ美術館)
ひとことでいえば解剖美術館。
18世紀末に作られた多数の人体解剖模型が展示されている。ほんもののシタイからパーツごとに型をとった蝋でつくられた模型。
そのシタイを前に作業者たちは平然と食事もしていた、なんてギョッとするエピソードにもいとまがない、そもそもが怖い場所。
そこに「解体されたヴィーナス」と呼ばれる、バロック彫刻のような美しい一体があると耳にし、きになっていた。
大々的な美術館とは違い、街の路地にさりげなくその入口はある。
この記事のヘッダ画像では多少目立つ看板もかかっているけれど、そっけない小さな表札のようなものしかないときもある。
フィレンツェ滞在中、毎日のようにその前を通りつつ、役所の出張所かなにかのような簡素すぎる佇まいと、いつみても観光客が押しかけている風もない静まりかえった様子に、入る決心がつかないままうろうろしていた。
そもそもイタリアは大きな美術館であってもピッカピカの近代的なものはあまりないきがする。
ウフィツィ美術館のボッティチェッリの絵画ですら、意外に薄汚れた(周囲が)場にひょっこり展示されていたり。それが「らしさ」だったりもするのだけど、そういったホコリや汚れのある日常感は時に怖さを増幅する。
解剖美術館も同様の雰囲気だと、前情報でわかっていた。
映画でもなんでも「怖い雰囲気」かつ「インテリジェンスが香る怖さ」まではすきでも、ギャーなビジュアルのものはニガテ。その狭間で揺れていた。
中に入ってひとりだったらどうしよう…
猛ダッシュで駆け抜けてしまったら入館料もったいないな…
案内人に特別な部屋に手招きされたらどうしよう…
(イタリアでは愛想よく興味をしめしてると謎の特別扱いが時々ある)
空気が淀んでて息がうまくできないかもしれない…
今日は大きなスーパーの袋を抱えてるからやめておこう…
そんな風に滞在期間は過ぎ、結局入らないまま帰国した。
入ってみればなんということはなかったのかもしれない。
最近は、より詳細な情報がweb上にたくさんあるから、あらためてみるとまぁこんなものかというきもする。
ただ、わたしには蝋人形館で突然体調がおかしくなるという特技がある。
(館を出るとおさまることが多い)
そういう意味ではやはり行かなくてよかったのかもしれない。
映画「ハンニバル」のレクター博士がフィレンツェに住み、かの世界最古の薬局、なにからなにまで美しいサンタ・マリア・ノヴェッラでハンドクリームを調合してもらうというシーンがある。
あの街での印象をおもいかえすと、この設定はとても素晴らしく、合点がゆく。怖いけれどインテリジェンスが香ることは、やはりどこか惹かれる。
(ただし、全編正視できるのは「羊たちの沈黙」まで₍ᐢ·ᴥ·ᐢ₎)
でも、いまもしフィレンツェに行ったとしても、スペコラに入ろうとは思わないな。
あのときより少し経験を積んで、いまはこの意味がよくわかるから。
それに、蝋人形館には確実にナニかがいる☺️ 深淵はちらみまで、かな。
おまけ
フィレンツェ滞在時はホテルではなくアパルタメントappartamentoの一室(画像左、フラッシュを焚いたわたしが写ってます)だったのだけど、フィレンツェにはアルノ川という大きな川があり蚊が多いのに、なんと、どの家にも(知っている限りでは)網戸がない。大きな蚊が鎧戸のすきまから平然と侵入してきて眠れたものではなかった。窓を閉めれば暑くてさらに寝れない。
やっとうとうとすると、ごきげんな酔っぱらいが大声で歌をうたいながら通りを歩いてくる音がする。石畳の路地にはそれが果てしなく響く。
(こういうときイタリアのマンマは、時に窓からバケツで水をかけたりするらしい😆 それで大問題になることもなくOKだなんて愉快なお国柄)
またしばらくすると、まだ外も真っ暗なのに、ゴミの収集車がやってくる。
機械の腕でゴミのコンテナをガシャーンとつかみあげひっくり返し、ガランガランとけたたましい音をたてて揺さぶりながらゴミを回収してゆく。
寝るどころではなかったフィレンツェの日々。これも怖いハナシでしょ。
リリィミンツ
SSMP
* ずっとウタうシゴトしています*
2023年12/15〜17に開催される
『広島こわい映画祭2023』の、映像クリエイターさんたちへの応援テーマソング+深淵的ソング、うたで参加します。
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