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[1話]ボンドで作ったドレスで出かけると、「お鞄お持ちしましょうか?」と言われるようになった

◆ただ、「着る物」を変えただけで

艶やか(あでやか)なオーラを放つリリーさん

「お鞄、お持ちしましょうか?」
「お冷はワイングラスに入れてお持ちしますね」

レストランでもコンビニでも。

どこに行っても、面白いほど丁重に扱われてしまう女性がいる。ひと目見た瞬間、思わずそうさせてしまうオーラが溢れ出ているのだ。

「本当におもしろいの。このドレスを着ると自分を大切にできるし、それが表れているからこそ、周りも私を大切にしてくれるのかも。中身の私は同じままなのにね」

そう笑うのは、「リリー着物ドレス」のデザイナー、リリーさんである。

自作のドレスで妹とパリへ行った時

「リリー着物ドレス」とは、発売わずか半年で2000万円を売り上げ、今もリピーターや新しいファンからの愛が絶えない、リリーさんの作品シリーズだ。

しかしリリーさんにはもともと、服作りのスキルやキャリアがあったわけではない。というか、今も無い。

だから着物のドレスを「ボンドと安全ピン」で作ることにした。


このドラマの全ての始まりは、そんな"裁縫リテラシー"を持つリリーさんのもとに、ある日突然「着物ドレス」というイメージが「降りてきた」ことだった。

◆突然降りてきた2つのインスピレーション

優美に掛けられたリリードレスたち

ある日のこと。家でゆっくりしていると突然、リリーさんの元に「着物ドレス」というインスピレーションが天から降りてきた。それはただの単語というより、ハッキリとしたドレスの形を持っていた。

「何この着物ドレス!めっちゃかわいい!着たい!」

この時は、まさか自分が作ることになるとは思わず、ただ「これを着たい」という衝動で検索した。

しかし、いくら検索しても「降りてきたそのドレス」が出てこない。

「私ね、検索が得意なの。探したい人でも商品でも絶対に見つけられるの。なのに私が見つけられないってことは…この世にまだ無いってこと!?」

すると。今度は続け様に「デザイナー」というイメージが降りてきた。

それは、「着物ドレスを着た人たちがレッドカーペットのランウェイを歩いていて、最後にデザイナーの自分が『どうも』と得意顔で出る」という、動画で浮かんできたインスピレーションだった。

「あ〜。私、着物ドレスデザイナーになるのね」


リリーさんは、その突然のインスピレーションをすぐに受け入れた。

◆とにかくすぐに、インスピレーションに従って

実は、こうして突然インスピレーションが「降りてくる」ことは今回が初めてではなかった。このちょうど1年前に降りてきたのは「画家」。

「え、画家…?」。リリーさんは当時、画家としての実績も何も無かったが、ただそれに「従ってみた」。つまりその日から「画家として生きることにしてみた」。

すると、全てが好転した…。そんな経験があったのだ。

思うままに描いてみた絵は、あれよあれよと上野の森美術館で受賞

この経験は、リリーさんの人生観に大きく影響している。実績の有無に関わらず、ピンと来たならまず名乗る。その瞬間から、そのように生きる。その勢いと覚悟が持つ大きなパワーを、リリーさんは身をもって体験していたのだった。

今回の場合はただ、それが「着物ドレスデザイナー」だということだ。

そういうわけで「画家」の時と同様、リリーさんはこの瞬間から「着物ドレスデザイナー」として生きる、つまりまず名乗ってみることにした。

「まあ、名乗るのはちょっと小っ恥ずかしいけどね」と思いながらも。そして、着物を着たこともなければ、服を作ったことすらなかったけれど。

◆「名乗る」ことが持つ偉大なパワー

名乗ると言っても、大層なことではない。夜中に「しれ〜っと」、SNSのプロフィールに書き加えてみただけだ。

はたから見たら「それだけか」と思うかもしれない。

しかしその行動は本人にとって「世界への宣言」であり、なかなかできることではない。例えば、どれほど歌や料理が好きな人でも、自分のプロフィールに「歌手」「料理家」と書くには相当の度胸がいることだろう。

だからこそ、人は「名乗ってしまうこと」を恐れるのではないか。たとえ、自分のSNSのプロフィールなんて、誰も見ていないとしても。

リリーさんは「まあ、自分まだ何もできないけどね、ププ…」と面白おかしく思いながら、夜中に「着物ドレスデザイナー」とSNSのプロフィールに書き加え、「しれっと」その1歩を踏み出したのだった。

◆早速ドレス作り。「家庭科はできなくても、図工なら」

名乗ることで、対外的にも自覚的にもこの瞬間から「着物ドレスデザイナー」になったリリーさん。「よし!すぐに着物を買ってこよう!」と生地となる着物を買ってきて、制作に取り掛かった。

そこであることを思い出す。「そうだ。私って裁縫が苦手だった…」。それならばと、ドレスは安全ピンとボンドで作ることに。チョキチョキ切ったりビリビリ破ったりして、生まれて初めてする作業のオンパレードが始まった。

「なんなの、このワクワク!?」

取り憑かれたようにゾーンに入って翌朝を迎え、見事「リリー着物ドレス」第1号が完成。(この時は「ボンドコレクション」と呼んでいた)

「朝それを着たら、『テッテレ〜♪リリーは最強のアイテムを手に入れた!』って感じで、感動したの!笑」

◆そのまま「ボンドドレス」を着て外へ

夜通しの初制作でヘロヘロのリリーさん。徹夜明けのその日は、友人とランチの予定があった。「ちょうどいい!」と、出来立てほやほやの「ボンドコレクション」を着ていくことに。

「歩いてるうちにお尻の部分がビヨ〜ンと裂けるから、いつでも直せるようにボンドと安全ピンも持って行ったの(笑)」

第1号の「ボンドコレクション」。それにしても、「もともと出かける予定だった場所」がこのドレスにぴったり

ボンド生乾きのドレスを着てランチ会場に到着すると、周りの人たちからもらったのは賞賛の数々。リリーさんは嬉しい反面、「薄目で見てよね…つなぎ目も裏地もほんとヒドいから…」とヒヤヒヤしていた。

そんなボンド製着物ドレスが、まさか1年後には世界に売り出され、半年で2,000万円売り上げる魔法の「リリー着物ドレス」になるなんて、誰が想像しただろう。

いや。もしかしたらリリーさんは最初から、「自分が道を切り開くこと」を分かっていたかもしれない。

だって、彼女はリリーさんなんだから。

「彼女はリリー」 第1話
「ボンドで作った着物ドレス」完

◆次回:ボンドじゃそろそろ限界かも?


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