見出し画像

第20話◉部屋とおコツとお蘭◉

オカマのお蘭登場

今宵も【Bar Siva】は開店している。

定刻を10分過ぎている。

ボーイのサトシがリリーに向かって訊く。

「今日で間違ってないですよね?」

リリーはタバコをのんびりと吸いながら答えた。

「もう来ると思うわよ。

15分くらい体内時計がズレてる人だから」

リリーはニンマリ笑った。

そこに慌ただしくドアを開ける音が聴こえて
お蘭が登場した。

「いらっしゃいませ〜」

サトシが安定の爽やかさで言った。

「おヒサ〜。

やっと辿り着いたわ。

出掛けにパンプスが折れるというアクシデントがあってマジ焦ったわ」

お蘭はザ・オカマの話し方でクネクネした歩きでカウンターに座った。

お蘭は何も言われてないのに喋る。

「わたしはぁ〜

はじめはビールにしようかしら?

姉さんもサトシも呑んでよぉ〜」

「ありがとうございます」

サトシが笑顔で答えて厨房へ消えた。

リリーは火のついているタバコを灰皿に置いて

「わざわざありがとね。

この前は立川さんの出張鑑定も助かったわ。

彼女からも御礼の連絡来たわよ」

そう言った後に小さくお辞儀をした。


殺人事件と出張鑑定

実は先日リリーへの出張鑑定依頼を
都合が合わなかったので霊視鑑定出来るお蘭に
行ってもらっていたのだ。

「それは良かったわぁ〜。

こちらこそって感じかしら〜」

オカマ感100%でお蘭が話す。

「鑑定内容ヘビーだったんじゃない?

殺人事件だからね」

とリリーはタバコの灰を落としながら訊いた。

「ヘビーと言えばヘビーよね。

何が1番ヘビーかと言うと納骨してなかったことかしら?」

お蘭は真面目に答えた。

「電話で聞いてたけど、どんな感じだった?」

リリーは心配そうに訊いた。

「そうね。

現実を理解するのに時間が必要だったのよね。

自分の娘が付き合っていた息子の様に可愛がっていた子に殺されてしまったわけでしょ?

そりゃ〜消化不良になるのが当然よね」

とお蘭は話しながら段々と早口になって言った。

お蘭は怒ると早口になるのだ。

そこへサトシがビールを3つ運んで来た。

各自ビールを受け取ると

「カンパーイ」

と言ってグラスを3人の中央でカツンと音をさせた。

「あーーーー。

旨し。

この後の仕事が無ければ羽目外して呑めるのにねぇ〜」

とお蘭はビールを1口しか呑んでないのにこのハイテンションで言った。

「今日はお手伝い要員で呼ばれたんでしょ?

ある意味ご指名じゃないの?」

とリリーはビールを一気に半分呑んでから言った。

「そうなんだけどね〜。

お客様のメンツも知ってる人ばっかりだから楽っちゃ〜楽かな?」

お蘭は両手を口の前で合わせて微笑んだ。

リリーは新しいタバコに火をつけて

「ねぇ。

あの事件から何年だっけ?」

と質問した。

「5年くらいじゃないかしら?」

お蘭が人差し指を顎にあてながら答えた。


家が墓になる

「5年も納骨出来てないって。

それは空間がヤバくなるやつよね?」

「それよ。

まさにそれ。

家全体が墓と成してたわけよ。

そうなると色んなものが寄ってきたりだの何だのってなるでしょ?

だから彼女自身も病んでしまったみたいね。

それで家から出れなかったりしたわけ」

「そりゃそうよね。

気持ちの整理なんてどうつけていいかも分からないと思うわ。

我が娘を殺された上にその犯人が自殺…

怒りや憎しみを一体どこに向けたらいいのか?

自分が何か出来なかったか?

そう思って自分を責めてしまう…

時が止まったままになるのよね」

とリリーはタバコの煙が天井へ昇っていくのを見つめたまま言った。

お蘭もビールグラスの淵を指でなぞりながら口を開いた。

「彼女の気持ちは分かるとは言い難いけど…

納骨をしないことや亡くなった娘さんの事ばかりになると彼女が成仏しきれないって話したわ。

成仏して生まれ変わる準備を進めていても、お母さんが心配で生まれ変わる決心もつかない。

だから納骨をするように言ったの。

それは彼女も理解してくれたと思うわ」

「私も彼女が頭では理解出来たと思うわよ。

やっぱり事件に巻き込まれてしまった時、人は生きてる時間をストップさせてしまうケースが多いと思うの。

今回はお蘭のお陰で時を動かす切っ掛けになったと思うから本当に良かったわよね」

リリーはしみじみ言った。

お蘭は右手を胸に当てて

「私もお役に立てて光栄です」

と笑顔で言った。

「今度、立川さんはこっちに来るって言ってたわ。

予約は確定してないけど良い方向になってると思うわ」

とリリーはそう言った後に微笑んだ。

「良い方向に進んでるなら良かったわ。

彼女あまりにも色んなものをまとってたから…」

とお蘭は思い出しながら溜息をついた。

「時は動いてるとは思うけど焦らなくて良いと思うわよ。

だって急いで歪みがきても辛い話だと思うわ」

リリーは真顔で話す。

「それは確かにそうよね〜。

私も賛成だわ。

彼女が辛くてクリニックに通ってたりする事も仕方ないと思うし、事実を受け止める強さも必要だと思うのよね」

とお蘭が真面目なことを言う。

「ま、でも、お蘭に鑑定に行ってもらったことが切っ掛けで立川さんのこれからの人生が変わることを願うわ。

ありがとう」

リリーは頭を下げた。

「姉さん、いいのよ。

私に出来ることだから。

これも何かの御縁ね〜」

お蘭はオカマ満載で答えた後に続けた。

「では今夜は呑んじゃいますかぁ?」

リリーが笑いながら被せ気味に言う。

「って言いながら呑むのは毎晩の事ですけど」

「サトシ、おかわり持ってきてぇ。

全部よぉ〜」

お蘭のテンションはウナギ登りだ。

「かしこまりました」

サトシの爽やかな安定感に癒される。

「ねぇ。

今度、響も呼んで3人のイベントを企画してみるのも有りじゃないかしら」

リリーが提案した。

「いいわねぇ〜」

お蘭がナヨナヨしながら賛成する。

「では、とりあえず乾杯ってことでぇ」

サトシが厨房から叫んだ。

今宵は大騒ぎになりそうだ。

リリー、響、お蘭…

あの世の公務員の現世の集まりの話は又後日…

・・・

後日、立川から連絡が来た。

無事、納骨をして気持ち的に前に向かう決心をしたと…

そして次にリリーが立川に逢った時に

止まっていた時計が確実に進んでるのを確認した…

今宵はココまで…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?