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第29話◉るみとお蘭と私◉

視える種族

オーナーママのリリーは店で予約のキャンセルが出た。

約2時間の空き時間を得ることが出来た。

これがチャンスと珍しく友達の店へ遊びに出掛けた。

リリーはその店のドアを開けて中へ入った。

「いらっしゃいませ」

その店のオーナーママのるみはそう言って出迎えてくれた。

るみはリリーの顔を見ると

「あら?
ご無沙汰じゃない?
お店どした?
大丈夫なの?」

と立て続けに聞いた。

リリーはニコニコしながら席に座って答えた。

「キャンセルが出て少し時間が出来たから抜けて来たの。
ビールお願いします」

「は〜い。
付き出しは無しでいいのかしら?
ビールに氷入れる?」

るみは端的に聞く。

「付き出しは無しで。
氷は2個もらうわ」

リリーは出された灰皿を触りながら答えた。

るみは軽い返事をした。

「りょうか〜い。
リリーの店でキャンセルって珍しいわよね。
狐か何か?」

内容は超ドストレートだ。

「そうだったみたい。
るみの所は最近どんな感じ?」

リリーも動じずに答えて質問をする。

「うちは相変わらずよぉ。
常連さんのおかげ様よ」

るみはビールサーバーで注いだビールに氷を入れながら答えた。

「はい。おまたせ」

リリーはグラスを受け取ると

「一緒に呑みましょ」

と笑顔で言った。

るみは

「コーヒー飲んでる途中だから後でいただくわ。
お先にどうぞ」

と言ってコーヒーが入ったマグカップで乾杯した。

リリーは一気にグビグビと喉を鳴らしながらビールを呑んだ。

「よそ様でいただくビールは格別ね」

るみは自分のタバコに火を付けて言った。

「狐かぁ。
珍しい話でもないけど、リリーの店は予約する時から狐は断るはずよね?」

リリーも自分のタバコに火を付けて答えた。

「普段はね。
今日の人はどうしても来たい気持ちはあったと思うの。
大きな邪魔が入ったけどね」

「また予約してくるのかしら?」

るみは伏し目がちに言った。

「さぁ。
どうかしらね?
狐からしたら私は嫌な存在かもしれないわね。いったい、どっちが善でどっちが悪かなんて…宇宙全体で考えたら善も悪もないのかもしれないしね。
何が正解なのかしらね」

リリーは大きくゆっくりタバコを吸った。

それは大きな深呼吸でもあり大きな溜め息でもあったのかもしれない。

リリーはビールを呑み干して

「おかわりください」

と空のグラスをるみへ渡した。

るみはニコッとした後、新しいグラスにビールを注ぎながら話した。

「もう何年になるかしら?
出逢って」

「そうね。
チビがチビだったから何年になるかしら?」

るみがビールに氷を入れながら斜め上へ目線動かした。

「7年?いや、10年?」

「もうそんなになる?」

リリーは答えながらグラスを受け取った。

「懐かしいよね。
お蘭もあの時、私は初めましてだったから」

リリーはタバコの灰を落としながら続けた。

「あの時ってそう言えば…
私以外はオカマかゲイしか居なかったわよね?」

るみがコーヒーを飲みながら答える。

「本当よね。
考えたら恐ろしい図よ」

「お蘭なんて初めましてで近づいて来た時に女性の格好で
『久々に本物に出逢ったわ』
って言ったのよ。
そんなに女性に逢わないのかと思ったら【視える種族】の話だったって話を思い出したわ」

リリーはその光景を鮮明に覚えている。

お蘭に話しかけられた後に意識を
お蘭に集中したら【視える眼】だと
お互いに確認した。

もちろん言葉など使わない。

その後にリリーとお蘭は目配せをした。

そのお店の中にいる霊体2体の存在もお互いに確認。

同じものが視えてる人だ。

そんなお蘭との出逢い。

その店その空間に一瞬にるみも居たのだ。

リリーは懐かしく思いながら口を開いた。

「るみも視えるのに力使わないよね」

「私の場合は自分の身を守ることにのみ発揮するからね。
危険か危険じゃないか?
自分にとって良いエネルギーか?
どうか?それぐらいのものよ。
人を視るとかは無いわ」

るみはハッキリしている。

自分以外の人は他人である。

当たり前のことだが線引きがハッキリしている。

それが彼女の強さでもある。

来世もオカマで生まれたいと言う彼女の自己愛から全ての優しさが生まれているのだ。

まずは自分を愛する…

シンプルだが今の世の中では屈折した愛が多過ぎる…

話を元に戻そう。

リリーは娘がるみを誤解していたことを思い出して口を開いた。

「チビがるみのことを本当に女性だと何年も思ってたしね」

「そうそう。
すんごい真顔で私の隣に来て
『知ってるんよ。その胸を作ったんでしょ?』って言うから笑ったわよ。
今まで知らなかったの?って」

るみは当時を思い出しながら笑った。

「1番驚いたのは娘だと思うわ。
ずっと綺麗なお姉さんだと思ってたんだから。ショック受けてたわよ」

リリーは半笑いでビールを呑む。

「あれで相当なエネルギーの塊だからね。
純粋も武器なんだろうね」

るみはコーヒーを飲み干してマグカップを上に軽く上げて

「乾杯するわぁ」

と言うとグラスにビールを注いだ。

リリーはタバコを消した後に自分のグラスを右手で持ち、るみのグラスと軽く当てて言った。

「カンパ〜イ」

ビールをひと口呑んで

「時間限られているから一気に呑んでね」

リリーは悪戯っ子の微笑みをした。

・・・

この後、予約15分前に

お店で留守番をしているボーイのサトシから電話があってリリーの束の間の休息も強制終了となる…

今宵はココまで…

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