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第12話◉おくりびと◉

視えている人

リリーの店に長年つき合いのある酒屋さんがいる。

小堀酒店だ。

いつも、さまざまな酒類の注文に応じて配達してくれる。

オーナーの小堀さんは真面目な人柄がにじみ出てる、いわゆる良い人だ。

小堀さんが今日は遅めの配達に来ていた。

リリーも久しぶりに小堀さんの顔を見た。

「あら?

お久しぶりです。

いつもお世話になっております。

配達がこの時間って珍しいですね」

リリーが愛想良く話しかけた。

小堀さんは無表情で答えた。

「在庫の足りない物がありまして、余所まで取りに行っていたもので、いつもより遅くなりました」

「そうなんですね。

ありがとうございます」

リリーは笑顔で返す。

小堀さんは無表情のまま、いきなり切り出して来た。

「ところで、前から聞こうと思ってたんですが…

何故、それだけの力を持っているのに、街にいる浮遊霊と言いますか、迷い子の人を成仏させてあげないんですか?」

リリーは、さすがに驚いた。

そんなこと言われると予想する相手でもない。

日頃は必要ない情報を受けないために、

まわりと遮断するエネルギーを使っているため、小堀さんに言われてることが一瞬理解出来なかった。

リリーはすぐに持ち直して

「それは、私の役目ではないからです」

余裕がなさ過ぎてストレートな回答になった。

小堀さんは無表情のまま

「それだけの力を持っていて、あの世に送ってあげる能力もある。

しかも、それを分かっているんですよね?

使えばいいんじゃないですか?」

と質問をする。

リリーは淡々と答えた。

「私の役目はいわゆる【おくりびと】ではありません。

私なんかより、よほど小堀さんの方が適任なのではないですか?

だって、身内の方の葬儀の場合【おくりびと】されてますよね?」

「それは身内だからですよ。

普通に送ることはないです」

小堀さんは真顔で答えた。

「同じですよ。

身内が送れるのなら沢山の人を送る能力があるって事だと思います」

リリーは力強く言った。

小堀さんは少し顔が緩んで

「私に、そんな力はありませんよ〜」

と謙遜をした。

「小堀さん、本当に送って欲しい人は、いっぱいいると思うんです。

この世に執着して成仏するタイミングを失った人たちが成仏出来るタイミング、やり方を知りたいと願っている人たちの役に立ってください。

お願いします」

リリーは言った後にニコッと笑った。

小堀さんは

「私にそんなお役目が務まるとは思いませんが、ちょっと考えてみます」

と謙虚に話した。

「この辺りは原爆投下によって一瞬で命を奪われた人が大勢いました。

自分が死んでるという認識すら出来る時間もなく、死んでしまった為に彷徨ってしまう人…

何が起きたか分からないけど、自分の体中が火傷で痛み苦しみ、もがきながら亡くなった人…

戦争で大きな爆弾を落とされて街が破壊した事を認識はしているものの、鼻、口から熱風を吸って熱くて川へ飛び込んで亡くなった人…

他にも交通事故で亡くなって突然過ぎて彷徨ってしまう人…

災害に巻き込まれて、寝てる間に亡くなった人…

昔に比べたら数段、彷徨っている人が少なくなったけど…

まだまだ、小堀さんの力を必要としてる人は本当に多いと思います。

ぜひ、ご検討、よろしくお願いします」

リリーは熱く説明した。

小堀さんは

「わ、わかりました。

検討してみます」

と言うと軽く会釈をして帰って行った。

厨房で作業していたボーイのサトシが出て来て

「小堀さん、急にどうしたんですかね?」

首をかしげながら言った。

リリーはタバコに火をつけながら答えた。

「彼にとって、時期が来たってことかしらね」

タバコの煙をゆっくり吐く。

「時期ですか?」

「そう、お役目の司令というか、それに気がつく瞬間というか…

私に対しての疑問が実は自分への使命だった…なんてね」

リリーはタバコを吸いながらおどけてみせた。

「僕にも、お役目があるんですかね?」

サトシが真顔で訊く。

「さぁ。どうかしらね。

いろんな形でこの世に存在してるからね。

その内、気付く日が来るんじゃない?」

リリーはニヤケながら答えた。

「そうですよね。

ココで働いてるのも何かの縁ですし、自分で気付ける様に頑張ります」

まるで小学校の先生へする返事の様に明るく前向きにサトシが言った。

「それはそうと…

ママは自分のお役目が何かわかってるってことですか?」

サトシが小学生の様なキラキラとした眼差しで訊く。

「まあね」

リリーは当たり前と言わんばかりのトーンで答えた。

サトシは即座に

「それは何ですか?」

と真顔で訊いた。

リリーが口を開く前にお店のドアが開いた…

サトシは反射的に

「いらっしゃいませ」

と言いながら苦いものを食べた様な顔でリリーを見た。

この話の続きは又…

・・・

・・・

小堀さんはその後、周波数が合った時には

【おくりびと】をつい

してしまっている様だ。

配達に来た時にサトシに笑顔で話しているらしい…

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