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私たちの身近なドラッグ【スマホ依存症】

私たちの生活に欠かせないスマートフォン。
ここ10年ほどで、スマホの普及率はぐんと伸びました。

そして、各年齢層へ向けた機種やアプリが開発されています。
色々な公的な手続きも、スマホから出来るようになってきています。


愚問ですが、たった今からスマホが無い生活を送ることはできますか?

…はい、私は無理です。

それはなぜか。スマホは便利だからです。
どのように便利かいうと、

・ネットショッピング
・スマホ決済
・SNSや動画配信サービス
・フードデリバリー
等々…

例を挙げるとキリがないですよね。

キリがないほどの事が、片手に収まるスマホ1つで出来てしまうんです。

ではなぜ、こんなにも私たちは、底なし沼のようにスマホにハマっていってしまうのでしょうか?
今回も、ある本を参考にしてナゾに迫っていきます。

参考書籍の紹介

アンデシュ・ハンセン氏著、久山葉子氏訳「スマホ脳」新潮社(2020)です。

アンデシュ氏はスウェーデンの精神科医です。
デジタル化社会は、「人類史上、ここ数年ほど急速にライフスタイルが変化したことはない」未知の世界で生きる私たちにどのような影響を及ぼすのか、ということをこの一冊の本にまとめ、警鐘を鳴らしています。


また、前回の記事で参考にした書籍も、一部参考にしました。

この2冊を並べてみると、「あの化学物質」が鍵となっていそうですね。

元々は「生き延びるため」のドーパミン

本書(スマホ脳)を参考にした、ドーパミンについての昔話です。


おおよそ10万年前人類は、人口の15〜20%が飢餓で亡くなっていました。

ある時、甘味を認識する遺伝子に突然変異が起きました。
甘い果実を食べるとドーパミンが分泌され、満足感を感じる事ができたのです。

木になっている甘い果実を全部食べたくなる欲求が生じて、食べられるだけお腹に詰め込みました。
満腹になってしまったので、果実をいくつか残して帰りました。

翌日目が覚めると、またあの甘い果実が食べたくなり、昨日の木に行きました。
しかし、何者かに全て取られていました。

残念ではありますが、前日たくさん食べたので、身体にはカロリーが残っています。

というように、「甘味を認識するとドーパミンが分泌される」というカロリー欲求の遺伝子を持つ方が、そうでない方よりも生き延びる確率は高くなります。

消費しきれないカロリーは脂肪として腹部に蓄積され、食べ物が見つからない時に餓死から守ってくれるようになるからです。

その遺伝子は次世代にも受け継がれ、その世代も生き延びて子孫を残すことが容易になります。
そして、とても長い年月をかけて、その遺伝子は人類において一般的になっていくのです。

では、現代の人類に当てはめてみるとどうでしょうか。


食欲をそそる匂いに釣られ、マクドナルドの店に入りました。
ハンバーガーにポテト、コーラとアイスクリームを注文し、はち切れそうなお腹で店を出ます。

翌日目が覚めると、またあのハンバーガーが食べたくなり、昨日の店に行きました。
嬉しいことに、前日と同様に食べ物で溢れていたので、同じメニューを注文しました。

身体には昨日の消費しきれないカロリーが残っていますが、今日もカロリーを摂取しました。

結果的に、暴食により体重が何キロも増え、さらには2型糖尿病も発症します。
私たち人類の生存を維持してきたカロリー欲求は、益よりも害を引き起こすようになったのです。

何百万年もかけて進化してきた生物的なメカニズムは、現代社会の急速なライフスタイルの変化についていけていないのですね。

「かもしれない」「もしかしたら」が、私たちにスマホを触らせる

人類は、ライオンの行動と天候の関係性を知ることで猛獣の餌食になる確率が下がる、つまり周囲を深く知ることは生存の可能性が高まるということを経験しました。

その経験から、人類は新しい環境や情報を欲する本能を、進化の過程で身につけました。

新しいことを学ぶとドーパミンが放出され、もっと詳しく学びたいと思うようになります。
新しい情報を得ると脳は報酬を貰えるということです(=報酬システム)。


食料や資源が常に不足し、危険と隣り合わせの時代の人類において、「新しい場所に行ってみたい」「新しいことを体験してみたい」という欲求は、生存の可能性を高める衝動でした。

現代はどうでしょうか。

スマホの画面をスクロールやクリックさえすれば、新しい知識や情報が手に入ります。その都度脳はドーパミンを放出するのです。
もっと知りたい!」とクリックする指が止まらなくなります。

そして、「何かが起こるかもしれない」「もしかしたら良い事があるかも」という期待が、報酬システムを激しく作動させます。

LINEやメールの着信音が鳴るとスマホを手に取りたくなるのは、不確実な期待によりドーパミンが分泌されているからです。

「何か大事な用かもしれない
「気になるアノ子からの返信かもしれない

そんな強い欲求に抵抗することなく、「ちょっと見てみるだけ」とスマホを手に取ってしまうのですね。

SNSは企業の策略

TwitterやFacebook、InstagramなどのSNSは私たちに、

「何か大事な更新はないかな」
「『いいね』がついたかもしれない」

と、確かめたい欲求を起こさせます。

本書で知ったことなのですが、FacebookやInstagramは、親指マークやハートマークが付いた通知を保留する事があるそうです。

SNSの開発者は、人間の脳の報酬システムを詳しく研究しています。
「いいね」の通知を遅らせて刺激を分散することで、デジタルな報酬への期待値を最大限にできるということは、開発者の計算通りなのですね。

 このような企業の多くは、行動科学や脳科学の専門家を雇っている。そのアプリが極力効果的に脳の報酬システムを直撃し、最大限の依存性を実現するためだ。金儲けという意味で言えば、私たちの脳のハッキングに成功したのは間違いない。
スマホ脳 p.78

スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツなどのIT企業のトップは、ドラッグのようなスマホの依存性を知っているからこそ、自分の子どもがスマホを使用することに対して慎重になっているそうです。

脳が劣化していく

スマホアプリの開発によって、私たちは数年前と比較してより手軽に情報を入手できるようになりました。

新聞よりも娯楽要素を含んだテレビニュース、テレビニュースよりもクリック1回で簡単なインターネットニュース。

長文で真面目な政治論争よりも、簡潔で見栄えの良い話題の方が、クリックしたくなります。

医療に関するニュースの方が私たちの生活に深く関わっているのにもかかわらず、医療系の長いエッセイは読み飛ばし、刺激的な見出しを次々にクリックしては、芸能人のゴシップに気を取られる一方です。

手軽な快楽は、長文を読みニュースの内容を処理するという労力に敵わないのです

手軽な近道が大好きな脳は非常にずる賢く、それに関する面白いデータがあります。

被験者たちに美術館を訪問させ、何点かだけ作品を写真撮影してもらい、それ以外は観るだけにするように指示をしました。
その後、美術館の展示作品と展示されていなかった作品を混ぜた写真を見てもらい、どれが展示作品かを当ててもらいました。
すると、写真撮影していない作品はよく覚えていましたが、写真撮影をした作品はそれほど覚えていなかったのです。

どのみちデジタルデータで保存されるのに、なぜ記憶するためにエネルギーを消費しなければならないのか?、脳はそう考えているのです。

機械に任せているために、自分自身の長期記憶や集中力が低下してしまうのです。

おわりに

スマホ依存のメカニズムを知っている人と知らない人では、長い目でみると自分や子どもへの影響は雲泥の差でしょう。

デジタルに頼って効率的に近道をし、結果を残すことができたとしても、深い学びは得られません。
そればかりか、もう苦労することをやめてしまうと思います。
本の要約サイトや映画のネタバレサイトを見て、「読んだ・観た」と言っているのと同じだと思います。

私は、自分で見て・触って・経験して、本質的に学んでいきたいと思いました。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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