「若者のすべて」の歌詞解釈 /フジファブリック
今日は、しっかり歌詞解説をするというよりも妄想を多分に加えながら私なりに歌詞世界を紐解いていこうと思います。
今回は、亡きボーカルの志村さんが作詞作曲した、フジファブリックの代表曲【若者のすべて】がテーマです。
Mr.Childrenの桜井和寿さんが率いるBank Bandというバンドでもカバーされています。
フジファブは、妄想欲やメランコリックな胸のざわめきを誘うようなユニークな歌詞が特徴的なのですが、今回取り上げた「若者のすべて」はいったいどのような世界へ連れて行ってくれるのでしょうか。
それでは始めます
1.冒頭
“真夏のビークが去った
天気予報士がテレビで言ってた“
始まりは情景描写です。この歌のこういうところがとても物語的だなと思います。
「真夏のピークが去った」というフレーズに、秋に向かう焦燥感や、もの悲しい雰囲気がにじみ出ています。
ところで、夏の終りが燃え上がった恋の終焉を連想させるのは、そういったテーマの曲がたくさんあるせいでしょうか。それとも、本能的な何かなのでしょうか。
つづく「天気予報士が言ってた」からは事実(ニュース)をどこか他人事に感じているような印象を受けます。部屋でひとり、所在なくぼーっとテレビを眺めている主人公が目に浮かびます。
“それでもいまだに街は 落ち着かないような気がしている”
ここから主人公の心理描写が始まります。
落ち着かないのは本当に「街」でしょうか。私には、季節の移り変わりに取り残されている主人公の心情が投影されているように思えます。
“夕方5時のチャイムが 今日はなんだか胸に響いて 「運命」なんて便利なもので ぼんやりさせて”
運命ってなんの運命なんだろう?なんでチャイムが胸に響いたの?
そもそもチャイムは夕方5時頃に流れる夕焼け小焼けなどのメロディのようです(私は最初玄関の呼び鈴だと思ってました)
少し先取りしますが、この主人公は何年も前に恋人と別れています。
主人公は彼女と別れたことを運命として受け入れ(諦め)ることで、やるせない気持ちをごまかそうとしていると考えられます。
夏の終りを告げるニュースを聞いて少しセンシティブになっていた主人公の心に、昼の終わりを知らせるあのノスタルジックなメロディが響いたのではないでしょうか。
2.サビ
“最後の花火に今年もなったな 何年経っても思い出してしまうな”
さきほど先走りましたが、ここで彼女と別れてからかなりの年月が経過していることがわかりますね。
花火を一緒に観に行ったのは友達?それとも新しい彼女?もしかしたら一人で行ったのかもしれませんし、今年最後の花火大会が今日という事実があるだけでそもそも主人公は行っていないのかも。
いずれにせよ、いつも君と見た花火を思い出してしまう。
“ないかな ないよな きっとね いないよな 会ったら言えるかな まぶた閉じて浮かべているよ”
サビなのに全く主語や目的語がないんです。おもしろいですよね。
ただただ主人公の漠然とした想いの断片が並べられています。なにがないの?誰がいないの?会ったら何を言いたいの?
そんな疑問を私なりに穴埋めします。
「(君とまたいつかどこかで会えること、あるかな?いやきっともう)ないかな ないよな
きっとね(君以上に好きになれる誰かなんて)いないよな
(君ともしまた)会ったら言えるかな (どれだけ月日が流れてもやっぱり君以上の人なんていないよって)」
こんな感じです。
3.2番
“世界の約束を知って
それなりになって 戻って“
ここは、
世界の約束=社会のルール
「年月を経て大人になってそれなりに日々を送っていても、ささいなきっかけ(花火)で君のことを思い出して一瞬でまたあの日々に引き戻されてしまうよ」
と読みました。
“街灯の明かりがまた 一つ点いて 帰りを急ぐよ
途切れた夢の続きを とり戻したくなって“
花火の帰り道に街灯が灯り始める(夏なら19時頃?)というのもなんだか変なので、今日は今年最後の花火大会だけど主人公は行かない、という状況かもしれません。
とにかく花火をきっかけにして君といた日々に引き戻されてしまい、いても経ってもいられない気持ちの主人公が描かれています。昨日見た夢、君が出てきてくれたあの夢の続きを今日も見られるだろうか、という解釈もできますが、ここはあえて「運命なんてものでごまかすのはもうやめよう。もう一度君を取り戻したい」と思い切って彼女に連絡して会おうとする主人公、ということにしておきたいと思います。
そうすると、この後に繰り返される最後のサビも一度目とは違う響きを持って聴こえてきますよね。
なぜ私がこういう解釈をしたいかというと、冒頭でお伝えしたようにこの曲はやはり物語的だと思うからです。
物語にはだいたい起承転結がありますよね。起は情景描写で、承はチャイム、花火が転、結は行動の変化、という読み方が気に入っています。
いかがでしたでしょうか。
夏の終りを予感させるニュース、夕方のチャイム、と、花火(とそれに伴う主人公の決意)に向けていろいろな伏線が貼られていましたね。
「君」という単語を一度も使っていないのにこれほど関係性を想像させるのはすごいと思います。
今回は国語的に攻めるというよりも妄想要素が強いので、こういう読み方もあるんだなと楽しんでいただけたら幸いです。
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