眠れない夜には、いつも本がそばにあった『夜を乗り越える』感想

『夜を乗り越える』を読んだ。

読書家として、作家兼芸人としてよく取り上げられている「ピース」の又吉直樹が書いたとして、個人的に前から気になっていた本。近代文学に対する知識や豊富な読書量など、テレビで特集されるほどに有名になった彼が、文学にどう出会ったのか。読書という行為をどう考えているのか。創作に対する考え方などがエッセイテイストで書かれていて、読み始めると共感できる部分や「なるほど」と思わされる部分がとても多い本だった。

「そもそも、なぜ本を読むのか」という点について

「僕が本を読んでいて、おもしろいなぁ、この瞬間だなあと思うのは、普段からなんとなく感じている細かい錯覚や自分の中で曖昧模糊としていた感情を、文章で的確に表現された時です」
(第3章 なぜ本を読むのか――本の魅力 p113)

感覚の確認、共感と発見のおもしろさ。自分もまさにおんなじ事を思っていたので、この点に関してはそれこそ共感の嵐だった。世界で自分ひとりだと思っていた考え方を、本の中に見つけた時。自分とは真逆の考え方を見つけた時の「こういう奴もいるのか」という不思議な感覚。共感/反発の双方含めた発見が、まさしく読書の醍醐味なのだと。

知識に関しては学校の授業や専門書を使って、いくらでも勉強ができる。しかしものの見方や価値観については、人生を通して学ぶことしかできない。生まれや育ち、国家や宗教――個人個人によって異なったものの見方を理解できず、頭が凝り固まってしまったまま大人になる人は沢山いる。それはそれで人の在り方なのかもしれない。けれど沢山の価値観を知ったほうがそれだけ可能性は開けるし、それだけ他人を受け入れることが出来る。自分とは違う誰かに優しくできる。

僕の人生の辛い時期には、いつも本が傍にあった。人生の一時期を思い返すと、夢中になって読書をしていた時期は、行き先が見えず暗闇の中でもがいていた時期でもあったような気がする。

明日、朝起きることすら怖いと思う。そんなとき枕元にあった一冊の本が、その後の人生を照らす道しるべになるかもしれない。先が見えない人生に怯え、眠れない夜を過ごした経験がある人にこそ『夜を乗り越える』は読んでみてほしい一冊だと思う。

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