英検1級二次試験のこと その2(面接試験の内容)

この記事の続き。先日、2024年度第1回の英検1級に合格した。その二次試験の面接の様子について書き残しておこうと思う。


面接官

2人の面接官が並んで座っており、初めに面接官から名前のみ自己紹介があった。外見と名前から判断するに一人は欧米人、もう一人は日本人だった。欧米人の面接官の英語は北米のアクセントだったと思う。ネイティブと日本人のペアで面接が行われるとは色々なところで聞いていたがその通りだった。進行も含めて欧米人の面接官が主に話していた。

スモールトーク

面接官に氏名と受験級の確認をされた後、簡単に自己紹介をするよう言われる。この会話は試験の評価とは関係がないらしい。どんな仕事をしているかと、趣味で英語とフランス語を勉強していて、言語学と古英語も少し勉強する、ベオウルフを読んだりするということを話した。「古英語を勉強する」と「ベオウルフを読む」はさすがに盛りすぎだろう。「ベオウルフ」と言った時に日本人の面接官が明らかに「おお」という顔をしていた。でも、古英語じゃなくて英語史って言えば良かったな、と後悔。
面接官に「あなたの仕事とベオウルフには関係があるとは思えないんですが、どうしてそれを勉強しているのですか」と問われる。「とある大学の先生のコミュニティに入っていて、その先生が言語学や古英語のことをとても面白く説明してくださるから、楽しくて学んでいます。私は言語が好きなので、人生を意義のあるものにするために将来的には言語に関係する仕事をしたいと思っています。」と返しておいた。
しかし今になって思うと、別にジョギングやギターのような趣味だって大方の職業とは何の関係もないだろうに、なぜベオウルフだけが槍玉に挙げられなければならないのか。あまり納得いかないが、受験者の主張の弱点を突いた質問をするのがこの日の仕事である面接官が意地悪なマインドセットになっているのは詮ないことなのだろう。

トピックの選択

机に5つのトピックが書かれた緑色の紙が置いてあり、それを1分以内で読んで1つ選択するよう指示される。事前に記入したマークシートの面接官記入欄に"green"と"yellow"という項目があったので、黄色い紙と緑の紙の2パターンのトピックシートがあるのだろう。
トピックの選択が終わったら、すぐにショートスピーチが始まるので、1分以内にトピックを選んでスピーチの内容まで考えなければいけない。一次の筆記・二次の面接を通して英検1級の最も難しいパートがここだと私は思う。
5つのトピックを上から読んでいって論じやすそうなものがあれば残りのトピックは読まずにスピーチの内容を考えた方が良いのか、すべてに目を通して一番良いものを選ぶべきなのか、戦略を決めかねていたが、結局本番ではすべてのトピックに目を通した。

5つのトピックと私が選択したもの

全部のトピックは覚えていないが、1つ目は「若い人たちは会社で働くことに興味がなくなってきているか」というようなものだった。いきなり1つ目で易しそうなテーマだ。残りの4つを読むのをやめてこれについてのスピーチの構成を練ろうという考えが頭をよぎったが、やはり欲が出てしまい他のトピックにも目を通した。他にはmonopolyが云々というトピックがあったが、monopolyって何だっけ状態だったのでこれは即座にパス。何番目だったか忘れたが「社会はチャリティーやボランティアに依存するべきか」というトピックがあり、これを選んだ。理由は、自分が頭に入れて来たネタが一番たくさん使えそうなトピックだったからだ。残り2つのトピックは全く思い出せないが、用意したネタの方向性と合っていないジャンルのものだったのだと思う。

準備していたネタ

少し話が逸れるが、私が面接に向けて準備したネタは以下のものだ。

  • テクノロジーの負の側面

  • 国民皆保険制度

  • 国家による個人のデジタルデータへのアクセスの是非

  • 個人や企業が持ちうる資産の限度を設けることの是非

  • 女性議員を増やすためのクオータ制導入の是非

純粋にこれだけしか用意しなかった訳ではないが、具体的な意見や理由を考えたり、用語を覚えたりしたのはこれだけだった。意見や理由はChatGPTに色々質問をぶつけて使えそうなものをノートにまとめた。ChtaGPTが無い時代だったらとても受からなかったと思う。試験直前の1週間ほどは、移動時間にSDGs関連の英語の動画をYouTubeで見たりしていた。再生可能エネルギーと貧困問題の動画が中心だった。

ショートスピーチ

1分間のトピック選択時間の終わりを告げるタイマーが鳴ったところで、面接官にトピックを選んだか聞かれ、「はい、◯番目を選びました」と答える。選んだトピックを読み上げるように言われ、その通りにする。
面接官が「それでは今から選択したトピックについてあなたの主張を話してください。時間は2分間です。」と言い、スピーチの時間の計測が始まる。

「社会はチャリティーやボランティアに依存するべきか」について、私は「依存するべき」という立場で以下のような主張を展開した。

政府による富の再分配で是正しきれない不均衡を解消するためにチャリティー、特にフィランソロピーは重要な役割を果たしている。政権が交代してしまうと一貫性のある社会福祉政策を実現できない可能性があるが、政府から切り離された立場にあるフィランソロピストには長い年月のかかるプロジェクトを遂行することが期待できる。多くの場合フィランソロピストは実業家なので、効率的な資産の使い方を国家よりもよく知っている。

Lilimi

ちょうど言いたいことをすべて言い終えたタイミングでタイマーが鳴った。奇跡と言う外にない。日本語でここに書いたほどきれいな英語では話せていないものの、自分にしては出来過ぎだと思う。どこまでをトピックの選択時間の1分間で考えて、どこからを即興で話したのかは覚えていない。
しかしアイデアの出どころは覚えている。先述したとおり事前に用意したネタの中に「個人や企業が持ちうる資産の限度を設けることの是非」があり、その中で「フィランソロピストは社会問題を解決するために重要な役割を果たしている(から資産に限度を設けるべきではない)」という主張があったので、このトピックに結びつけて話した。元のトピックにあったキーワードである「チャリティー」と「ボランティア」を無理矢理「フィランソロピー」に捻じ曲げてして論じた。
それから、以前シンガポール出身の人が、シンガポールの首相が世襲されることの長所として、「同じ思想を持つ親から子へと政権が引き継がれれば、長い年月のプロジェクトが遂行できる」と話していたのを思い出して、2つ目の理由を考えついた。本当に、アイデアはどこから浮かんでくるかわからない。

質疑応答

ショートスピーチが終わると、面接官からスピーチの内容について質問をされる。「フィランソロピストとは何か」と問われる。質問の意図がよくわからなかったため「用語の定義を言えばよいのか」と尋ねると、そうだと言われたので説明する。長々と説明してしていたら、話を遮るように次の質問をされた。時間が限られているので「わかりました」とか「では次の質問です」のようなやりとりを省略しているのだろう。
次にされた質問が理解できなかったため、素直にそのことを伝えると、言い方を変えて詳しく説明してくれた。質問の内容はこうだ。「フィランソロピストには何か思惑があるかもしれない。例えばイーロン・マスクは慈善事業をしていると見せかけて何か企んでいそうだ。チャリティー団体が裏でテロ組織と結びついていることもある。そういった危険性についてはどう考えるか。」ごもっともな指摘だ。すぐに切り返すことができず、「仰ることはよくわかります」とか「難しい質問ですね」と言って時間を稼ぎながら答を探す。苦し紛れに「いやもうそれは、・・・お金の流れをちゃんと調べるべきです。」くらいの薄っぺらな回答で終わってしまった。ここでタイマーが鳴り、面接終了となった。
2つ目の質問を言い換えてもらうのにかなり時間を使ってしまい、質疑応答のパートでたくさん話すことができなかったし、回答の内容もパッとしないものになってしまった。

感想

ネイティブの人とリアルで話す機会もあまりないので、肩の力を抜いて楽しもうと思っていたが、いざ本番になるとやはり緊張してしまった。「受かりたい」という煩悩からは逃れられない。

次の記事へつづく


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