【医学生・研修医向け】君たちはどう生きるか - 誰も教えない医師の進路の話 - 5. 勤務医はどうだろうか

いよいよ日本の医師で最も多いキャリアである勤務医の項です。

現実問題として、現在の医師の多くは勤務医ですが、勤務医の中は大きく3つに分かれています。

・大学病院の勤務医
・医局派遣の市中病院勤務医
・医局派遣ではない市中病院勤務医

です。

最初の方で私は勤務医をキャリアの終着地点の目標とすべきではないと書きましたが、その理由についてもこの項で記述していきます。


5-1. 大学病院勤務医


大学病院に勤務する勤務医は、狭義の意味での医局員です。
上から順に教授以下、准教授、講師、助教となり、昔はこの下に医員というポストがありましたが、最近は診療助教と名前を変えています。
このうち助教以上が常勤となります。
診療助教は非常勤で週4日、30時間勤務という建前になっており、ボーナスはありません。
建前と書いたのは、ご承知の通り、そんなはずはないからです。

給料はランクに応じて上昇しますが、上昇するとは言っても雀の涙程度です。
恐らく診療助教で月給25万円、助教で35万円…と上がっていく程度と考えておく必要があります。
時間外手当は出ないと思った方が良いです。

これでは生活できませんから、大学病院勤務にはアルバイトがつきものです。
つまり、月曜日から金曜日の大学病院での勤務をこなし、多くは月に数回程度の大学当直をこなした上で、日中の外来バイトや夜間や休日の当直バイトに他院に赴く生活が待っています。

アルバイトは指定される医局と自分で選択する医局がありますので、その方針に応じて総収入は大きく変わります。
多いところで年収1000万円程度、少ないところでは400万円程度すらあり得ますので、注意しましょう。
余りの条件の悪さに労働基準監督署に訴え出る先生が全国で年に数人程度いらっしゃいますが、残念ながら勤務体系が大きく変わったことは現在までありません。

業務内容は臨床、教育、研究(論文・学会発表)が3本柱です。
多くの医局でその年に行った業績を発表する場があり、最低でも年に1本程度の論文を執筆していなければ恥ずかしい思いをするはずです。とはいえ、専門医試験を受験する際に論文の実績や学会発表の実績が必要になりますから、少なくとも専門医取得や博士号取得まではどこかの大学の医局に所属しておくことが明らかに有利です。

市中病院では、例え地方大学より大きな規模の病院であっても、専門医はともかく博士号の取得が困難となる場合が多いです。

ほとんどの大学の医局では研修プログラムを持っており、例えば1年目は医局派遣で市中病院へ、2年目に大学病院へ戻り1年間勤務し、3年目で大学院入学などのプランがありますので、入局前にある程度確認しておくことをお勧めします。
このプランに沿うことができれば、多くの場合専門医取得とほぼ同時期に博士号も取得できます。

先ほど業績発表について述べましたが、残念ながら論文の執筆が少ないなどの問題がある場合、大学病院から市中病院に出されてしまう可能性があります。
もちろん専門医取得や博士号取得は最終的に可能なレベルに止めるはずですが、場合によっては博士号取得を諦めざるを得なくなる場合もありますので、少なくとも大学病院にいる間は臨床だけでなく研究の業績を上げるようにしましょう。

大事なことは、専門医や博士号を取得した後に大学病院に残るということは、即ち教授を目指すということなのだということです。

開業に必要なのは専門医やせいぜい博士号までであり、開業医を目指すのであればこれ以上の医学の追究を行うよりもむしろ地域の患者と接し、あるいは市中病院に勤務しながら経営のノウハウを学ぶ方が倒産の危険率を大幅に下げることができます。
一方で大学病院に残るのであれば、死に物狂いで何か日本一になれる分野を見つけ、その道に邁進すべきです。

教授を目指すのでもなく専門医や博士号を取った後に漫然と大学病院や大学の医局に所属している時間は、キャリアの視点からは無駄な場合が多いと肝に銘じる必要があります。

5-2. 医局派遣の市中病院勤務医


医局の命令により市中病院の常勤医として勤務する事は多いです。
収入は職位によりかなりまちまちで、医局の教授が交渉することで高くなっていたり、交渉しないことで低くなっていたりします。アルバイトが禁止になっている場合もあり、月に50万円から100万円程度まで幅があると思った方が良いでしょう。
また、時間外手当や当直料、呼び出し料の規定などで増える場合もあります。

イレギュラーとして、一人医長などの厳しい勤務体系であれば高給になることがあります。とはいえ特に救急を扱う科では本当に厳しいと思いますから、自分の身体や命を守ることを優先した方が良いです。
一般的には医局の力を背景として就職しますので、職位は高めになることが多いです。

その病院に長くいる先生を差し置いて、キャリアが下の医師がその上司として赴任することもあり、トラブルが起きることもしばしばあります。この場合はトラブルの内容にも寄りますが、多くは長くいる先生の方が退職に追い込まれることが多いです。特に地方大学では、医師を安定的に供給できる大学医局の力はその位強いと思っておいて下さい。

業務内容は外来、病棟管理、救急対応、当直、外科系であれば手術等となり、学会発表や論文発表が求められることは稀です。

しかし医局派遣で回っている以上、本当は学会や論文発表を行った方がいいことは間違いありません。
実はこの市中病院を回っている時こそが目立つチャンスなのです。
このことをご存じない先生が多いですが、市中病院の時にこそ積極的に論文や学会発表を行いましょう。回りが学術的なことから遠ざかっている中で行えば間違いなく実績になりますし目立ちます。
科研費の申請書も積極的に書きましょう。仮に自分の名前では出さないことになろうとも相当に有り難がられる上、自分の経験にもなり大きく成長できます。
特に教授を目指す場合はこれらの行動は必須と言っても過言ではありません。
大学病院の先輩に相談すれば必ず手伝ってくれますから、実はそこまで大変ではないことが多いです。

医局人事で動く場合、一つの病院に勤務するのは長くて3年程度です。
つまりこのスタイルでは勤務医は最終的な目標になり得ません。数年毎の転勤が常となります。
しかし、例えば家を建てて転勤したくないなどの事情がある場合、医局に所属はするが人事異動は拒否するというスタイルで勤務を続けられる場合があります。このスタイルの場合は医局派遣でありながら、実態は次の「医局派遣ではない市中病院勤務医」に非常に近くなってきます。


5-3. 医局派遣ではない市中病院勤務医


直接求人情報を見て応募するなり民間のコーディネーターを仲介するなりして就職するスタイルです。
給与は医局派遣の場合よりも低いことがほとんどです。また、民間のコーディネーターを介すると10-20%中抜きされますので、その分給与は下がります。

医局派遣とは違い、基本的にその病院で長期に働くスタイルとなります。
このため、医局派遣で働く場合とは違って、診療実績、学術的な実績や新人のリクルートがかなり重要になってきます。

院長側から見た場合、良い勤務医とは良い治療を数多く行い、良い収入をもたらすだけでは足りません。
新人を継続的に勧誘し、持続可能な診療体制を維持することも重要な役目になります。
そして、新人を勧誘するためには自身にある程度のカリスマ性が必要となります。この点で、診療や学術的な実績はかなり重要です。例えば外科系であれば手術が上手であるとか、内科系であれば有名な治療法を開発したとか、有名な本を執筆している等です。
医局派遣と違って自らの名前一本で人を呼んで来るというのは並大抵のことではありません。

もちろん新人のリクルートは究極的には院長の仕事ではありますが、雇用者側から見た場合、これを行ってくれる先生を優先するのは明らかです。

新人のリクルートができなかった場合、定年退職が近づく55歳頃を目安に病院側が退職を見据えた動きを開始します。
これまで受け入れてこなかった大学の医局人事を受け入れるという選択をする病院が多いですが、この場合、医局派遣で来る医師が自らの上司になる可能性があります。それどころか、新たな医師と治療方針が異なった場合、医局派遣の条件として退職を迫られる可能性すらあります。
これは、大学病院の関連病院となると基本的には専門医の研修指定病院となるため、診療内容等々を関連病院間で統一する必要があるからです。

こうして俯瞰してみると、医局派遣ではない市中病院勤務医として定年まで勤め上げるのは、ほぼ教授になるのに等しい難易度となることが分かります。

実際多くの先生が途中でドロップアウトし、望まない、準備も足りない開業を余儀なくされています。
一方で教授を目指して頑張っていたものの夢破れ市中病院に天下る場合、院長や副院長待遇であることは珍しくありません。それであれば、最初から市中病院の勤務医を目指すのではなく、教授を目指しておいた方が合理的と言えると思います。

5-4. (番外編) 後期研修医


皆さんもご存じだとは思いますが、そもそも厚生労働省は後期研修医という制度を公式に認定していません。
一般的な後期研修制度では、初期研修の後に3年間程度の後期研修期間を継続し、最終的にどこかの専門医育成プログラムに入っていくことになります。

この後期研修医制度の目的は、一言で表現すれば3-6年目医師の給料のダンピングです。

医師としてどの終着点を選択するにしろ、専門医、博士号まではとにかく早く取得するに越したことはありません。後期研修医を選ばない場合、3年目から入局1年目として専門医の研修期間にカウントされます。また、医局員として扱われますので、特にマイナー科では給料が高くなるでしょう。
一方で後期研修を選んだ場合、ローテーションが継続されることから専門医の研修期間には組み込まれないことすらあり、また、何より月に30-50万円前後という極めて安い給与水準が継続します。

この修行とも言える期間の対価に得られるのはモラトリアムの延長だけと思うと、人生の無駄というより他ありません。
それならさっさと入局し、合わないと思った段階で転科した方がはるかに良いです。

改めて書いておきます。

医師とは一つのことを極めんとする職業なのです。

あれもこれも手を出すのはやめておきましょう。代わりに何か一つでも、日本一と自負できる分野を作りましょう。


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