【医学生・研修医向け】君たちはどう生きるか - 誰も教えない医師の進路の話 - 3. 開業医になる

いよいよ具体的な進路に踏み込んでいきます。
皆さんはまずはフラットな目で、自分の希望や夢は横に置いておいて、事実を頭に入れておくのが良いかと思います。
知ってて選ぶことと、知らずに選ぶことは全く違うのです。

3-1. 開業のリスクは考えるより低い

ご両親がすでに開業されている場合は選びやすい道ですが、そうではない人たちにとってはハードルが高く感じる道でもあります。
しかし、そのハードルの高さの想定は誤りであることが多いです。

医師以外の一般の世界で独立開業をするという場合、その9割が失敗すると言われます。このことから独立開業に対するリスクは非常に高いと考えがちですが、きちんと開業する場合、医師の開業は成功率が9割とも言われるほどリスクが低いのです。

もちろん開業のスタイルにも依りますが、ミニマルな開業を選んだ場合は5千万円程度の資金で開業できることも多く、また、併設する調剤薬局やテナントの大家のサ高住からの支援がある可能性もあり、必ずしも全てを自己資金や借入金でまかなう必要もありません。

万が一失敗したとしても、医局を辞めて毎日外来や当直のアルバイトを繰り返せば月に200-300万円程度の収入は確保できるはずですので、手取りで考えても月に50-100万円程度の返済は可能なはずです。そうであれば、10年で返済するとしても5千万円から1億円程度の借金はほとんどリスクにもならないことになります。

では開業の際の最大の懸案項目は何かと考えると、実は開業時の年齢です。
年齢が高ければ高いほど金融機関は融資を渋るようになりますし、借りる際の金利も上昇しがちです。また、現実問題、60歳から30年間の返済を伴う計画は厳しいでしょう。

従って、開業を目指す方は開業時の年齢を重視する必要があります。遅くても40代までには開業できるライフプランを検討すべきです。
時間とお金を無駄にする、特に給与が出ない形での留学はするべきではありません。

3-2. 開業する場合の進路選択 (場所)

まず今後厚生労働省が標榜科について専門医資格の保持を求める可能性が高いため、専門医資格の取得は絶対条件です。従って、専門医資格を取得できる医局への入局が必須です。できればハクを付けるため医学博士号を取得できると良いので、きちんと大学院のある大学への入局が望ましいでしょう。

(もちろん本来博士号はハクを付けるためではありません。科学的、統計学的思考ができる証明であり、まともな臨床医である証明でもあります。博士号を持たない先生は基本的に信用されません。しかし、これは開業医を受診する患者さんたちには分からないことですので、あえてこう書いています。)

ここまでは誰もが考えることですが、本稿ではもう一歩踏み込みます。
開業する際に考えるべきことはいくつかありますが、その中でも重要なのが「場所」と「標榜科」、そして「周辺の医療環境」です。

まず場所について、もちろんその場所に骨を埋める覚悟で開業するわけですが、そこであなたは一生を過ごすことになるともう一度考えてみてください。

顧客となる患者さんはたくさんいる土地でしょうか。診療圏調査を行うまではせずとも、近隣のライバルとなるようなクリニックを偵察し、どの程度流行っているかはチェックしておくべきです。可能であれば、入局前に自分が開業したい場所を「どのビルの何階」というレベルでいくつか候補を持っておいた方がいいでしょう。

また、その地域の年齢別人口構成を参照し、あなたが開業する10年後から20年間の人口構成の変化を見ておくべきです。地方では中核病院ですら統廃合されている現実を見ると、開業医レベルが維持できるとは思えない地域もあります。

その上で、子育てを考えれば恋人や結婚を考えている方は妻の実家に近い場所を選ぶべきですし、その地で子供の教育が可能かどうかも検討する必要があります。万が一のアルバイト先はたくさんある地域でしょうか。幸い今やネットで求人情報があふれていますから、前もって調べておきましょう。

…と考えていくと、開業を選択する方は、多くの場合「妻の実家近くの」「都市部の大学」に入局するのが一番良いのではないでしょうか。

3-3. 開業する場合の進路選択 (標榜科)

先ほど、開業する場合には開業時の年齢が大事であることを述べました。
開業時の年齢に直結するのは専門医資格を取得する年齢ですので、標榜科によって開業できる年齢が変わってくることになります。

例えば一般的な内科や外科といった2階建ての専門医制度となっている科については、最終的な専門医を取得するまでに10年程度かかる可能性があります。また、専門医を取得した後に、その科の専門医取得が前提となる開業に有利な専門医資格を取得することを考えると、更に必要な時間が長くなります。先ほどの開業時の年齢は専門医資格を取得してから5年後程度が多いことから、そこから逆算してください。

また、こうしたローテーションを伴う科では専門医研修中の給与が極めて低いことも考慮すべきです。内科で額面の給与が月に50万円程度、外科で70万円程度であることが多いのではないでしょうか。その中から大学院の学費(国立で年間60万円程度)を捻出し、開業費用を貯蓄する必要があります。

更に女性であれば、専門医研修中はローテーションが義務づけられていることもあり出産や子育てが極めて厳しくなりますので、この点も留意すべきです。

一方で専門医制度が1階建てのマイナー科は狙い目です。
例えば精神科であれば1人前の一つの基準である精神保健指定医はなんと5年目で取得できます。
その他の科も概ね7年目(入局5年目)程度で取得できることが多く、ローテーションもないことからその間の収入も多い傾向にあります(当直料や時間外手当を入れると額面で月に100万円程度となることも珍しくありません)。

また、妊娠のタイミングで大学院に入学させてアルバイトを紹介し、大学院の休学という選択を取らせることで育児休暇としながらもキャリアや収入を途切れないように配慮してくれる医局もありますので、女性であればこの点は留意すべきです。当然夫婦そろって医師というカップルであれば、男性も入局先の大学を考慮する必要があります。

開業を視野に入れた場合、標榜科は自らの興味で選ぶべきではありません。
その地域のライバルの状況や専門医取得を終えて開業に自信がつく年齢、また、自身の今後のライフプランに合わせて選ぶべきです。

医学は幅広いので、例えどの科を選んでも興味のあることの1つくらいは必ず見つかります。くれぐれも、自らの興味を優先しすぎないようにしてください。

例外は「~~科になりたいから医学部に入学した」という熱い思いを持っている人です。こうした人は後悔しないためにも当初の科に入るべきですが、逆に言えば、それ以外の人たちは自分のライバルがそういう熱い思いを持った人たちである可能性を考慮しましょう。果たして自分の興味は、そうした人たちに勝てるほど強いでしょうか。 


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