見出し画像

英南西部の’お母さん’のスコーン

こんにちは。
前回は北欧で出会った「シナモンロール」の形を記事にしました。
今回はオクスフォード留学時代の指導教授夫人に習った「スコーン」とクリームティについて投稿したいと思います。

週末にロンドンから先生のお孫さま方が訪問されると、午後の散歩の後に焼きたてのスコーンが、チーズやハムのサンドイッチとともに、熱いお茶の横に並んだものでした。最初の2回ほどはお招きいただいたのですが、その後は奥様とキッチンに残ってお茶の用意をお手伝いすることもよくありました。奥様は幼少期を南西部コーンウォールで暮らした経験があり、伝統的なコーニッシュパスティはじめ、甘いお菓子、具入りのパイ(いわゆるサレ)つくりの名人として、先生が指導する学生や同僚方をご自宅にお招きになるからでしょう、オクスフォードの交際の中では知られていました。

前日に先生からご招待を受けた際に、今度はお手伝いをと最初に申し出たときのことをよく思い出します。先生は、ぱっと笑顔で「ナン(奥様の愛称)に話しておくよ」と仰いました。・・が笑顔でウィンクされた瞳になぜか悪戯っぽい表情が一抹浮かびました。・・後々知ったことですが、留学生、とくに日本人を分け隔てなく指導されてきた先生宅でスコーンつくりを習いたいと申し出た学生、(社会人の場合は)その夫人が多くいらしたそうです。しかし、スコーンつくりのコツはなかなか難しかったようです。きっと私も実験第〇号だったのでしょうね。

秘伝のコツは、ずばり「いい塩梅」。
この記事の最後にはレシピ(配合)を日本向けのg単位で記載しますが、ホームメードの場合、小麦粉(BP入りのセルフライズ)などはカップで鷹揚に計られることが多かったと記憶しています。実際、大きなオーブンの鉄板2枚分、大量に作り、大量に消費される!のですから。
よく焼けたスコーンの特徴である、いわゆる「狼の口」(中段にぱっくりとできる腹割れ)や、ザクザクしっとりの食感も、(パイのように多層に折り込むことではなくー仕上がりが薄い段々の層になるため私には好みではありませんー)、打ち粉の上にひと息に手のひらで軽く伸して、サクッと型抜きする作業の成果でした。

スコーンの試験は「合格!」を頂きました。
バターと粉を擦り合わせる(サブラージュ)の工程が鍵のようで、「あなたの手を見せて」と問われました。指に生地が粘りつかないことが、スコーンつくりの極意であるかのようでした。
それからは、外国から大切なお客様があるときにお相伴に招かれて、「このスコーンは日本製だ、エレガントだろう?」とまたウィンク。こうして先生の客間で研究者と引き合わせてくださいました。英国流儀であったのだと今になってご配慮に感謝するばかりです。

留学から戻って20年を経ようとしています。
沢山の幸せな思い出の中で、「スコーン」が最初に浮かびます。霜の残る河辺の散歩、ドアを開けたときの焼きたての香り、熱々のお茶に溶けるミルク。
忘れられない、忘れたくない思い出に、ときたまにスコーンを作ってみます。が、生地に押しつけられた奥様の掌の形、毎回積み上げたスコーンの頂上にさっと一番に伸びる先生の手、「最後のひとつは誰?」にクレイムするお孫さまたちの手。そして「スコーンメーカーの手」と言われて、キッチンの午後の陽にかざされた若かった私の手。懐かしいばかりです。
思い出話になりました。では、喫茶去。

【レシピ】 * この分量で8個できます。
薄力粉         200g  
ベーキングパウダー     8g
砂糖           15g(最小限。好みで増量は可)
有塩バター(その他油脂) 50g
(無塩バターやオイル使用の場合は塩ひとつまみ)
牛乳           50cc
鶏卵            1個

(分量外:つや出しの牛乳)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?