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特許重要判例を読もう!(6)血清PCRの簡易迅速定量法事件

東京高等裁判所平成12年2月1日

1.意義

出願経過参酌について判示された。

2.事件概要

本件は、原告が、被告らによる商品の製造販売が原告の有する特許権を侵害(間接侵害)すると主張して、被告らに対して差止請求権の存在確認及び損害賠償を求めた事案である。特許請求の範囲は下記通り

検体血清と抗血清使用液との混合液である被験液Tと、検体血清と検体ブランク緩衝液との混合液である検体ブランク液SBと、生理食塩液と抗血清使用液との混合液である試薬ブランク液RBと、生理食塩液と検体ブランク緩衝液との混合液である緩衝液ブランク液BBとを調製し、これらをそれぞれインキュべートしてプラトーに達せしめた後に、それぞれの液の吸光度(At,Asb,Arb及びAbb)を測定し、CRPによる検体血清の吸光度(Acrp)を式
 Acrp=At-Asb-(Arb-Abb)
として算定し、一方上記と同様に、但し検体血清の代わりに各種濃度のCRP標準液を用いて吸光度―CRP値の関係を示す検量線を予め作成しておき、上記の算定吸光度値に該当するCRP値を上記の検量線から求めることを特徴とする、免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法。

3.判決趣旨

この特許の審査の過程で、(拒絶理由通知や拒絶査定)において本件発明の基本原理であるブランク補正及び免疫比濁法に係る先行技術を示されたため、本件発明が公知のブランク補正及び免疫比濁法に係る先行技術そのものとは異なることを強調し、その特許請求の範囲に記載された具体的な工程で血清CRPを定量するという特定の方法に係る発明としたものである。したがって、本件発明は、補正後の特許請求の範囲に記載された右特定の方法自体を必須の構成、すなわち、本質的特徴とするものであり、原告主張のように、補正前の特許請求の範囲に記載されたような、特定の組成を有する混合液四液を調製し、インキュベートし、それぞれの吸光度を測定したうえ、所定式に代入して免疫比濁法により血清CRPを簡易迅速に定量するという、一般的な形で示される方法を本質的特徴とするものではないことが明らかである。

ちょっとわかりづらいですが、拒絶理由通知と拒絶査定後の不服審判請求などにおいて、特許権者は従来技術と違うと主張し、更に請求の範囲を減縮しながら登録になっています。
それに対して裁判所は、補正前のクレームに書かれたような範囲ではないとしています。

4.検討

判決がよく分からない!細かい技術的な議論に終始していて、そこから規範を読み取るのが難しい!ので、ここは教科書や100選を参考にします。

出願経過参酌は特許に明文がない!でも、裁判ではこの法理は広く使われています。出願経過参酌が使われる場面は、下記2つのパターンがあります。

①クレーム解釈
②禁反言適用の基礎

何が違うかというと①のパターンはクレームの文言が不明確なものを明確にすることが目的で使用され、基本的にクレームの文言の範囲を超えないのに対して、②はクレームの記載を超えて技術的範囲を限定することにあります。

②において、3つの要件があります。

1.異議手続きでの答弁が新規性・進歩性欠如回避のものであったこと
2.同答弁が容認され特許権があたえられたこと
3.出願人が同答弁の中で本件発明とは別の技術であると主張した技術であること

3つそろえば典型例であり、2つしか当てはまらないときは争いがある状態です。

禁反言は使う機会が多いと思いますので、しっかりと理解したい部分です。

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