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特許重要判例を読もう!(4)プラバスタチンナトリウム事件

最高裁判所第二小法廷平成27年6月5日 

1.意義

プロダクトバイプロセスクレームの技術的範囲を判示した事件。

2.事件概要

端的にいってしまうとXが特許権に基づきYの販売等の差止めを求めた事件です。Xの特許権における請求項がPBP記載であったことから、その権利範囲がどこまで及ぶのかが争いになりました。実際の請求項1は下記の通りです。

【請求項1】
次の段階:
a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し、
b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し、
c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し、
d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え、そして
e)プラバスタチンナトリウム単離すること、
を含んで成る方法によって製造される、プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり、エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。

3.判決趣旨

物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,その特許発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である。

つまり、請求項に書かれた製造方法に限定されないということになります。但し、無制限に何でもよいと言訳ではなく、構造や特性が違うものであれば、同一とは言えないということになります。

4.検討

(1)プロダクト・バイ・プロセスとは?
請求項の記載が「Aの製造方法で作られるB」というような、書かれ方をした特許になります。
Bは物なので、物の特許になります。

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(2)PBPクレームで生まれる問題
そんな時に生まれる弊害として権利の範囲がどこまでになるのか?といった問題です。学説としては2つありました。

 (製法限定説)その製造方法を使用して作られた場合のみ権利範囲に入る
 (物同一説)その製造方法は関係なく、結果が同じものであればよい

今回、物同一説であることがはっきりしたということになります。

※百選を読んでいたら、認定の場面として技術的範囲の確定と発明の要旨認定の2つの場面があるがどちらも物同一説を採用したとありました。同じクレームでも場面によって解釈を使い分ける二枚舌みたいなことしてたんですかね。ちょっと疑問です。

あと原審で真正PBPクレームと不真正PBPクレームという考え方を示していたんですが、それについては機会があれば追記します。今は亡き概念です。

(3)物同一説を採用した理由
今回の判断としては、物の特許なので、製造方法は関係ないと言っています。

特許が物の発明についてされている場合には,その特許権の効力は,当該物と構造,特性等が同一である物であれば,その製造方法にかかわらず及ぶこととなる。

この部分、なんとなく言いたいことは分かるのですが、はっきりしません。物の特許であることは明確なので、製法限定説にしてしまうと物の生産方法の特許と同じになってしまうということで、区別をしたかったということだと思うのですが、そこまで言及されていません。

この判決は調査官解説が出てるそうなので確認してみると、PBPクレームの本来の目的は、「その物の作り方は分かっているけれど、正確に表現できない」といったような発明において、それを「物の発明」として保護することが目的なんだそうです。

一方、「製法限定説」を採用してしまうと「物の生産方法」の発明と同じになってしまうので、区別をしたかったということのようです。


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