見出し画像

飛び込んだその場所で、居場所を見つける

「ね、リコちゃん、めっちゃうまくなったよね」
先輩のNさんがMさんと話しているのが聞こえた。
「え?私のことですか?」と思わず、前のめりになる。
「そう!めっちゃうまくなったと思って。努力する人にはちゃんと結果がついてくるのね~。」



フラダンスを習っている。
ずっと淡い憧れがあったのだが、「私には無理かな」と思って諦めていた。

フラをやっている人の私のイメージはこうだった。

明るくて、ポジティブで、誰とでも仲良くできて毎日をハッピーに過ごしていて、朗らかで大らかで、笑顔溢れる人

フラをやっている人のイメージ

一方で私は真逆に近い性格だったので、「いや、無理だな」と思っていたのだ。
加えて、私は今まで踊りなんかやったことないし、そもそも身体が動くのか…という問題もあった。

それでも、「一度の人生、やりたいことやってみよう」と思い切って体験レッスンに申し込みをしたのが、3年前のこと。


教室に入ると、私と同じくらいの年代の女性が5人ほどいた。
先生は「みなさん同じくらいの年代だし、ママばかりだし、すぐになじむわよ」と、にっこり笑顔。

「いや、私には無理そう」というのが本音だった。
みんなどことなくオシャレに見えるし、どことなく明るい感じに見える。
ひとりの生徒さんから「体験の方?よろしくね。」とニコっと笑いかけられたものの、ぎこちない笑顔でしか返せない私。
場違いじゃないか。

それでも、「せっかくここまできたのだから」と体験をさせてもらい、「向いてなければ辞めればいいんだ」と、教室に入会することにした。


教室に通うようになっても、私は他の生徒さんとはなかなかお話しできなかった。
みんなはにこやかに談笑しているのだが、その輪に入れない私。
上級クラスにも所属しているMさんだけが、気を使って私に声をかけてくれたので、少しお話しする程度。

そしてレッスンは想像していたより厳しかった。
腰が動かないのだ。
動かすと肩が上がるが、「肩はあげちゃダメ」と言われる。
音楽にうまくのれない。足と手を一緒に動かすと、頭が混乱する。
先生に言われたことを必死でノートにメモした。

次のレッスンまで、毎日のように練習した。
といっても、仕事があるので、私の練習場は主に職場。
誰もいないトイレで鏡を見ながら練習していた。


半年、1年と経つと、少しずつ他の生徒さんたちとも話せるようになっていた。
"オシャレで輝いている人たち、近寄りがたい!"と思っていたが、話してみると、「フラって難しいよね、でも頑張ろうね」と、同じ気持ちでレッスンに通っていることがわかり、"仲間”と思えるようになったのだ。


初めて舞台用衣装を着て、メイクをして踊った日は忘れられない。
「みんなで踊るってこんなに楽しいんだ」
心からそう思えた。

それからは、自分の踊りの下手っぷりに嫌気がさすものの、「でも、みんながいるから。みんなと一緒に踊りたいな」と思って続けてきた。

2年目になるころには、先生から「そろそろ上のクラスにあがってもいいんじゃないかな」と声をかけてもらえた。
一度は断ったのだけど、先生の言葉と、一緒にやってきた他のメンバーも上のクラスに上がるということで、「じゃあ」と上のクラスにあがることにした。

リコちゃんのフラをはじめから見てきて、努力する子だなぁと感じていました。努力する方向も間違ってないから、確実に上達しています。

普段あまり褒めてくれない先生がくれた言葉


上のクラスにあがって1年が過ぎた。ちょうど今年の秋ごろのこと。
学校に行けない息子のことで心身ともにクタクタで、フラの練習どころではなく、「もう、辞めたほうがいいかもしれない」と思っていた。

そんな時に冒頭の、先輩メンバーからの「リコちゃんうまくなった」発言を聞いてしまったのだ。

先生に褒められるのも嬉しいが、メンバーに褒められるのもまた格別に嬉しい。一緒に頑張ってきた人が、ずっと私を見てくれてたんだなぁと、心が熱くなった。

その日は本当は、「練習あまりできてないなぁ」と思っていたけれど、過去の私の頑張りがあったから、「うまくなった」って言われたのかもしれない。
「ここで辞めるのはもったいないんじゃない?」って誰かから言われたような気がした。

「無理かもしれない」と思っていた過去の私。
それでも、自分で選んでこの場所に飛び込んで、自分なりに頑張ってきた。
だから、ここに私の居場所ができたんだ。

みんなでフラを踊って、たくさん笑って。
「あぁ、この場所を、この時間を大切にしたいな」そう思った。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?