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夏の早朝に魔法をかける

夏の早朝

まだ朝という文句は似ても似つかないような暗闇の中で、信号機の青に頬を照らされたあなたの表情は何を思っているのか全くわからない。
露わになった肢体と申し訳ばかりに掛けられたタオルケットは少しばかりの湿りを帯びて、上る呼吸か蒸気かは努めて冷静さを取り戻そうと躍起になっている。

お互いが何を求めているのかなどは、
それはもう聞く必要もなかった事であり、これからもきっと話す事はないだろう。
いつまでもは続かない関係や繋がりが、そこら辺に落ちている石ころや嫉妬と、何が違うのかなんて誰も説明できないからだ。

だからこうして、
私は椅子に腰掛け煙草吸う。
あなたはベッドから立ち上がらず呆然となのか悠然となのか、理解はできないが前を見る。

明日にはいなくなるかもしれない
明後日には他の誰かの元にいるかもしれない
1年後もずっとこうして曖昧なのかもしれない

そうか
考えるまでもなくそうだ

そしては私は火を消した。
突然着火した気持ちの昂りとは逆に。
徐に唇を奪った。
あの時の夜と同じように。
あなたは少し押し返す手をすぐに緩めた。
あなたは少しだけ強く重なる唇に噛み付いた。

結婚してくれない?

なんで?

離れるのが惜しいから。選択肢があるとすれば最後まで残ったのがお前だから。1年後も同じような関係は嫌だから。

なんで今?

いつも見ていた今のお前の横顔が綺麗だったから。見惚れてたようなもんだから。

別れない自信ある?

ない。でも言う覚悟はできた。自信なんてつくのかも分からないけど、それでも今言わなきゃならんと思った。

冷静さを取り戻したあなたはまるで早朝に合わせるように静かな涙を流しながら呟いた。

変化は怖いよ。君だって私だって変わらないことなんて無くて、いつか捨てたくなるかも。それでもいいの?一刻の感情だと忘れられはしない?

変化は怖い。それでも求めたくなった。どれだけ怖い思いをしても、大事に積み上げたものを壊しても、欲しくなった。
一生一刻の感情で進むと思う。その一刻が1番に大事な思いかもしれない。それはそれで俺はいいと思う。

あなたはそう聞くと、呆れたように笑ってみては、面白そうに頬を歪めて呟いた。

ばーか。煙草辞めろって言ってるじゃん。
いつかキスさえも鬱陶しがるよ。

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