怪獣映画

「おまっ、シンゴジラ観てないの!?」
 7月の帰り道、英樹は大声で叫んだ。その声量の上昇速度はあまりにも急激で、俺は思わず耳を塞いだ。
「うるせえなあ。だって公開されたのたしか5年くらい前だろ。俺が小6とかのときじゃん。興味なかった」
「いやいや、年齢とか関係ないって。シンゴジラ観てないとか人生半分損してるぞ」
「でた。「人生半分損してる」ってやつ。そう言うのが全部本当なら、俺は人生10個分くらい損してることになるわ」
「なんでもいいからとにかく観ろって。今からうち来て上映会するか??」
「今からお前んちに行って映画一本観たら、家で飯が食えなくなるわ」
 誘いをすげなく断れて、英樹は大げさに肩を落として見せた。

「お前ってそんなにシンゴジラ好きだったの?」
「おう。言ったことなかったっけ。親父が特撮もゴジラシリーズも好きでな。家にはDVD、フィギュア、資料集とかいろいろあるぞ。実はホームシアターもあったりする。」
 胸を張りながらそう言う英樹は子どもみたいで、俺は吹き出してしまいそうになるのをこらえるために言葉を繋いだ。
「へえ、そんだけいい設備あるなら、一回観てみたい気もしてくるな」
 夕日が映り込む英樹の瞳孔が見てわかるほど大きく開き、半袖の制服から覗く両腕を振り回しながらまくし立てた。
「マジで!?ウチくる!?いいよいいよ、シンゴジ観に来るなら親父も大歓迎だと思うぜ」
「まあ、そのうちな」
「いつ来る??放課後はお前部活忙しかったよな。土日にしとくか。1日来るならシンだけじゃなくて過去作も見る時間もあるだろうし……あ!次の日曜は?予定空いてる?」
「人の話を聞け……そのうちって言っただろ。
 いやまあ、日曜空いてるけど。」
「ならいいだろ。シンゴジ見るなら早い方がいいって」
「なんなんだよお前のその熱量は……」
「布教は信徒の義務だからな」
 西日よりも暑苦しい英樹のテンションにむせ返りながら、俺はスマホのカレンダーに予定を書き込んだ。

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