見出し画像

【漸進という魔術】清水エスパルスとヤン・ヨンソン監督のあゆみ(2)



画像は清水エスパルス公式サイトから


承前


清水エスパルスの2018シーズン振り返り記事第二回です。

天皇杯も終わってすっかりオフシーズンめいてきましたね。わりと大胆な放出に戦慄しております。その話は来るべき時が来たらということでまずは粛々とふりかえろう。感謝と共に。



目次
(1)2018シーズンを数字で振り返る 
(2)前半戦感想まとめ ★今回はココの話です
2-1.早々に固まったゲームモデルとメンバー
2-2.浮上するいくつかの課題

(3)後半戦感想まとめ
★(2)公開後にアンロックされます
3-1.***
3-2.***
3-3.*** 
(4) ***
★(3)公開後にアンロックされます。



(2)前半戦感想まとめ

ということで早速始めていきますシーズンの振り返りまずは前半戦です。

まず簡単に成績を振り返ると、開幕リーグ4試合+ルヴァン杯3試合を4勝2分1敗と好スタートを切りますが、W杯開催のため3/31から5/20にかけて週2という怒濤の連戦日程に入るとリーグ戦3連敗を含む6戦勝ち無しと出だしで綺麗につまずきます。そのまま15連戦をリーグ戦3勝1分7敗、ルヴァン杯予選敗退(3勝1分2敗で3位)という結果に。苦しい前半戦になってしまいました。



2-1.早々に固まったゲームモデルとメンバー

①ヤン・ヨンソン監督の志向や特徴に関して

ヤン・ヨンソン監督の指導キャリアはJリーグ創成期スチュワート・バクスター監督の右腕として広島にやってきた頃に遡りますが、北欧諸国のトッププロを率いてきたこと、近年は強化部的な要職に就いていたことなどwikipedia情報しか知らないというところが正直なところで、どんなサッカーをするのかというところは昨年のサンフレッチェ広島と今年の清水エスパルスでの仕事しか見ておりません。したがって、「これがヤン監督のすべてや」とは決して言えないのですが、とりあえず1年と半分の試合と各種媒体のインタビューを読んでみて「こうかもな?」と判断したところを記していきます。逆に近くで見てこられた清水サポーターのみなさんに教わりたいというスタンスです。



ヤン・ヨンソン監督のサッカーのキーワードを挙げるとすると「効率」と言えるでしょうか。どの試合を見ても感じるのは「サッカーは敵陣でするもの」という一種依怙地とも言えるほどの強い決意で、

・ゴールを決めたほうが勝つ
・ゴールは相手が無防備な時に決まる
・相手が無防備なのは自陣でボールを奪われた時
・じゃけん敵陣で奪いましょうね

というものでした。これはリトリートバス停車とDFの常識外の足元スキルに依存したロングカウンターに味を占め硬直化してしまった昨季のサンフレッチェ広島でも断行され(クソミソに負けてきた鹿島や川崎相手に前半30分だけでも圧倒したのはちょっと脳汁が止まりませんでした。ガス切れで惨敗したけども。)、不器用ながらも徐々に前プレがハマる姿が観測されていましたので、監督の哲学だと思われます。

どっぷり3バック構成で指揮を執った広島と異なりSBの戦力はありましたし、もともとハイプレス志向の強いチームで、年齢層が若めでスプリントを繰り返してもへこたれない体力と野心のある選手が多い構成の清水エスパルスはかなり相性が良かったのだと思われます。

とはいえ、前に出る分高いラインを保ちながら相手FWと数的同数となる時間が長くなるというスリリングな負担があり、その構造の無茶っぷりのせいかチームにやや厚みが欠けていたという面も見逃せないでしょう。

GK六反勇治、DFが右から立田悠悟、ファンソッコ、フレイレ、松原后、ボランチが竹内涼と河井陽介、サイドハーフが金子翔太と石毛秀樹、そして北川航也、クリスランの2トップ。という開幕戦のメンバー・布陣からの変更は限定的でした。もちろん初年度で戦術の浸透がまだまだであったということがあると思いますが、特にDFラインに関しては既存戦力との噛み合わせがあまりうまくいかなかったのではないかと推察される内容でした。

それでもチームに軋轢があるどころか、むしろ団結力が強まっていったのは不遇をかこっているはずの選手たちの大いなる貢献のはずであり、ありがたいことです。監督が信頼されてるなと思えて嬉しかったです。

布陣に関してはスタートは4-4-2で一貫したものの、試合中の3-4-2-1や3-1-4-2、4-1-4-1への変更は頻繁に見られています。試合後コメントを見る限りはいずれも「攻撃の核となる選手を前線に押し上げたい」という想いであったようで、敵陣にボールを留める志向を一貫させたかったのだと思われます。なお、布陣変更に関してはハッキリと成果に現れるのは後半戦を待つことになります。



②清水エスパルスの特長について


さて、チームの方に目を移すと、今季の清水エスパルスは開幕から出場選手の持ち味と志向が噛み合った内容を見せていました。まずはその良かった部分を記していきます。


・ハイプレスとショートカウンター


真っ先に挙げられる特長は2トップが合図となる強力な敵陣でのプレッシングと奪ったあとの縦への推進力。

北川、石毛、金子の生命力みなぎるアプローチにクリスランのモヒカンルックスに似合わぬ(笑)実直なプレッシャーと返す刀の高速攻撃が開幕序盤のインパクトとなりました。自分がクリスランのプレッシングに直面したら多分恐怖のあまり脱糞します。超怖い。



特に試合の序盤は敵陣で前向きにボールを奪い、そのまま突撃するというシーンを繰り返し作ることができていました。チームとしての闘い方をハッキリと意志統一させることができていたいうことでしょう。カウンターでもポゼッション攻撃でもコンビネーションによる電光石火の中央突破を第一として次善の策としてオーバーラップするSBを使います。このスタイルは今季一貫して表現されることになります。



・キーマンとなった松原后と金子翔太


これらのスタイルをけん引したキーマンとして左SBの松原后と右ウイングの金子翔太を挙げます。

松原后はスプリントとクロスを武器に前半戦の攻撃パターンのほとんど全てを担いました。カウンターで真っ先に駆け上がることでこのハイプレス+ショートカウンターサッカーのメインキャストとなっただけでなく、プレスを受けると基本的にバックパスして六反がポイしていた(六反が一番ロングパスうまいんだからしょうがない)ボール保持の局面において数少ない前進の形が松原を通したボランチへの折り返しや縦のコンビネーションでした。

ボール奪取で傑出したデュエリストぶりを見せた金子翔太は4-2-2-2で絞る攻撃の遊軍としても猛威を振るいました。ショートカウンターの急先鋒や詰まった展開でのドリブル突貫など、斬り込み隊長役として欠かせない選手となり、その役目をシーズン通して果たしてくれました。全試合出場が初めてだそうで驚いています。

フィニッシャーとしても抜群で、前半戦だけで6得点3アシストを挙げる活躍を見せています。類似選手がほぼほぼFWで笑ってしまいました。興梠と似たスタッツなのか(困惑)ほぼ挙動が3トップだったもんな。和製グリーズマンだとたまに言うのですが適当ですし流行る気配はしません。

有難いことに金子のプレー動画を作っていた方がいたので貼りますが、松原のオーバーラップ→左の数的優位→クロスに金子のフィニッシュ、という定型が死ぬほどわかりやすいですね…w





2-2.浮上するいくつかの課題


開幕から特徴のはっきりしたサッカーが出来て迷いなくやれていた、とはいえ、先述した通り15連戦で大きく星を落としつまずいてしまいました。その要因となった出来事をいくつか取り上げます。



①限定的な連動性と噛み合わせ問題

まず「清水のサッカー」自体の持続可能性という問題がありました。特に組織的なプレッシングは2トップの身体の向きが一歩、いや、半歩間違えると空いたコースを刺されてしまいますし、後ろの押し上げも同様に少しでも遅れると2トップが犬死にしてしまいキツイくさびのパスを追いかけまわす羽目になります。

ボランチの両名はCB-SB間のカバーに駆り出され、じゃあそのボランチが空ける中央はどうするの?という問題が持続可能性のネックとなり続けました。もっと走るんだよ!かSHが気合のカバーをするかになり、ミッチェル・デュークは特にこの"6人目のDF"として貴重な貢献をしてくれましたが、過労で前に出ていかれぬから…となるので、前にどちゃくそ殺到するか後ろにどちゃくそ殺到するかの両極端となる試合が少なくありませんでした。

また、時間や局面だけでなく選手間でも”ムラ”があり、また、対戦相手の戦形によってもその”ムラ”が目立ちやすくなるということが起こりました。試合途中の布陣変更が多かった理由はこれでしょう。


・限定的な連動性について

まずはプレス続かない問題。これは首尾よく先行した時にはカウンターで黙らせればよろしいとクロースアップされにくかったものの、W杯までのリーグ戦で無失点の試合は開幕戦とダービーの磐田戦のみにとどまっています。いずれもモチベーションが最強の試合であり、逆にそこまでのテンションがないとやりきれない難儀な武器でした。5バックでなんとかごまかそうか!をやったら逆に追いつめられて頭を抱えたりしましたね…w



ではどうなったのかというと、首尾よく先行した場合は仁義なき打ち合いに持っていけたものの、タイスコアの難しい試合展開になると先に折れてしまう、という事態になってしまいました。



これは今季最も悔しかった失点の一つ。この試合で一皮むけると思ってた…w



・噛み合わせ問題について

特に難しかったのが、3バックによるビルドアップを志向するチームに対するプレスで、年間のハイプレス指標の変動を見ると前半で非常にジグザグしているのはおそらくこれのせいなのでしょう…w 開幕したてで固まっていなかった札幌、下位に低迷して歯車が回らなかった名古屋を除けば、最もボールを持てないチームの仲間である長崎にも華麗にボールを持たれ、崩されています。

特にひとりボール奪取力が突出していた金子は、このプレスの連動性という意味では味方を裏切るタイミングになることが多く、それが意図せぬカウンターチャンスを生み出すこともありましたが、こちらの意図せぬ大ピンチの糸口となることも。これは好調時にも同じだったので、もしかしたら許容してたのかもしれませんし、周りが金子に続かんかいという基準だったのかもしれません。外から見る分には結構なクレイジージャーニー単独行でした…w




これは今季最もやられたなと思った失点の一つですね。ベストを絞り切れないのは川崎フロンターレにウイニングイレブンかよというくらいにメタクソに崩されたからです。W杯前最後の試合の惨敗は前半戦のネガティブの象徴と言ってよいでしょうか。

来季はせめて五分の試合はやりたいものです…



鳥栖の4-3-1-2にもボロボロだったのは結構な衝撃でした。不運な判定で先行されたとはいえ中盤ダイヤモンドのマークが全く整理されず圧倒されていましたので。



②中央渋滞と被カウンター

また、他のチームの成熟度合いも増してくると、清水の「電撃突破の成功率の低さ」と「融通の効かなさ」が狙われる試合が増えていくこととなります。



このシーンなどが良くわかりますが、2トップも2シャドウも集まり停止してしまうために"渋滞"が起こり、折角のシュートチャンスでもコースが皆無、もしくは非常に難易度が高くなりDFに引っ掛けることが頻発していました。奪うまでは良かったんだけどね、奪うまではね…

また、中央集結+コンビネーションは最終ラインでボールを持っている時にも一貫して狙うのですが、そのための肝心のパスを届ける選手と受ける選手のポジション取り、その上手くいくポジション取りを作るための時間を生み出す最終ラインのパス技術が大きく不足していました。フレイレがコンバートされる理由の一つだったのかな?と思うのですが、フレイレからうまく出せたというシーンはあまり出せなかったように思います。チャレンジそのものはありましたが。(だから来季ここに磨きをかけるのかな?と期待していたのですが、まさかの契約満了でびっくりしています。どうしたんでしょう)

松原から斜めにボランチにつけるのが最も有力でしたが、そこで両ボランチが受けたとしても中央渋滞でコースがなく苦しい。支配率が高いとだめだねというのは相手の守備を活性化させるような遅いステーションパスがほとんどになってしまうことに由来するでしょう。だんだんと立田にボールが誘導され、金子が頓智を利かせるかどうかという辛い状態になっていました。

そうなると、自分たちの得意としている武器に殴られることとなります。これはいかんぞとSBやボランチが上がってもそもそもボールを動かせないので割に合わない賭けとなってしまいました。負の連鎖…



こんなのとか



こんなのですね。今でも血の涙が出る…w



③湘北の不安要素ばりの選手層の薄さ

監督についての記述と重なってしまいますが、ここで触れなければならないのが選手層の問題でしょう。

負傷離脱や累積警告を除くとほとんど開幕戦のメンバーで固定されることになりました。立田の右SBはキャンプ中の負傷者続出による繰り上げだったようですが、わりと4バックだけで守らないといけない場面に晒されることの多くなるハイテンションなサッカーのためか、結果的には上背を利する4バックをシーズンを通して採用しました。 加入時はMFだったと思うのですが、フレイレのコンバートも良い意味で驚き。

とはいえ、上記不動の11人ですら先ほどの二点が怪しかったところにさらに連戦でのコンディション不良や累積警告、代表選出などによる入れ替わりが起こると...むべなるかな…

ルヴァン杯やTMのメンバーを見るところですと兵働や増田といったボランチの大御所がCBやSBだったりしているので、求める選手像を満たしうる選手の頭数が足りなかったということなのでしょうか。在籍人数自体は足りてたと思いますが...…このあたりは練習場に通えない人間が言えることは少ないので、ぼんやりとした言及に留めます。有力視されていた選手たちも折悪く負傷に苦しんでいたようだとは言えそうですが…

視点を変えると、そうした苦境を跳ね返すある種理不尽な瞬間最大風速...一人でなんとかしちゃうFWであったり、セットプレーの一瞬の隙をつくキッカーであったり...というものが出せなかったとも捉えられます。瞬間最大風速といえばうちにはショートカウンターがあるのですが、決めきれず涙を呑んだ試合も少なからずありました。まあ、この”風"は後半戦に吹き荒れたわけですが。



ーーーーーーーーーーーーー



これらの課題については未曾有の連戦で不動の選手たちが磨耗してしまい修正もままならなかったという状況が事態をより難しくさせた部分はあるでしょう。

休みをたっぷりとる代表week明けには結構さくっと勝てていますが連戦になると途端にアカンという分かりやすいところがありましたし笑 ただ日程条件はどこも同じなので、詮無いことです。

そして、ある程度日程に余裕の出てくる後半戦には一定の解答が得られることとなります。ドウグラスだけやないんや…51%くらいはドウグラスだけど…

というわけで今回はここまでです。次回は後半戦を振り返ります。こっちは楽しい話がほとんどなので気が楽だ…w


次回予告です。

(3)後半戦感想まとめ
3-1.失速問題とドウグラス
3-2.渋滞問題と白崎凌兵
3-3.北川航也と正のスパイラル


それでは、また来週。

この記事が参加している募集

#とは

57,996件