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春をまつ

 少し前からジャンプをする人が視界の端に現れるようになりました。ジャンプといっても、ラジオ体操の中の跳躍みたいなジャンプではなくて、戦隊ヒーローが登場するときに勢いをつけて跳ねるのを繰り返すような、病的に見えるようなジャンプです。
 病院の先生からは幻視と言われていて、たしかに目を動かしてその人にピントを合わせようとするといなくなったり、また目の端に移動します。幻視はもう1つあって、壁に何か黒い物が這うのを見ること。となりのトトロのメイちゃんが引っ越したてに屋根裏で見た、まっくろくろすけのような感じです。朝起きる時、夜寝る時、お風呂に入っている時。壁をザワザワとゆっくりと這う彼らによく驚いてしまいます。
 ジャンプする人、思い出すととってもおもしろい光景だよな、としみじみ思うことがよくあって、あの人の名前をいくつか考えてみました。トビオ、地上の鳥人間、サイレントビックジャンプマン...我ながら幻視に名前をつけるユニークさをほめちぎりたくなります。

 そんな風に日々を過ごしていると、少し前に地震がありました。震度3くらいの地震で、家に被害はありませんでした。しかしその頃から私の体の中では地震を繰り返していて、急に揺れ始めて何かにつかまったり、うずくまらなくては揺れをやり過ごせなくなることがあります。しかし、私だけが揺れているので、周りから見たら変な行動を取っているように見えるでしょう。人前では絶対に起こってほしくないと思うのですが、この間スーパーで起こってしまいました。
 地震が本当に起こったと思って、「うわあ!」と言って、冷凍食品のケースにつかまって揺れをやり過ごしている私を見て近くにいた人たちは驚いていました。周りから見ると変な風に、不気味に見えているのだろうなと思うと、スーパーやコンビニに行くのも嫌になりそうでした。

 でも今は気にせず、とことん不気味に、人々の日常の違和感になってやろうと思うのです。
 もうすぐ春が来ます。この調子がずっと続くことはないと信じているし、新しい季節が来れば、気持ちの持ちようも変わってくるんではないかと思うのです。

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