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日本料理の真髄を徳島に見る

「徳島の食材は日本一優れている」

この言葉を聞いて、僕の徳島への旅は始まりました。

一体何が良質な徳島の食材を生み出しているのか、気候、地形、気象条件。
この目で確認せずにはいられませんでした。

徳島にゆかりのある人に問えば、みな一様に徳島にそんな魅力があるとは思わなかったと答えます。
徳島にはスダチなど名産品はあるものの、ピカイチな特産品はありません。
満遍なく、山の幸も海の幸も取れる。
だからこそ何の特徴もないかのように思われるのです。

淡路島経由で大鳴門橋を(やむなく)ヒッチハイクで渡り、阿波市の平野部にある農園で滞在しながら徳島の大地や作物、歴史、変わりゆく現在を肌で感じてきました。

四国4県にまたがる吉野川は四国三郎の異名を持つほどの暴れ川で、日本3大暴れ川の一つ。流域面積は四国の河川面積の2割を占めます。
この吉野川が下流で広大な徳島平野や肥沃な大地を作り出し、あらゆる作物の栽培を可能にしました。
徳島の食材は全国各地へ伝わって栽培されるようになり、全国の名産品の源流となったのです。

肥沃な大地によって作られた土が川に流れ込むと、海も肥沃になります。
徳島沖は特異な地形により、海流がぶつかり合い、多様な生態系が生まれます。
あらゆる魚介類の産地となる稀有な場所となるのです。

徳島の日本料理の名店「青柳」の3代目当主・小山裕久氏は著書『日本料理真髄』の中で「包丁で切ることは、料理そのもの」と綴っています。
今から30年ほど前において、徳島の食材に可能な限り手を加えず、見事なプレゼンテーションで世界中の人々を魅了させ、国際的に日本料理のイメージを変えたと言われています。

2007年以降に刊行された『ミシュランガイド東京』では「青柳」出身の料理人が名を連ねることになります。青柳で修行を積んだ料理人がオーナーの「かんだ」に至っては10年以上にわたって三ツ星日本料理店に輝いています。
こうして徳島の日本料理が世界に誇る和食を作り出したのです。
京料理は徳島の日本料理に京都のフィルターをかけているにすぎません。

「青柳」ではほぼ100%の食材が徳島産です。
その土地で取れる食材で構成され、それを食べるために遠くからやってくる元祖の店でもあります。
徳島では、あらゆる食材が産出可能な土壌が存在したことに加え、それを脚色なく、素材を引き出す料理人の卓越した感性によって日本料理は作られていったのです。

素材と向き合う時、「何か」が足りないと思って、「何か」を加えたくなる衝動に駆られることがあります。
しかし、テーブルには調味料の類は一切置いてありません。
次第に、本当に足りないのは食材との向き合い方が足りない自分自身に問題があると気づきます。
すると食材はありのままの「素」こそが「本物の料理」であることを提示するようになるのです。

食材を作り出す人たちの想いが加わることで、さらに日本料理は磨かれることでしょう。
日本料理は作り手や伝え方でいかようにも姿かたちを変えることができるのです。

僕の食材をめぐる旅は一区切りつき、次のフェーズへ移行することになります。

それはそうと、稲穂って揚げると美味しくなるんだよ。

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