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LIGHT & DISHES Lab. ラボディナー会 Vol.1 「五感と人とダイアログと」 レポート

10/17(火)に新事業〈LIGHT & DISHES Lab. ラボディナー会 Vol.1〉を開催いたしました。この事業は、さまざまな分野で活躍するゲストスピーカーをお招きして、お食事をしながら各分野の世界観を学び合う会です。

第1回のテーマは「五感と人とダイアログと」。ゲストに、石川県輪島にある輪島キリモト 代表の桐本泰一さんにお越しいただきました。明治より200年以上に渡り、輪島漆器の製造販売を営む輪島キリモト。現在は漆器だけではなく、家具、建築内装材に至るまで幅広い創造活動をされています。

●手に取り、触り、知る。想う。

漆とは漆の木から出る樹液のこと。その始まりは縄文時代に狩猟で使われる槍をつくる際に、木の棒の先端に鋭利にした石を紐で結び、その結び目を漆で”接着する”ことから始まりました。日本海側に位置する輪島は、漆の乾燥に最適な気候環境が歴史的に整っているにしても、歴史を経て進化するものづくりや地球温暖化などの環境変化に伴い、精密な室温調整と湿度管理、さらに細やかな“テマヒマ”が必要となりました。桐本さんをゲストにお招きするにあたり、その原点を改めて学んだ私たちL&Dは、今回の演出として、大正時代につくられた100年ものの漆器、“蒔地”という独自に開発された現代の漆器、その両方が活きるよう、料理も素材がシンプルなものから現代風にアレンジを施したメニューにしました。そして、まだ電球が普及していなかった明治・大正時代では昨今のように煌々と明るい環境で食事をすることはなかったはずです。そこで室内の照度(明るさ)を落とす演出をいたしました。まるでタイムスリップをしたかのような空間で、古く長く使われてきた漆器を手に感覚を研ぎ澄まし、肌触りや艶、輪島と日本の歴史そのものを感じ取っていただけました。

●プロダクトデザインの経験、そしてプロダクトを超えて

輪島キリモトの漆器は、伝統的な輪島漆器を重んじると同時に、新たな表現方法を職人さんと共に試行し開発しているのが印象的です。技巧とアイデアを交差させ続け、漆器に留まることのない挑戦により、近年ではテーブルカウンターや壁素材といった特注のプロジェクトをホテルやレストランから依頼されるようになりました。建築内装材の場合には、竣工まで数年以上かかるプロジェクトに対して、どのような空間になるのかまだ定かではない構想段階から、施主の想像を超えていく漆のサンプルを作って打ち合わせに臨むのだそうです。誰かの手もとに渡っていくプロダクトとしての漆器、あらかじめ出来上がる空間を想定した完全一点ものの漆の内装材。この両方を職人さん達と共に切磋琢磨する桐本さんの揺るぎないエネルギーを強く感じました。

●七代目としての未来

今後の製作スタイルとして、桐本さんは「漆器のデザインをする中で、職人さん達では絶対に作らないような造形を提案している。効率的で大量生産的な形の器を作るだけではなく、現代の暮らしに馴染むようなものや自分の試したいこと、作りたいものを作っていきたい。また、家業を継ぐ前に企業のオフィスプランニング部署で働いていた経験が今に活きている。漆器だから和食といったイメージではなく、 “常識を超えた普段使い”のものづくりを追求したい」と語ります。そして2022年、輪島キリモトの工房に併設された漆のスタジオがオープンしました。このスタジオの最大の特徴は、実店舗であると同時にリモートによる接客にも対応した最先端のデジタル機器が備わる“デジタル店舗”だという点です。ギャラリーやショップ、百貨店の店頭でZOOMを通した、商品の販売会や説明会、木や漆のセミナーなどを開催しています。一方、リアルでは海外からの輪島来訪者が年々増えています。訪れた方は“輪島は良いところだった、早く知りたかった”と口を揃えておられるそうです。

編集後記

これから輪島を訪れる方、リモートを通じて輪島キリモトを知る方が、現代、次世代に残していきたい日本らしさを発見して、毎日使う食器や家具、手にとり肌に触れるからこその木や漆、素材への愛着を持ち続けていただけたらと切に願います。次回以降もどうぞよろしくお願いいたします。(LIGHT & DISHES / 吉原千晶)

次回予告

ラボ・ディナー会 vol.2となる11月14日(火)には、旅と人とダイアログと「旅で出会ったITテクノロジーからアート、デザイン」をテーマに開催。ゲストスピーカーは林信行さん(ジャーナリスト)です。そして、同月11月28日(火)には、イギリスから緊急来日している安積朋子さん(デザイナー)、Gianfrancoさん(アートキュレーター)をSPゲストに迎え、旅と人とダイアログと vol.3を開催します。ぜひご参加ください。

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