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勝利の女神:NIKKE 稗史 飛行機雲とバタフライ

「桜花(さくらばな)達……」

『リーンの翼 (OVA)』シンジロウ・サコミズ


「北部基地に行きたいので、一番近くに出られるエレベーターまでお願いします!」
 タクシー運転手を生業とするニケ・タクシス本日最初の客は、ニュービーのニケであった。オレンジ色の防寒スーツに身を包んだ元気一杯金髪碧眼のニケはトーブである。
「お嬢ちゃん、このタクシー初めて?」
「え!? ええまぁそうですね」
「じゃあ運賃はサービスしといてやるか! ウチは速い分料金がお高いの」
「そうなんですね! うれしいなぁ」

 タクシーのラジオから、パーソナリティが美声をもって今日の予定を伝えはじめていた。
「今日からアークゲームショーが始まるわ! 『ファイナル・クエスト』『アイアンパンチ』『ドラゴンダンジョン』などの人気ゲームのイベントのほか、同時開催のレトロゲームウィークでは、古典FPSの名作『BOOM』をはじめとした……」
「なんか今日イベントがあるみたいなのに仕事なんて残念だねぇ」
「わたしは地上でサバイバルする方が今から楽しみでして」
「おっ!? アウトドア派かい?」
 ラジオの内容がニュースから、お便りのコーナーに移る。
「続きまして、朝の質問コーナー! まずはじめのお便りはこちら、ラジオネーム・アンちゃん。「オネーサンおはようございます。図書館で天気と雲について、図鑑で調べていたら飛行機雲というのがあるそうなのですが、これがよくわからないです。……」早速難しいのがきたわねー!」
「飛行機雲って……」
 タクシスは苦笑いした。
「運転手さん、なにか知っているんですか?」
「今はもう見られないものだよ」
「飛行機型の雲じゃないんですか?」
 トーブのあまりの回答に、思わずハンドルさばきがブレる。
「違う違う! 飛行機が上空を飛んでる時にエンジンとかからの水蒸気ほかで出来る雲の事だよ」
「そうなんですね! よく知ってらっしゃる!」
「そりゃ前職パイロットだからねぇ」
「はぁ、おいくつなんですか?」
「大体百二十歳くらいじゃないかね」
 タクシスは、地上で戦っていたあの頃を語りながら運転を続けた。

 大型旅客機の副操縦士にまで上り詰めたのに、ラプチャー達が空にもちょっかいを出して、最後のフライトでは機長が撃たれて死亡するなど踏んだり蹴ったりであった。
 そのくせ、緊急不時着して乗客全員を無事に降ろしたというのに乗客の一部がペットも救出しろとゴネ始めた。
 結局無視して大喧嘩までして会社から無期限謹慎処分になったのを機に、彼女はニケの開発志願者になったのである。
 ニケ化はほぼほぼ成功し、脚部機構を人間とほぼ同じにしながらも、軽く走っただけで音速を越えられる状態に仕上がった。
 しかしながら、NIMPHの制御に難があり、ラプチャーが撃てないのだ!
 廃棄処分寸前だったものの、恐るべき脚力と彼女のパイロットーー戦闘機からの攻撃は普通に出来たーーとしての技量、口のうまさでこの危機を乗り切り、今はアークで悠々自適の生活を送っているという訳だ。
 トーブも、ニケだったらさもありなんと素直に受け止めていた。
「そういやお嬢ちゃん、飛行機は知ってるんだねぇ?」
「ハイ! 『メーデー!』とか『衝撃の瞬間』も大好きなんです!」
 タクシスはまたもガクッときていた。
 そのうち、ふたりは目的のエレベーターに到着した。幸運にも事故は起こらなかった。
「それじゃがんばんなよ」
「ハイ! 行ってきます!」
 トーブは多くの物資の入ったリュックを背負うと手を振ってエレベーターに乗り込んだ。
 お客を降ろして一息ついたタクシスは、ある人物にメッセージを入れるのだった。
「私だけど、昔の誼で頼み事を聞いて欲しいな。エターナルスカイに飛行機雲を描いておくれよ」

 中央政府のお偉方からグルグルとたらい回しになった飛行機雲案件、次の委託先はパピヨンであった。
「なんで私が……」
 バーニンガム副司令官の副官ニケの彼女がやるべき仕事ではないし、直下のトライアングルにも無関係の案件である。
 とりあえず、エターナルスカイの管理をしている部署にぶん投げることにしたのだが、これがまた色々とまたがっていてややこしい。恐らく、たらい回しの原因はそのせいだろう。
 彼女はエターナルスカイの管理部署を探すのをやめて、より直接的に関わっている部門のニケを探し出した。すなわち、エターナルスカイの風景そのものを描いている者たちである。
 彼女達は主にアニメーションやゲームの背景画を担当していたニケの集まりで、基本変わり映えしない空模様を、時にはかんかん照りにしたり、大雨のシャワー時には雷が荒れ狂う様にして市民を楽しませるエンターテインメント集団でもある。

「ハァ!? エターナルスカイに飛行機雲を出せって?」
 猫背で仕事をしていたチームリーダーのラスコーが唸った。彼女は如何にもパッとしない容姿のビン底メガネの女性であり、ニケだと思われた事がないほどだ。
「ええと〜、パピヨンさんからのメッセージで、やらないと政府のお偉いさんからお叱りがあるんだとさ」
 制作進行のタミラが頬杖をつきながらメッセージを読み上げた。緩い喋り方の彼女は、ラスコーとは対照的に非常に美人な秘書風のニケなので、仕事の役割的にもチームリーダーだと誤認されていた。
「……」
 一方、ダンマリを決め込んでいるストリートファッションに身を包んだニケのキトラは、来月分の天気予報に従った描画のCG作成につきっきりである。
「それって今日やらなきゃダメなん?」
「確認してみるわ…… 秒で「早くしろ」だとさ」
「……」
「飛行機雲って意味わかって言ってんのかなアイツら」
「知らね。飛行機型の雲で良いんじゃない?」
「……」
「キトラ、今すぐ描ける?」
「うっさい邪魔すんなコロスゾ」
「ヒドイんですけど〜」
 キトラは作業を邪魔されると瞬間湯沸かし器並みのスピードで怒り始めるのだ。
「しょうがない。リーダーであるあたくしが、今ある入道雲から飛行機を生み出して進ぜよう」
「本当の飛行機雲でなくてイイの?」
「嘘かマコトかなんて最早分かるやつの方が少ないわ!」
「……」

 飛行機の形をした雲を見て、今日買う物を決めた指揮官がいる。
「コレを、下さい。誕生日プレゼント用に包んでください」
 中年の指揮官であるイランコが、地上からアークに戻ってきて最初にしたことは、おもちゃ屋で飛行機を買うことだった。
 今日は三歳になる息子の誕生日である。しかし彼の子ではない。

 イランコは南スラヴ系の白人、痩せぎすで表面上は陰気な面が色濃い男であった。髪は若かりし頃は溌剌としていたのだろうが今はくすんだ茶色である。
 指揮官の中では中の上か上の下あたりの力量で決して無能ではなく、どちらかというと裕福な部類ではある。
 彼は妻と息子の三人暮らし。しょっちゅう地上で任務に勤しんでいた彼は、妻の浮気に今まで気づかなかった。そして、息子の瞳の色が自身と妻側のいかなる親類とも一致しなかった。
 だからといって、彼は誰も責める気はなかった。相手に良心の呵責を覚えさせようとか寧ろ寝取られるのが好きなわけではない。
 彼は波風を立てたくないのだ。驚異的なまでのお人好しとも言える。付き合いが短い者は、彼を安易に馬鹿にするものの、次第に恐ろしさを覚える。
 彼は複数の指揮官と共同作戦を組むタイプであり、大抵は他の指揮官との連携を取り持つ係であった。常に相手の顔色を窺い、誰からも文句がとばないようにするのである。

 また、イランコにはもうひとつ用兵のクセがある。ニケのチョイスが独特なのだ。
 任務にあたり、どんな指揮官でも非常に強力なスキルを所持していたり、相乗効果で強くなるニケを中心に編成したいと願うものだ。しかし、彼は基本的に他の指揮官からの評価が芳しくないニケ--大抵はスキルと武器種・戦闘スタイルが噛み合っていないのだが、単に性格や素行に難があるものも含む--を重用する傾向が強い。
 それは単に「他の者が使わないので編成しやすい」という意味ではあるが、彼はその中で上手く扱う術を身につけていた。彼に言わせれば基礎を忠実に守れば容易いと言う。
 彼の将才は、「天の配剤」(プロヴィデンス)。

 一方我らがライジングスターである、カウンターズの指揮官はというと二日前に地上から帰ってきていた。彼は任務のついでにコリーと名乗る病気の子供に写真を撮って来てあげることになっていた。
「こんな感じでいいかな?」
「良いと思います」
「元気になるといいわねー」
 などと皆が言っていると、返信が来た。
「コリーの母です」
 何スレッドか下ると信じられないことを言ってきたのだ。
「コリーは空を見に行きました」
 この瞬間、全員は天を仰いだ。
 手術までまだ日があると油断していた。無念である。
 母親は「このご恩は一生忘れません」と結び、彼のメッセンジャーはそこでENDになった。
 雲ひとつない快晴の中、彼の遺品と思しきおもちゃの汽車が涙の雨を降らせた。
 そんな悲しみを胸に秘めたまま、本日はエクシアやエレグ達に連れられてゲームショーを巡る予定だ。

 また違う場所で、ひとりのニケが湖に来ていた。
 彼女の名前はソラといい、所謂脱走兵のニケである。
 彼女はもうそこそこ長い期間、地上にて自給自足の生活をしていたが、武器はすでに錆びついていて使い物になりそうにない。
 代わりに、アサルトライフルにはラプチャーから採取した触手をワイヤーにして結えており、さらに青白く輝く銃剣が着けられていた。
 戦死した指揮官が守り刀として所持していた遺品の銃剣は元々ニケ用の特注品らしく、ラプチャーの装甲すらアッサリと貫通してしまうのだった。
 要はそのオリジナル武器を銛にして魚を捕まえるのである。
⭐︎
「今日は大漁だったぞ!」
 ソラは小さな体で大喜びだ。とはいえ、自然のものゆえいつもこうなるとはいえない。
 なので、いつも頭と内臓を取って天日干しにするのだ。
 一仕事して、なんだか眠くなった彼女は木の上に作った秘密基地で昼寝に入る。
 ソラは眠ると指揮官や仲間たちの死に様を悪夢として見てしまいがちなのだが、銃剣の蒼い光を見ていると、とても安心できる気がした。
 やがて眠りについた幼い戦士を、銃剣は暖かい眼差しで見守っていた。

「飛行機雲の意味違うのがバレたわよ!?」
 タミラのPCには、関係各所はおろか研究者や一般市民からも抗議が来ていた。何故飛行機型の雲にいちいち難癖をつけるのかさっぱりわからない。
「ハァ〜。アレで納得しとけよ」
「……」
 キトラは我関せずと仕事に没頭しているが、ラスコーは特に文句は言わない。むしろ真面目に納期を守るので作画監督としては有り難い。
 やがてキトラは仕事を片付けラスコーに提出した。
「そんじゃ帰る」
「ほい、お疲れさま」
 下働きしてくれそうなキトラはさっさと帰っていき、ラスコーは頭を描きながらペンを取った。
「仕方ない。飛行機の雲から飛行機雲出すか」
「こりゃまたシュールなこって」
「何もないところから飛行機雲出すのは主義に反する」
 ラスコー達はプロフェッショナルである。それは同時に、目で見るものの影響力の強さを一番理解しているということでもある。エターナルスカイでの安易な画像描写がアーク市民に多大な影響を及ぼしかねない事も重々承知していた。
 エターナルスカイに人工的なプロパガンダ広告を出そうという試みに対し、あまりいい顔をしなかった彼女達だが、所詮はニケなので押し切られてしまった。その結果が、真実を知って衝撃を受けた自殺者等の急増である。
 あの日人類は思い出したのだ。
 ラプチャー共にキャン言わされとった恐怖を……
 穴蔵に押し込められていた屈辱を……

 アークには、アウターリムと呼ばれる区画が存在する。アークをグルリと囲むするように作られた防壁の外側には巨人こそいないものの、大量のガラクタが投棄されていた。その中にはヒトも含まれている……
 エターナルスカイの光も、この世界の片隅には届かない。某かはそれがどうしようもなく気に入らなかった。
 某かはそれゆえに、あの偽物の空を破壊してやろうと、テロ組織・エンターヘブンの末端ながら準備を整えていた。もちろん合意形成など出来ようはずもなく、知っているものはごく少数である。

「へぇ、素人が思いついたにしてはよく出来ているじゃないか」
 エンターヘブンからの伝手で、この情報を察知したニケがいた。クロウは、今は中央政府の情報部中央諜報管理室の所属でありエキゾチック部隊のリーダーである。
 破壊方法や、それを行う道具としての量産型ニケの調達、事前の軍資金の準備までもがよく練られている。アークで高等教育を受けているようだ。
 ただし、理念がやや青くさい。ここでは正論を吐いたとしても誰も聞きやしないのだ。
「それよりも、あたしならこうやる」
 この世の誰よりもこの世界を破壊したいと願うこのニケは、より大胆に、より狡猾に計画書を改変していく。エンターヘブンも、アンダーワールドクイーンの面々も、ましてやアークでふんぞり帰っている者たちも全て使い果たして破滅させてやろう……
 弄り回されたそれは、今はまだ児戯に等しい出来栄えだが、時間はたっぷりとある。闇はこれから濃くなっていくのである。
「まぁ、元々の計画が実行された時に備えて、バカでもわかるように一応の対処方法を練っておくとするか」
 面倒な仕事をせねばならぬ事がわかった以上、こちらも手抜かりはなかった。
 ゴミ捨て場から生まれた異形の鬼才、それがクロウというオンナである。

 エターナルスカイに飛行機雲が描かれた。
 多くのものはそれがなにか分からず、ただ青空に一条の線が引かれた様子を面白がっていた。
 一方でなんらかの意味を見出した者たちも存在していた。例えばシグナルたちである。
「ああ〜、『コントレール』観た後で本当に飛行機雲見られるとは!?」
「ええ、奇遇ですね」
 付き合わされて視聴していたデルタも同意する。
 彼女達がお昼休憩の合間に観ていたドラマの内容はこんな感じである。
 旦那が無差別通り魔事件の余波で亡くなった女が出会ったのは、トラック運転手の男。この男はその事件に警官として犯人に立ち向かっており、取り押さえる瞬間に同じく犯人に立ち向かった通行人を死なせてしまいそのショックから言葉を失っていた。
 夫のカタキにあたると言えるその男を、女は愛してしまうという情念のカタマリ。
 これは不条理に人生を狂わされた男女がめぐり逢い数奇な運命を辿るドラマである。
 コントレール。それは飛行機雲の意味であるが、女にとってはすぐに消える幸せの象徴、男にはあの事件で見た悲劇の象徴なのだ。

「そのプレゼントは?」
「すまないね、これは子供のおもちゃだ。今日が三つの誕生日なんだ」
「そう……まぁいいよ。抱いて」
 アーク市街某所のレンタルルームにて、情を交わす男女がいた。いや、正しくは男とニケ、イランコとキトラである。
 彼が妻を難詰できない真の理由、それは彼も雇用契約を結んだニケと浮気をしているからなのだ。

 始まりはこんな感じだった。
 まず初めに、メグというアル中・ギャンブル依存症・ニンフォマニアと三拍子揃った色んな意味で悪名を轟かせているニケがいつものように指揮官をたらし込んでいたのだが、彼もそのひとりである。
 ある時彼女は、キトラのこの指揮官を見る眼差しがなにやら他のニケとは違うことに気がついた。
「どしたん? 話聴こか?」
「別にいいです」
「ええやん、おばちゃんになんでも相談しなはれ」
「うるさいって言ってるでしょ!」
 こういったやりとりを続けているうちに、キトラはメグが指揮官に手を出していることを知り、激しく嫉妬し始めた。
 メグはしてやったりである。
「ウチがあのおっちゃんと懇ろになってるのが気になって仕方ないんやろ?」
 顔を真っ赤にして今にもキレそうな彼女に、このボブカットの淫魔はねっとりと囁いた。
「ならウチと一緒にやらへん?」
 そこからはブレーキなどぶっ壊れたかの如く、指揮官を求めてやまなくなった。
 正直なところ、何故そこまで執心するのか彼女自身もよく分かっていない。優しいから? いい匂いがする? 雰囲気の問題? 初恋だから?
 彼も彼で、情熱的に自分を求めてくる彼女を見ていると若くなった錯覚すら覚えるのである。今は冷めてしまった妻との関係を代わりに受け持ってくれる彼女は大変ありがたい存在であり、また大切にしたいと思っている。それに彼女の舌技はメグにでも仕込まれたのか、逢瀬を重ねるごとに上手くなっていくのも好きだった。
 イランコは周りの指揮官にもこのこと--メグについては皆が自然災害だと認識しているのでセーフ--は伏せている。
 ニケを寵愛する人間は、アークでは少数派だ。世間一般では、ニケは飽くまで兵器である。ダッチワイフやラブドールに入れ込んでいる変態くらいの扱いに他ならないのだ。
 ふたりもまた、ドロドロとした情念に縛られていた。

 今日の分の仕事を終え、帰宅の途につくラスコー。
 彼女は独りごちる。
「何もないところから飛行機雲出すのは主義に反する、か。自分で言っておいてなんだけど笑えるな」
 彼女には異能力がある。
 描けるのだ、中空のキャンバスにそのまま思い通りの絵が。彼女の長年の研鑽と、ニケの力が合わさった驚異の芸術といえよう。煩わしい人間関係を断つため、見た目すらも冴えない感じにして、男性にはまったく相手にされないようにしている。猫背なのは、ただ単に背骨や腰のメンテナンスをしておらず円背が悪化しているだけだ。
 戦闘にも直接関与出来る恐るべき力である。例えば瓦礫の絵を描くと、見た目だけは完璧な遮蔽物と化す。イラストなので実際の防御能力は皆無だが、アイデア次第では無限の戦術を産み出しうる。しかしながら、それを用いる指揮官にはついぞ会った事がない。
 だから彼女は今アークに留まっている。
 この力を存分に扱える指揮官が現れるその時まで、彼女はこの洞窟で壁画を描き続けるだろう。
 そして今日彼女が引いた飛行機雲は、夕方になる前には既にかき消えていた。

 夜遅くまでゲームショーを堪能したエレグと、その同僚のトロニーはエターナルスカイが映し出した偽りの夜空を見上げていた。
 トロニーは実はつい最近まで宿舎の自室に引きこもっていたのである。
 アークで頻発していた停電を抑えるためのコンバーター開発に尽力していたトロニーであったが、そこでアークのエネルギー源を見て以降、塞ぎ込んでしまったのだ。
 エレグが必死に部屋から出てくるよう宥めすかしたが徒労に終わろうとしていた。
 しかし、トロニーの再起を信じ続けたエレグの熱い言葉とちょうど起こった停電、そして彼女が体験した子供の頃のエターナルスカイの異変が元で起きた大混乱の苦い記憶。これらが噛み合って奮起した彼女は引きこもりをやめて、新型コンバーターをもって問題を解決したのだ。
 ふたりは今、新しい夢を見ている。アークの皆がホンモノの空を見る事が出来るようにするということだ。
 そしてそれは、人類がアークを捨てられるということにつながる。この得体の知れない伏魔殿をBOOMにするために彼女達はまた、切磋琢磨することになるだろう。

 資源採掘部隊のニケ達が、満点の星空を撮影していた。
 こんな夜空はアークでもなかなか見られない。星々の大海を宝に見立て、彼女達はよく接する指揮官に向けて宝探しゲームを企画したのだ。
 きっと指揮官は喜んでくれる。
 夜空には流れ星が流れていた。

「今日は朝のラジオで飛行機雲について学びました。空には飛行機の形をした雲が、モクモクと煙を吐いていましたがあれが飛行機雲なのでしょうか?
 マイルドコロッケを食べた後、三毛猫のぬいぐるみをゲームセンターで取って遊びました。」
 N102はそう日記をつけて、手帳を床頭台に置いて眠りについた。
 就寝しているエヌの横を研究員が通り抜けると、日記のページを破り、手帳に明日の予定を書き加えて帰っていった。

(了)

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