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オフコース全曲分析みたいなもの(?) 青春


楽曲について

個人的インプレッションみたいなもの

この曲はもともと『秋ゆく街で/オフ・コース・ライブ・イン・コンサート』中で、鈴木のソロ曲として演奏されたものを、バンドアレンジにブラッシュアップ、歌詞も一部変更して『SONG IS LOVE』に改めて収録したものです。

この記事シリーズは、基本的に「アルバム初出」を優先しているので、順当に考えると『秋ゆく街で』バージョンを主記事とすべきところですが、こちらは歌詞が違っていたり、何より鈴木の独演ということで例外とし、『SONG IS LOVE』バージョンを主記事とさせていただきます。

ということでこの曲の個人的インプレッションですが、最初に聴いた時の印象は「渋くてカッコイイ!」という、なんとも頭の悪そうな感想でした。

音楽的な知識には乏しかった頃(今でも豊富とは言えませんが)なので、メジャーナインスやマイナーナインスといったコードの複雑な響き、調性が曖昧でふんわりしたメロディ、そして何よりイントロのベースソロのかっこよさに、よくわからないながらも不思議な魅力を感じたものです。

後年、多少はコードや調に対する知識がついて改めて聴いた時、こんなに凝ったことをしていたのかと改めて驚いたものです。

基本スペックみたいなもの

アルバム1976年11月5日リリース
『SONG IS LOVE』A面6曲目に収録
『秋ゆく街で/オフ・コース・ライブ・イン・コンサート』B面6曲目に収録(ライブ・プロトタイプバージョン)
『SELECTION 1973-78』B面5曲目に収録

作者クレジットみたいなもの

鈴木康博/作詞・作曲
オフ・コース/編曲

参加ミュージシャンみたいなもの

鈴木康博  Lead Vocal, Chorus, Electric Guitar, Gut Guitar, Mokugyo, Cabasa
小田和正  Vocal, Chorus, Electric Piano, Hammond Organ, Flute
小泉良司  Electric Bass
大間ジロー Drums
松尾一彦  Harmonica

曲の全体構成みたいなもの

イントロ(Em) → Aメロ1 → Bメロ1 → Aメロ2 → Bメロ2 → サビ1(Amに転調) → Aメロ3(Emに転調) → Cメロ → サビ2(Amに転調) → 短いアウトロ

間奏やアウトロはほとんど無く、イントロのあとは基本的に歌パートだけで進行しています。

Bメロは「〜いくつもの季節を過ごし」の、明確にEマイナーになっている部分です。2番ではこのメロディではなく「〜ひとつの夢が君の道を教える」という新規メロディになっているので、Cメロとして定義しました。

リズムみたいなもの

BPM=60ちょっとぐらい。かなりゆったりしたテンポになります。

調みたいなもの

いちおう出だしはEマイナーですが、サビでAマイナーに転調しています…と言ってしまえばそれまでなのですが、イントロから出だしの部分は、EマイナーともAマイナーともとれる微妙な調性になっています。

これ説明しようとして書いたはいいのですが、めちゃ長くなって自分でも読み直すのイヤになったんで、わかりやすくイントロからAメロはEマイナーとして括ります。

Bメロの「〜いくつもの季節を過ごし」からの部分は明確にEマイナーもしくはGメジャーで、サビの「〜ふるさとを捨ててきたように」からは明確にAマイナーです。ここの繋ぎも絶妙で、いつの間にか変わってしまっているという、職人芸の極みのような転調かと思います。

この一連の記事では、細かいコード進行に触れることは出来るだけ避けるようにしています。というのも、あんまり深堀りした専門的な内容になりすぎると、理屈には詳しくないけど純粋に好きで聴いている、といった方を置いてけぼりにしかねないような、自己満足になってしまう懸念があるからです。

ただ、この曲のコードとボーカルのメロディーの関係は結構複雑怪奇で、それの説明としては触れずにはいられないということで、あえてここで書きます。

サビの部分のコード進行は、土台の部分だけを見ると一般的な循環進行で、
Dm7 → G7 → CM7 → Am7
となっています。ギターなどやる方にはお馴染みのよく見る進行ですね。特にシティポップなどでは応用版も含め多用された、日本人好みの哀愁ある進行です。

が、Am7以外はいずれもコード内に含まれない音、いわゆるテンションノートがメロディーラインになっていて、これらの音を無理矢理コードに組み込むと、
Dm9 → G7(13) → CM9 → Am7
といっためんどくさいコードになります。

実はベースもG7のところで、本来のルート音の半音上という変な音を出していて、それも含めると、
Dm9 → G7♭9(13)onA♭ → CM9 → Am7
という奇怪なコードになります。もはやG7は原型を留めていません。

簡単なコード進行でも歌えないことはないですが、コードに含まれない音だらけですので、よほど音感に自信がないと、合わせて歌うのは苦労すると思われます。

ちなみに出だしも9th音の連続で、Am9とD9の繰り返しになっていて、なんともつかみどころの無いメロディとなっています。

歌詞みたいなもの

この歌詞は鈴木作品の中でも、個人的に屈指のお気に入りです。

何かオフコースを脱退する時のイメージが重ならないでもないですが、これが作られたのはまだ5人にすらなってない頃なので全然関係ないです。

とはいえ、多少鈴木自身の思いも入っているかなと感じるのが、「〜生きる道に夢はひとつでいい」という部分です。安定したエリート技術者としての道が保障されているにも関わらず、明日の見えないミュージシャンとしての道を選んだ、自身の選択を「若者」に重ねているのではとも感じました。

個人的には上のフレーズと、「〜ふるさとを捨ててきたように この街も捨ててゆくのか」という部分はなかなかに沁みます。思い返せばこういう選択の繰り返しで今に至るんだよな…と少々感傷的になってしまいます。

そして「青春」にさようならと…この歌詞は歳をとるほど沁みますね。

各パート

リードボーカル(鈴木康博)

全編ダブリングがかかっています。1番は明らかにソロなのですが、2番からは小田とのユニゾンのようにも聴こえます。

2番サビからは明らかに小田とのユニゾンで、2パートに分かれる部分からは、高音:小田/低音:鈴木、すなわち主旋律を小田に譲るという、この時期には珍しいパート分けになっています。

オリジナルバージョンは非常に気だるげというか、脱力した感じのボーカルになっています。『秋ゆく街で』のプロットバージョンでは熱唱していたし、『SELECTION 1973-78』バージョンではハキハキしたボーカルになっていたので、何か狙いがあって脱力した感じを演出していたのですかね?

サイドボーカル(小田和正)

上記のように、2番サビからユニゾンで入り、ハモり部分は主旋律となります。初めは小田が低域ハモりに入っているのかと思いましたが、聴けば聴くほど高音域は小田にしか聴こえません。

これ、今回この記事を書くために集中して聴いていて、初めて気づきました。これだけ長年聴いていても、新しい発見ってあるものなんですねぇ…

コーラス(鈴木康博/小田和正)

1番サビの部分から入ってきますが、比較的低域のコーラスになっていて、落ち着いた雰囲気になっています。

2番のAメロではシンバル、ガットギター、コーラスでの仕掛けが入っていて、仕掛けの締めにユニゾンでのコーラスでいい味を出しています。

2番のサビでは1番サビにさらにパートが加わって、盛り上げに貢献しているように聴こえます。

エレクトリックギター(鈴木康博)

全編通して左チャンネルで、ホワンホワンと鳴り続けています。終始オートワウがかかっていて、原音そのものは若干歪みのかかった硬め細めの音のようです。

オリジナルバージョンでは、エレピとチャンネルが重なっていてどれがどっちの音か聞き取りにくいですが、『SELECTION 1973-78』バージョンでは、エレピがセンターチャンネルに移動しているので、だいぶ聞き取りやすくなっています。

けっこう自由に動いていて、ストローク、アルペジオ、カッティングなど随所でいろんなことをしています。

ガットギター(鈴木康博)

右チャンネルでこちらもかなり自由にコードやオブリガートを入れています。「〜生きる道に」の間でポロロンと入るフレーズがハイライトですね。

音域的に5フレットにカポタストの、Eマイナーへの移調もあり得ると思ったのですが、エンディングあたりのフレーズを聞くと、カポタスト無しが順当のようです。

キーボード(小田和正)

キーボードはローズと思しきエレキピアノとオルガンが入っています。

エレピはコードバッキングメインの音と、メロディを奏でているものとがあり、前者は小さめミックス、後者は大きめにミックスされていて、このバージョンでは左チャンネルにまとめられていますが、イントロのフレーズだけセンターに入っています。

オルガンは出だしから「ピッピッピ、ピー」と高音で鳴っていて、ちょっと不思議なイメージになっています。クレジットに「Organ」と入ってなければ、シンセサイザーと勘違いしたかもしれません。

イントロだけかと思ったら、1番Aメロの2回目にも入っています。これ以降は出てこないようです。

エレクトリックベース(小泉良司)

なんと言ってもイントロのソロフレーズが印象的ですが、全体になかなか凝ったプレイになっています。

Aメロ部分は1番ではコード頭にルートを鳴らしているだけですが、2番では16分裏拍のフレーズになっていて、スピード感がついています。

Bメロからサビは、地味ながら意外と音数の多いプレイになっていて、ゆったりした曲調の中にドライブ感を加えています。

ドラムス(大間ジロー)

手堅く叩いているようで、意外と緩急のついたプレイになっています。Aメロでは淡々と刻むハイハットにバスドラでのアクセント、Bメロ部分ではリムショットのアクセントとなっていますが、サビではライドシンバルとスネアでかなり派手なプレイになっています。

特に2番サビではシンバル類も派手に鳴らし、フィルインもただのタムだけでなく、スネアのロールを織り交ぜた、なかなかに味のあるプレイになっています。

2番Aメロの頭に入っている、クレッシェンドするシンバルロールはオーバーダビングでしょうが、その後のガットギター、コーラスの連携畳み掛けで、大変効果的な仕掛けになっています。

パーカッション(鈴木康博)

木魚カバサが入っています。

木魚は右チャンネルで、Aメロ、Bメロ部分ではコンスタントに高低叩き分けた4分打ちをして、淡々としたリズムを強調しています。サビでは16分も交え、こちらはリズムに変化を付けています。

カバサは大変聴き取りにくくて、発見するのに苦労しました。センターと左チャンネルの間くらいで鳴っているのですが、特にサビ部分ではハイハット他のシンバル系に紛れてしまって認識しづらいです。1番サビ以降から入って、主にアクセントの強調をしています。

ハーモニカ(松尾一彦)

このハーモニカはクロマチックっぽいプレイになっています。『めぐる季節』や『こころは気紛れ』では10ホールっぽかったので、すでに『SONG IS LOVE』セッションでは両方使い分けていたようですね。

Aメロ2から入ってきて、随所随所で音の厚みと緊迫感を加えています。特にサビでのプレイはなかなか圧巻で、ハーモニカ無しではこの曲は締まらないと言っても過言ではないでしょう。

フルート(小田和正)

1番のBメロ2の部分にだけ、賑やかし的に入っています。この時期のオフコースはこういったトリッキーな形で、スポット的に楽器を入れることが多くて、こう言った仕掛けを探して聴くのが、実は大好きでした。

別バージョン

『秋ゆく街で』ライブバージョン(1974年10月26日・中野サンプラザ)

鈴木康博  Vocal, Accostic Guitar

こちらは『秋ゆく街で』で歌われたプロットバージョンで、鈴木、小田ともにソロの新曲を1曲ずつの流れで披露されたものです。

ボサノバ風のアコギ1本で弾き語りをしているのですが、単純に歌もギターもめちゃ上手いです!

このボサノバ風の裏拍メインのギターって、ギターだけ弾くなら比較的早々にそれっぽく弾けるようになりますが、弾き語りになった途端、めちゃくちゃ難度が高くなります。

大抵は歌とギターのリズムが一致しないので、どっちかに釣られてグダグダになりがちです。ところが少なくともこの演奏では、そういう乱れは微塵も見えません。それどころか2番サビ以降の熱唱は見事としか言いようのないレベルで、単純に圧倒されてしまいます。

改めて鈴木康博とは、凄いギタリストで凄いボーカリストなのだなと再認識させられました。

『SELECTION 1973-78』バージョン

鈴木康博  Lead Vocal, Chorus, Electric Guitar, Gut Guitar, Mokugyo, Cabasa
小田和正  Vocal, Chorus, Electric Piano, Hammond Organ, Flute
小泉良司  Electric Bass
大間ジロー Drums
松尾一彦  Harmonica

このバージョンについては、ほとんどのレビューでボーカルの差し替えにしか言及されていませんが、ミックスもかなり変わっています。

バッキングのテイク自体は『SONG IS LOVE』バージョンのものとおそらく同様ですが、ボーカル以外の最大の違いが、歌い出しAメロ部分に、エレピによるボーカルとのユニゾンのフレーズが入っていることです。

このフレーズはこの後の同様の部分には無く、後から足されたのか、録音されていたものがカットされていたのかは分かりません。

このフレーズを含め、エレピ全体が『SONG IS LOVE』バージョンでは左チャンネルに入っていたのが、センターに移動されています。エレキギターは左チャンネルのままなので、分離されてそれぞれの音がわかりやすくなりました。

ベースはやや小さめになりましたが、音像がはっきりしたので、聴き取りにくくはないです。

ドラムは太鼓類がわずかに小さめ、シンバル類がやや大きめになって、特にハイハットがよく聞こえるようになっています。

肝心のボーカルは力強くなったのに加え、やや大きめにミックスされているので、非常によく聴こえるようになりました。また、コーラスもやや大きめになっているようです。

非公式ライブバージョン(1978年3月21日・スタジオライブ・NHK-FM)

鈴木康博  Lead Vocal, Electric Guitar
小田和正  Vocal, Electric Piano
清水仁   Electric Bass
大間ジロー Drums
松尾一彦  Harmonica

3人合流後のライブで、おおむねスタジオ版に準じていますが、当然楽器数は限られるので、適度に省略しつつも、オリジナルバージョンの雰囲気を維持した見事な演奏です。

鈴木のギターはエレキのみですが、ガットギターのパートも埋めるように、細かいプレイをしています。

ボーカルは1番はソロ、2番Aメロは小田とのユニゾンで、Cメロソロのあと、サビからまたユニゾンになります。そして最後は『SONG IS LOVE』バージョン同様のハモりで締めています。

このバージョンでも高音:小田/低音:鈴木のパートになっているのが、スタジオ版よりわかりやすく聴き取れます。

非公式ライブバージョン(1976年6月26日・スタジオライブ・FM東京「小室等の音楽夜話」)

鈴木康博  Lead Vocal, Acoustic Guitar
小田和正  Vocal, Electric Piano

こちらのバージョンは『SONG IS LOVE』リリース前のライブバージョンで、『秋ゆく街で』バージョンに準じていますが、歌詞はすでに『SONG IS LOVE』バージョンのものになっています。

最初は鈴木の独演で始まりますが、途中から小田のエレピが入ります。

ボーカルは上の5人バージョン同様のユニゾンからのハーモニーで締めています。いわゆる過渡期バージョンという感じで、完成に至る過程が見えて面白いですね。

締めみたいなもの

ここまで各種バージョンを聴いて気づいたのですが、この曲に関しては、最初のバージョンから構成がほとんど変わってないのですね。イントロが若干長くなってますが、それとて最初のバージョンのコード進行のまま繰り返しが増えただけです。

歌に入って以降は『秋ゆく街で』弾き語りバージョンのまま、新たな楽器が追加されていっただけという感じで、小節数もコード進行もほぼそのままです。

非公式ライブの2人バージョンで足された要素が、スタジオ版でバンドバージョンとして完成に至るという、年月かけて作り上げた名作という感じです。

ちょっと長くなり過ぎましたねw 初の7,000文字越えです。最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。

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