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ムカつく現実と甘い夢

 そのころわたしは、一人の男とつき合っていた。男は大学の1年生でわたしの家庭教師だった。

「暑いなぁ、エアコン入れようよ」

 夏休み。机に向かうわたしの横で男はいった。

「エアコンは身体によくない。夏風邪でも引いたらどうするの」

 わたしは苦手な数学の問題集をにらみつけていう。

「でもさ、これだけ暑いと、かえって身体によくないぜ」

「いいの、わたしは暑くないから」

 女として、未熟で無防備だったと責められてもしかたがない。いまとなってはそう思う。

わたしはタンクトップにショートパンツという出で立ちで問題と格闘していた。もちろん生足、そしてノーブラ。

長身な体つきがおとなびていると、男子連中からよくからかわれた。けれど、ミッション系の学校に通いはじめると、男といえば父親か教師しか知らない。そんな環境の中で過ごしていると、男性はカッコよくてたくましくて、やさしいだけの存在になってくる。

 まさに男は、そんなイメージを形にしたようなタイプだった。

 スポーツマンで頭がよくて、まっ黒に日焼けして、背が高くて、歯が白い。

 だから、わたしは男に恋愛感情をいだくことはあっても、警戒心を持つことはなかった。

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