価値観の転換というのは、これまで大切にしてきた何かを捨てることではない

 縦読みのマンガって、昔はあまり好きではなかった。

 話数が多いから単行本買うよりもお金がかかるし、次の話へ進むのにいちいちページを遷移させないといけないのがストレスだったから。

 でも今は違う。ひとたび縦読みマンガでお気に入りの作品さえ見つけてしまえば、縦読みだろうがどうでもいいという感じ。人間は順応する生き物なのだ。

 これは作品の作り手も同じらしく、というより、作り手にとったら面倒なコマ割りをしなくていい分縦読みの方が描きやすいらしい。ちなみに海外においては、コマ割りよりも縦読みの方が視線移動が楽で読みやすくもあるとのこと。

 思い返してみれば、はじめてマンガというものを読んだ幼少時代、読み方がわからず時間がかかっていたことを思い出す。人間は、初心を忘れる生き物だ。

 ただ悲しいかな、ことモノづくりという業種においては消費者の価値観の転換についていくことが難しいようである。上記の出版業界もそのひとつ。それは40代の社会人が、全く新しいやり方で結果を出している新入社員の若造を気に食わないのと同じだ。

 どっちがいいとか悪いとか、正しいとか間違っているとか、そういうものではないのだ。どっちにも価値があり、正しい。大事なのは、世の中には今どんな人がいて、誰が顧客で、彼らはどんな価値を望むのかである。

 ソフトの価値(=コンテンツそれ自体の魅力)だけではなく、ハードの価値どちらにも目を向けること。どちらの向上も成し遂げられれば、顧客体験そのものがより魅力的になる。

 近年耳にするCXというのはこういうことか、と以下コクヨの記事を読んでいて思った。

 コクヨのような老舗メーカーでも、時代に合わせて変わることができる。これは、日本企業に絶望しつつある若者の希望だと思う。

 なぜコクヨは変われたのか。記事を読むに、それは次の二つが理由なのだとわかる。

  • これまで自分達が提供してきた価値を大きな枠で捉え直すことができた

  • 顧客だけでなく社内にも価値をもたらせた


事業転換は、まず提供価値を見直すことから


 「文具市場が縮小している。ならこれからはデジタル市場で勝負しよう!」とはならず、コクヨはそれまでの提供価値をさらに包括する価値の提供を目指しはじめた。

 新しい価値とはモノづくりではなく、顧客の体験(ライフスタイル、ワークスタイル)そのものを作り提案することだと書いてある。

 つまり全く新しい分野に手を出すのではなく、事業の切り口を変えたというわけだ。

 ワークスタイル・ライフスタイルの提案となると、顧客が直接欲しているモノだけではなく、そのモノが置かれる空間、その空間で働くことによって得られる体験までを創造でき事業の幅が広がる。

 こういった変革の方法は、新しい事業に手を出すことが体力的に難しい企業でも真似しやすい。自分達ができる新しい価値提供は何かを考える時に、自分達の得意分野を生かす新しい道はどれで、そこに市場が生まれる可能性がどのくらいあるかを調査をもとに見極められれば、誰にだって勝機は作り出せるのかもしれない。


新規事業は既存事業の敵ではなく友になる


 記事を読んでいてもう一つ学びがあった。

 時代の流れというのは、それまで主流を流れていた人や価値を傍流へと流すことに繋がる。何か新しい変革を始めようとする時、需要があればそれは主流を流れることになるだろう。

 これまで頑張ってくれた人や価値には愛着を抱く。愛着があるものは捨てられないし、また再び主流へと華々しく戻ってほしいという願望が生まれる。

 けれど、一度傍流に流れてしまった場合はそのままの形で主流には戻れないと考えた方がいい。もちろんこの世には可能性が0%なことなんてないから、再びブームに乗っかって奇跡的に主流に戻されることもあるかもしれない。

 けれど、会社や業界のトップとしてリードする立場にある者は、奇跡を信じてはいけないと強く思う。

 奇跡を信じて行動していいのは実際にモノづくりのため手を動かす人や担当者レベルまでだ。

 新しい流れとなって押し寄せる価値に半信半疑なのは、個人の実感でしか物事を判断していないからだ。大事なのはデータで、市場調査で、消費者やユーザが新しいものをどう受け止めているかを定点的に知ることだ。

 けれどどうしても、新しく生まれた価値が大きなストリームになる前に傍流へと流し出されようとしている者たちの反抗に合うかもしれない。

 市場にその価値を提供するのと同時に、社内にも価値を提供し共存関係を築くことも大切だ。

 蹴落とすのではなくライバルとして高めあう。ピンチの時は手を差し伸べる。新規事業と既存事業の理想の関係はそんなものなんじゃないか、と少年ジャンプの魂を心に秘める私はぼんやりと思った。

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