人類が火星に住むのが先が、完全デジタル世界の住人になるのが先か

 何年か前に、「Face Touching」というジャンルの動画にはまっていたことがある。

 画面の向こう側にいる人が、画面のこちら側にいる相手の顔をなぞるように撫でるように柔らかく指を動かしていく、というものだ。

 こちらがその「Face Touching」である。

 実際に顔を触られているわけではないのに、その指の動きを見ていると肌がゾクゾクしてくるのだ。

 おそらく脳が何らかの錯覚を起こしていたのだろうけれど、それはとても心地がよくて、よく夜見ながら寝落ちをしていた。ただしずっと見ていると飽きてしまって、(だんだんと脳が錯覚を起こしにくくなってくるのか)初めて動画を見た時ほどの快感は薄らいでいく。

「この感覚がずっと続けばいいのにな」

 動画に飽きるたびに違うYoutuberの「Face Touching」動画を探しては消費ていた日々が懐かしい。

 今では見たい「Face Touching」も底をついてしまったが、もしかしたらこれからは、そんな動画サーフィンをしなくてもいい時代がやってくるかもしれない。


 こちらの記事によると、中国の研究チームが開発した特殊な装置を指先と手のひらにつけることによって、リアルな触覚を電気刺激で再現できるようになったらしい。

 この成果がどれくらいすごいかというと、通常電気刺激を皮膚を通して伝えるためには数百ボルトの電圧(調べたら、電流によっても影響が変わるが、おおよそ感電して体が動かせないレベルっぽい)が必要らしく、かなり危険とのこと。

 けれどこの研究チームは、電圧を皮膚にかける「範囲」と「時間」をめちゃくちゃ細かくコントロールすることで、安全な触覚装置を開発したらしい。

ミリメートル単位の空間分解能とサブミリ秒単位の時間精度で人の手に触覚を提示できる安全な電気触覚レンダリングシステム

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2211/04/news040.html


 デジタル世界への没入感をより高めることができるこのような技術の開発は、メタバースの時代にあって非常に価値がありそうだ。

 そして冒頭の話に戻るが、こういった触覚の再現ができる装置が一般に普及するようになれば、「マッサージの動画を見ながら実際に施術されている感覚を得る」ことも可能なわけだ。

 とても夢のある話である。

 これまでは、「現実」と「デジタル」の決定的な違いは、「実際の体験かどうか」だったかと思う。

 しかし人間の五感を再現できるようになってくるとなると、それはもはやただの概念でしかなくなってくるのかもしれない。

 「現実で旅行をすること」と「デジタルで旅行を体験すること」は何が違ってくるのか。

 徐々に、個人の一方的な体験は「デジタル」で置き換えられるようになり、「現実」という価値がしぼんでいく。

 最後に「現実」世界に残されるのは、生命創造の営みくらいか。

 そんな未来がやってくるとなると、何のために「現実」を生きなければならないのかと人生の迷子になりそうである…。

 あらゆるものが「デジタル」にお引っ越しをしていく中で、人間は最終的にどちらを選ぶのだろう。

 

 

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