ヨーロッパ退屈(するわけない)日記2024①

2024年6月6日12時8分(日本時間)、ロンドン行のブリティッシュエア機内にて記す。

機内で読んでいる中西輝政著『大英帝国衰亡史』によると、最盛期には世界人口の六分の一を支配した大英帝国衰退の真の原因は、世界大戦での敗戦や20世紀アメリカの台頭に伴う貿易上の損失だけではなく、何よりもその根底に、世界に冠たる大英帝国の民として、世界のリーダーとしての精神を失っていくことに求められるそうです。我が身に照らせば、日本も1990年代から現在まで続く「失われた30年」という経済的停滞から次の段階として、文化的閉じこもり、精神的な衰退という「終わりの始まり」ならぬ「終わりの終わり」に差し掛かっているかもしれません。ただ、これはあくまで全体論であり、ミクロでは面白い人も場所も日本にはたくさんあります。しかし、そんなマクロ的な「終わりの終わり」を迎えている僕らにも、希望が無いわけではありません。なぜなら、イギリスは1950年代に大国としての役割を終え、ひと足先に「終わりの終わり」を迎えたわけですが、その後も金融市場や音楽産業などいくつかの領域で存在感を示し続け、国家としての「威厳」を保ち続けているからです。これは先に挙げた歴史家、中西輝政に比べれば近視眼的な僕個人の展望ですが、イギリスは1990年代に、トニーブレア政権による、自国ユースカルチャーを巧に世界へ宣伝することで、経済に代わり文化的な「威厳」を示すというコンテンツ戦略、2012年のロンドンオリンピックにより街のジェントリフィケーションが進んだものの、「異端を吸収することで長期的な繁栄を築く」というイギリスの生来的な外交気質により、政治面では初のインド系首相スナークが2023年に選ばれ、文化面では、ジャマイカ移民など多様な文化的背景からサウスロンドンを中心に2010年代に新しいバンドが次々輩出されるなど、「終わりの終わり」の更にその先で新しい芽が育つサイクルに入っています。僕としても、これからの東京、日本を考えるにあたって、そうした「山あり谷ありのサイクルの中で何度も息を吹き返すイギリス」から何か持ち帰りたいと思っています。そのために今回の旅では、ロンドンで最も住みたい街に選ばれたハックニーを中心に、2010年代から発展しているオルタナティブロンドン、イーストロンドンでたっぷり遊んできます!
特に楽しみなのは、Hackney City Farmです。市民たちに動植物と触れ合う機会を提供することを目的とする市民農園Hackney City Farmには、地元の子供向けの陶芸教室から、豚や鶏の飼育場、カフェ、観光客向けの洒落た土産屋まで揃っており、近隣市民と観光客が共にチルできる、魅力的な場所です。2017年、ロンドンの親切な古着屋店員の薦めで初めてHackneyに辿り着いた時、僕はロンドン中心部の喧騒から離れた穏やかな田園的風景に引き込まれたことが思い出されます。ちなみに、Corneliusのメンバーに遭遇したのも、このHackneyです。
最後に、今回搭乗したブリティッシュエアについて一言。飛行機に乗ったらお馴染み、緊急時の注意事項を説明する動画が素晴らしいんです。単にキャビンアテンダントが説明するのではなく、サヴィルローの仕立て屋から漁師、スキンヘッズまで、イギリス中の多様な市民たちがその動画内で注意事項を説明してくれるという構成で、「やっぱりイギリスって良い国だなあ」と感心しちゃう動画です。搭乗する機会あればお見逃しなく。それではみなさん、素敵な週末を!

※言うだけ野暮なんですが、今回のタイトルは伊丹十三の名エッセイ『ヨーロッパ退屈日記』のオマージュです。

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