#2 2分間の花園
昨年度、第102回全国高等学校ラグビー大会1回戦、とある高校3年生の選手が前半2分に脳震盪の疑いで退場となり、チームはその試合に勝利するも、退場となった選手は大会規定により3週間出場停止となった。事実上彼の花園は終わった・・・。
彼の3年間は決して順風満帆ではなく、1,2年生時はほとんど出場機会がなく、3年生時にようやく掴んだ正スクラムハーフのポジションだった。進学校であったため、勉強と部活を両立させなければならず、朝は5時に起床、6時前の電車に乗車し1時間かけて学校へ到着、朝練、学校の授業、夕方練習、家に到着するのは20時30分、夕食、入浴を済ませ、22時30分から勉強を始め寝床に付くのは深夜1時~2時くらいだった。平日の平均睡眠時間は3~4時間程度であった。
これを3年間継続してきたのである。勉強と部活の両立だけでも、彼の人生にとっては良い経験となったはず。どこで生きていこうとも、少々のことではへこたれない大きな器を手に入れた。
そんな高校生活の中でつかんだ花園出場での1回戦、彼は相当の覚悟で臨んだに違いない。「ここで思いっきり暴れてやる!」「目標のベスト4を掴む!」
前半2分相手ボールのスクラムからナンバー8がスクラムの左サイドへボールを持ち込む。通常であれば、スクラムから少し離れた位置にポジショニングしている彼は、左肩でタックルに入らなければならない。しかし彼は、自身の体格と相手の体格を比較した際に、左肩でタックルに入っても弾かれて大きく突破されてしまうかもしれないと瞬時に判断し、右肩でタックル(いわゆる逆ヘッド=危険なプレー)に入ることで、確実に相手を止めようと考えたと想像する。
見事に相手ナンバー8を止めることができた。しかし彼はタックル後しばらく動けず倒れたまま、10秒弱で立ち上がったもののふらついている、ドクターが近づき彼に2,3の質問をした後、本部席に向けバツのシグナルを送るドクター、ここで退場を命じられる・・・。
次の日から彼はチームのサポートへ回り、彼の交代で出場する選手へのアドバイス、試合前にチームを鼓舞するなど、この短時間で自分がチームにできることを考え、行動を起こす。決して気持ちの切り替えはできていないと思うが、今自分に何ができるのかを考えた上での行動であった。ここでも彼は大きく成長できたのである。
私は彼に起こった現実は決して悲劇ではなく、誰にも経験できない試練を彼は経験できたのである。
これはこれからの彼の人生において、マイナスと捉えるのか?プラスと考えるのか?
後者であってほしい!
彼は現在大学1年生、将来掴みたい夢のために勉学に励んでいる。
そして、決して全国トップのレベルではないが、大好きなラグビーを続けることができた。
花園出場時間2分だけではあったが、されど2分間の出場で彼の逃げずに立ち向かった姿に感動した瞬間であった。